1 / 2
青天の霹靂
しおりを挟む
その日、わたしは掃除や洗濯などの家事を一通り終え、休日の残りをのんびり過ごそうとしていた。
そこに、不意に妙な音が聞こえてきた。じょぼぼぼ……と水が流れるような音だが、これまで部屋の中では聞いたことのない音だ。
洗面所の方から聞こえる。他の部屋から響いてくる、洗濯機か何かの排水の音に似ている気がするが、それよりは近くから聞こえてくる気がした。
ともかく、発生源を特定しようと、洗面所に向かった。
洗濯機周りを確認するが、異変はない。水道の蛇口も閉まっている。しかし、音は聞こえる。やっぱり近くからだ。
これは一体……?
不思議に思いながら、隣接するトイレのドアを開けた。すると。
「――?!」
トイレの天井に空いた換気扇の通風孔から、水が滝のように流れ落ちてきているではないか。
えっ、なにこれ? どうしよう??
一瞬パニックに陥りかけたが、その何秒か後にはなんと、廊下を挟んだダイニングキッチン全体に、水が降り注ぎ始めた。
(軽く説明しておくと、うちは賃貸マンション。間取りは2DKで、ダイニングキッチンと、そこに隣接する一部屋の間の扉を常に開けてLDKのようにし、廊下を挟んで風呂・トイレがある。残りの一部屋が寝室になっている。)
いやちょっと待ってマジナニコレ。わけがわからないよ!!
とりあえず、パソコンや床に積んだ本を守らなくてはと、タオルをかけた。しかし、その間にも降ってくる水の量は増えてくる。ゲリラ豪雨とまではいかないが、なかなかの降水量だった。
慌てふためく頭でスマホを手に取り、不動産屋に電話をかけた。ワンコールで出てくれた不動産屋のお姉さん。定休日じゃなくてよかった。
「あのっ、上から水漏れしてきたんですけどっ」
冷静に対処しようとしたが、声が上ずる。
不動産屋のお姉さんはすぐに事態を察し、上の部屋の住人や、大家さんに連絡を取ってくれるようだった。
そうこうするうちに、床は既に水浸し。折り返しの電話を待ちながら、被害を最小限に食い止めるため、水を拭き取ろうと試みる。落ちてきているのが何の水かわからないし、そのままでは自分もびしょぬれになってしまうので、レインコートを装備した。部屋の中でレインコートを着る変な人が爆誕した。
後で考えたら、風呂場の洗面器とかを使えばよかったと思うのだが、そこまで頭が回らなかった。
家にあるほとんどのタオルを床に敷き詰め、絞っては拭く作業を繰り返す。
しかしそのうちに、
「?!」
不意にブツッという嫌な音と共に、電気が消えた。
まさか、電気系統がやられた?! だったら直るまでホテル暮らしになる可能性も浮上か?!
暗くてよく見えない中(うちは角部屋でもなく、日当たりが悪い)、懐中電灯で照らしながら、とにかく作業を続けた。とはいっても、降り注ぐ水を防ぐのには全く追いつかない。
少しして、不動産屋から折り返しの電話がかかってきた。
どうやら、上の部屋で洗濯機の排水管が詰まり、盛大に水漏れを起こしたようだった。洗濯機の運転は止めたので、じきにこちらの水漏れも収まるだろうと。水道管の破裂とかじゃなくてよかった。
水道屋さんを手配しているから、また連絡があるとのことだった。電気が消えた旨を伝えたら、電気屋さんも手配してくれることになった。
とりあえず、怖いのでブレーカーを落とした。
やがて水は止まったが、水浸しの部屋を前に、わたしは疲れて茫然としていた。
幸いというか、被害はDK部分だけだったので、隣接する部屋にしばし座り込んだ。
「なんか上から水漏れしてきた。泣きたい」
と、仕事に行っている相方にLINEでメッセージを入れる。
しかし、そんなことをしても事態は変わらない。休日で家にいて、すぐに対処できたことを、不幸中の幸いと思うしかなかった。
『希望は残っているよ。どんな時にもね』
心の中に渚カヲル君(新劇場版の方)を召喚し、慰めてもらいながら片付けを再開した。保険の請求で必要になるだろうから、部屋の様子はスマホのカメラに収める。
パソコンやキッチンの家電にはさほど水がかからなかったので、壊れずに済んだ。ティッシュのような細々したものはダメになったので、ゴミ箱に放り込む。
びしょぬれになったカーペットをベランダに干し、タオルで床を拭いては絞り、また拭く作業を繰り返す。
猫様がいつもいる部屋に被害はなかった。
我が家のおキャット様は、テンパる人間を「何を騒いでいるんだ?」と横目で見つつ、いつものように悠然と佇んでいた。
変わらない彼の姿が、救いだった。
続く
そこに、不意に妙な音が聞こえてきた。じょぼぼぼ……と水が流れるような音だが、これまで部屋の中では聞いたことのない音だ。
洗面所の方から聞こえる。他の部屋から響いてくる、洗濯機か何かの排水の音に似ている気がするが、それよりは近くから聞こえてくる気がした。
ともかく、発生源を特定しようと、洗面所に向かった。
洗濯機周りを確認するが、異変はない。水道の蛇口も閉まっている。しかし、音は聞こえる。やっぱり近くからだ。
これは一体……?
不思議に思いながら、隣接するトイレのドアを開けた。すると。
「――?!」
トイレの天井に空いた換気扇の通風孔から、水が滝のように流れ落ちてきているではないか。
えっ、なにこれ? どうしよう??
一瞬パニックに陥りかけたが、その何秒か後にはなんと、廊下を挟んだダイニングキッチン全体に、水が降り注ぎ始めた。
(軽く説明しておくと、うちは賃貸マンション。間取りは2DKで、ダイニングキッチンと、そこに隣接する一部屋の間の扉を常に開けてLDKのようにし、廊下を挟んで風呂・トイレがある。残りの一部屋が寝室になっている。)
いやちょっと待ってマジナニコレ。わけがわからないよ!!
とりあえず、パソコンや床に積んだ本を守らなくてはと、タオルをかけた。しかし、その間にも降ってくる水の量は増えてくる。ゲリラ豪雨とまではいかないが、なかなかの降水量だった。
慌てふためく頭でスマホを手に取り、不動産屋に電話をかけた。ワンコールで出てくれた不動産屋のお姉さん。定休日じゃなくてよかった。
「あのっ、上から水漏れしてきたんですけどっ」
冷静に対処しようとしたが、声が上ずる。
不動産屋のお姉さんはすぐに事態を察し、上の部屋の住人や、大家さんに連絡を取ってくれるようだった。
そうこうするうちに、床は既に水浸し。折り返しの電話を待ちながら、被害を最小限に食い止めるため、水を拭き取ろうと試みる。落ちてきているのが何の水かわからないし、そのままでは自分もびしょぬれになってしまうので、レインコートを装備した。部屋の中でレインコートを着る変な人が爆誕した。
後で考えたら、風呂場の洗面器とかを使えばよかったと思うのだが、そこまで頭が回らなかった。
家にあるほとんどのタオルを床に敷き詰め、絞っては拭く作業を繰り返す。
しかしそのうちに、
「?!」
不意にブツッという嫌な音と共に、電気が消えた。
まさか、電気系統がやられた?! だったら直るまでホテル暮らしになる可能性も浮上か?!
暗くてよく見えない中(うちは角部屋でもなく、日当たりが悪い)、懐中電灯で照らしながら、とにかく作業を続けた。とはいっても、降り注ぐ水を防ぐのには全く追いつかない。
少しして、不動産屋から折り返しの電話がかかってきた。
どうやら、上の部屋で洗濯機の排水管が詰まり、盛大に水漏れを起こしたようだった。洗濯機の運転は止めたので、じきにこちらの水漏れも収まるだろうと。水道管の破裂とかじゃなくてよかった。
水道屋さんを手配しているから、また連絡があるとのことだった。電気が消えた旨を伝えたら、電気屋さんも手配してくれることになった。
とりあえず、怖いのでブレーカーを落とした。
やがて水は止まったが、水浸しの部屋を前に、わたしは疲れて茫然としていた。
幸いというか、被害はDK部分だけだったので、隣接する部屋にしばし座り込んだ。
「なんか上から水漏れしてきた。泣きたい」
と、仕事に行っている相方にLINEでメッセージを入れる。
しかし、そんなことをしても事態は変わらない。休日で家にいて、すぐに対処できたことを、不幸中の幸いと思うしかなかった。
『希望は残っているよ。どんな時にもね』
心の中に渚カヲル君(新劇場版の方)を召喚し、慰めてもらいながら片付けを再開した。保険の請求で必要になるだろうから、部屋の様子はスマホのカメラに収める。
パソコンやキッチンの家電にはさほど水がかからなかったので、壊れずに済んだ。ティッシュのような細々したものはダメになったので、ゴミ箱に放り込む。
びしょぬれになったカーペットをベランダに干し、タオルで床を拭いては絞り、また拭く作業を繰り返す。
猫様がいつもいる部屋に被害はなかった。
我が家のおキャット様は、テンパる人間を「何を騒いでいるんだ?」と横目で見つつ、いつものように悠然と佇んでいた。
変わらない彼の姿が、救いだった。
続く
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。
紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。
アルファポリスのインセンティブの仕組み。
ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。
どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。
実際に新人賞に応募していくまでの過程。
春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)
100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて
ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
オリジナルエロ小説でお金を稼ぐ忘備録
どん丸
エッセイ・ノンフィクション
ノクターンノベルズに始まりpixiv、fantia、FANBOX、DLsite、FANZA、そしてアルファポリスでオリジナルエロ小説を書いて儲けはどんな感じかの忘備録。あくまでも忘備録でこうするといいよ!みたいな話ではありません。書いているのがエロ小説という都合上ちらっとエロ用語が入るのでR15にしています。月の売り上げが出るタイミングで更新します。
心中雪-my heart is always in the snow-
みほこ
エッセイ・ノンフィクション
全て実話です
今までの自分の人生で起こった出来事
毒親のもと育ち
貧乏で風呂無しのまま9歳までを○○○がいるような家で過ごし
虐めにあった学生時代
社会人になっても変わらず毒親&陰湿な虐め
21歳の時に○○
そして夜の蝶へ…
結婚もして子供ができ、今度こそ幸せになれるはずだったのに…
こんな事が起こるなんて…
それでも一度も自殺だけは考えなかった
どんなに辛くても、明るく生きたい
タイトルの心中雪は
心はいつも雪の中
my heart is always in the snow
自分の気持ちを押し殺して生きてきた
ひとりで抱え込んで、悩んでいた自分を比喩してみました
今なら言える
「あなたはひとりじゃないよ
ひとりで悩まないでいいよ」
色んなことが、ふと、気になって
小椋夏己
エッセイ・ノンフィクション
日常生活で、ふと「そういえば」と思いついたことを書きます。
不定期、本当に「ふと……」思いついた時に更新。
2023年5月15日(月)タイトルを「ふと……」から「色んなことが、ふと、気になって」に変更しました。
「黒のシャンタルシリーズ」という長編ファンタジーを書いています。
主人公トーヤが過去の不思議な出来事を語る第一部「過去への旅」
不思議な国に戻るトーヤと仲間たちの未来への船出の第二部「新しい嵐の中へ」を完結し、
現在は第三部「シャンタリオの動乱」を連載中です。
こちらもよろしくお願いいたします。
※「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」「ノベルアップ+」で公開しています。
Breathe 〜僕の生きてきた時間〜
いろすどりあ
エッセイ・ノンフィクション
この物語は事実に基づいたフィクションです。
『僕』はごく平凡な家庭に生まれ、ごく普通の生活を送ってきた。…あの時までは。
幸せな日々を送ることができますように…
アルファポリスとカクヨムの違い。インセンティブ&リワード、ランキングの事など
うし。
エッセイ・ノンフィクション
ずっと小説サイトでは読むだけだった読み専が自作小説を書いて1ヵ月。
同じ内容の作品をアルファポリスとカクヨムに投稿した結果、一体どうなったのか?
2つのサイトに違いはあるのか? そしてインセンティブやリワードはどうなっているのだろう。
一切何もない状態から投稿を初めて1ヵ月の話とデータ。そしてそれらに対して考えた事や思った事を書き連ねています。
あくまでこちらの体験と思った事が含まれますので、違う状況になる方もいる事はご了承下さい。
リワードの確定を待っていた事もあり(結局2か月後であきらめ)投稿から1ヵ月半後の話も交じります。
割と赤裸々に自分のデータを見せる事になるので恥ずかしく、タグなんかは少なくします。じゃあ書くなよって? 知りたい人がいるかなーと思ったんです。
という訳で閉じる可能性も多分に含まれますし、続きが書かれる事もあるかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる