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第四章 憂いと光と
エピローグ
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指揮官を討ち取られた帝国の兵士たちは、次々に投降、あるいは敗走していった。帝国軍は撤退していき、戦はレーヴェの勝利となった。
「皆の者、よく戦った!」
ユリウス王子は勝利を宣言し、兵士たちも歓声を上げて答えた。
辛くも勝利を収めたとはいえ、死者や負傷者も少なくはなかった。脅威も完全に去ったわけではない。これからはしばらく、にらみ合いが続くだろう。
今回の件に関わったルーサー卿にも、何らかの処分を下さねばならないが、罪状を固めるのに難儀しそうだ。加えて、国内の情勢にも気を配らなければならない。課題は山積みだった。
「しかしまあ、こうして命があるのだ。今はそれでよしとしようじゃないか」
ユリウス王子は豪胆に笑う。その傍らで、アーネストは眉根を寄せた。
「あまり危険な真似をするのは控えてください。こちらの心臓が持ちません」
「固いことを言うな」
反省した様子のないユリウス王子に、アーネストは溜め息を吐いた。
そんな主従の様子を見ていたエディリーンは、小さく肩をすくめる。
「では、わたしはこれで」
報酬も受け取ったし、あとは帰るだけのエディリーンだった。報酬は、しばらくは優に暮らせるくらいの額があった。
エディリーンは、普段はベアトリクスの手伝いをしたり、旅の隊商の護衛をしたりして暮らしている。戦場を渡り歩く傭兵ではない。余程のことがなければ、もう会うことはないだろう。
帰ろう、と一緒に行動していたジルを促す。ジルも「それでは」と頭を下げ、踵を返そうとするが、
「そうだ、エディリーン嬢」
呼び止められて、エディリーンは怪訝な顔で振り返る。
「そなた、このまま俺の元で働かないか? ちょうど宮廷魔術師も空席になったことだし」
「はあ?」
思わず素っ頓狂な声を上げるエディリーンに、ジルはおかしそうに言う。
「すごいな。大出世じゃないか」
「ご冗談を」
間髪入れずに、エディリーンは返す。
「どこの馬の骨とも知れない庶民が、王宮勤めなんてできるわけないでしょう」
「どうとでもねじ込んでやるさ。俺は実力のある者は、誰であろうと評価したいのだ」
エディリーンは何と言い返したものか逡巡しているようで、口をぱくぱくさせている。次いでアーネストに視線を移し、この王子をなんとかしろと目で訴える。
「……殿下、お戯れもほどほどに」
アーネストがたしなめるが、
「俺は本気だ」
にやにやした笑みを浮かべているが、目は真剣そのもので、その言葉に嘘はないようだった。
「嫌です。面倒事になる未来しか見えないでしょう!」
「そう言わずに。考えてみてはくれないか」
「殿下……。無理強いはよくありません」
エディリーンの足元に跪いてその手を取りそうな勢いで迫るユリウス王子を止めつつ、アーネストもしかし、彼女と共に戦えたら心強いかもしれない、と少し思うのだった。
「絶対に、嫌だ!!」
少女の叫びが、晴れた空にこだました。
第一部 了
「皆の者、よく戦った!」
ユリウス王子は勝利を宣言し、兵士たちも歓声を上げて答えた。
辛くも勝利を収めたとはいえ、死者や負傷者も少なくはなかった。脅威も完全に去ったわけではない。これからはしばらく、にらみ合いが続くだろう。
今回の件に関わったルーサー卿にも、何らかの処分を下さねばならないが、罪状を固めるのに難儀しそうだ。加えて、国内の情勢にも気を配らなければならない。課題は山積みだった。
「しかしまあ、こうして命があるのだ。今はそれでよしとしようじゃないか」
ユリウス王子は豪胆に笑う。その傍らで、アーネストは眉根を寄せた。
「あまり危険な真似をするのは控えてください。こちらの心臓が持ちません」
「固いことを言うな」
反省した様子のないユリウス王子に、アーネストは溜め息を吐いた。
そんな主従の様子を見ていたエディリーンは、小さく肩をすくめる。
「では、わたしはこれで」
報酬も受け取ったし、あとは帰るだけのエディリーンだった。報酬は、しばらくは優に暮らせるくらいの額があった。
エディリーンは、普段はベアトリクスの手伝いをしたり、旅の隊商の護衛をしたりして暮らしている。戦場を渡り歩く傭兵ではない。余程のことがなければ、もう会うことはないだろう。
帰ろう、と一緒に行動していたジルを促す。ジルも「それでは」と頭を下げ、踵を返そうとするが、
「そうだ、エディリーン嬢」
呼び止められて、エディリーンは怪訝な顔で振り返る。
「そなた、このまま俺の元で働かないか? ちょうど宮廷魔術師も空席になったことだし」
「はあ?」
思わず素っ頓狂な声を上げるエディリーンに、ジルはおかしそうに言う。
「すごいな。大出世じゃないか」
「ご冗談を」
間髪入れずに、エディリーンは返す。
「どこの馬の骨とも知れない庶民が、王宮勤めなんてできるわけないでしょう」
「どうとでもねじ込んでやるさ。俺は実力のある者は、誰であろうと評価したいのだ」
エディリーンは何と言い返したものか逡巡しているようで、口をぱくぱくさせている。次いでアーネストに視線を移し、この王子をなんとかしろと目で訴える。
「……殿下、お戯れもほどほどに」
アーネストがたしなめるが、
「俺は本気だ」
にやにやした笑みを浮かべているが、目は真剣そのもので、その言葉に嘘はないようだった。
「嫌です。面倒事になる未来しか見えないでしょう!」
「そう言わずに。考えてみてはくれないか」
「殿下……。無理強いはよくありません」
エディリーンの足元に跪いてその手を取りそうな勢いで迫るユリウス王子を止めつつ、アーネストもしかし、彼女と共に戦えたら心強いかもしれない、と少し思うのだった。
「絶対に、嫌だ!!」
少女の叫びが、晴れた空にこだました。
第一部 了
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