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第二章 逆光の少女
#2
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しばらく歩くと森を抜け、街道に出た。
砦までは徒歩で三日ほど。アーネストは途中まで馬で来ていたが、襲撃のせいで失ってしまっていた。
エドワードは変わらずフードを被って歩いていた。暑苦しくはないのかとアーネストは思うが、エドワードは平然としている。
道中、再びの襲撃を警戒していたが、特に異変はなく、天候にも恵まれる中、二人は南に向けて歩き続けた。
日が落ちる頃、小さな街に着いた。野宿は免れることができそうだ。夕食時で、あちこちの家から料理の匂いが漂い、露店も軽食や弁当を買い求める男たちで賑わっていた。
二人は宿を探し、部屋を取ろうとした。ところが、
「一部屋しか空いていない?」
「はい。今日はあいにく、盛況をいただいておりまして……」
二部屋取りたいと言ったアーネストに、宿屋の主人は申し訳なさそうに言う。アーネストは傍らの少年を振り返り、
「どうする?」
この街に、他に宿屋はないようだった。
「別に問題ないだろう」
少年は何でもないように答える。
「いや、しかし……」
困ったように言い募ろうとするアーネストを、エドワードはじろりと睨む。
「何か、問題でも?」
「……君がいいなら、いいんだが……」
フードの下から覗く深淵のような瞳に気圧され、アーネストはそれ以上言うのをやめた。
宿代を支払い、部屋に通してもらう。
通されたのは、二階の一室だった。寝台が二つあるだけの、簡素な部屋だった。窓辺には小さなテーブルがあり、水差しが置かれている。
「なんだ、貴族のお坊ちゃんは、こんな狭いところに泊まるのは嫌なのか?」
あからさまな嫌味は無視し、
「そういうわけではない。これでも軍人だからな。野宿だって慣れている」
アーネストが懸念しているのはそこではないのだが、エドワードが触れないのであれば、それ以上は何も言えなかった。
二人は階下の食堂で食事を摂って、早々に就寝した。必要な情報交換以外、交わされる言葉は少ない。
そして深夜、明かりの消えた窓の下に忍び寄る影があった。黒装束に身を包み、顔を隠している。
人影は二つ。周囲を警戒しながら、窓から目標の部屋に侵入する。
侵入者は、目標の二人が寝息を立てているのを確認すると、その首筋に、銀色に光る細い刃を突き立てようとした。
瞬間、
「――!」
侵入者たちの手から、刃が弾かれた。
アーネストとエドワードは素早く起き上がって侵入者を捕えようとするが、すんでのところで距離を取られてしまう。
「なんだ、起きてたのか」
エドワードは短剣の切っ先を襲撃者たちに向けながら、アーネストを横目で見やる。
「君こそ。流石だな」
一応眠ってはいたのだが、二人とも何かあればすぐに起きて行動できるよう訓練を積んでいた。
短く言葉を交わす間に、初手で目的を果たしそびれた襲撃者も、態勢を整えていた。
「ただの野盗じゃなさそうだな」
「ああ。俺たちが狙いだろうな」
「最初にあんたを襲っていた連中と同じか? だとすれば第一王子派の人間か?」
襲撃者は、二人に向かって鋭く腕を振る。その手から放たれたのは、細い銀色の刃だった。
二人はそれぞれ、短剣でそれを難なく打ち落とす。
「ここで戦うのは不利だ」
周りにも被害が及ぶことは避けたい。
「わかってる!」
アーネストが言うと、少年もそれに同調する。
二人は荷物を掴んで窓から飛び降りた。
最初に助けられた時も思ったが、この少年、かなりの使い手のようだった。戦いを切り抜けるために考えることも似ているようだ。
地面に降り立った瞬間、
「伏せろ!」
エドワードが叫んで、掌を前に掲げる。
その刹那、遠くから光の矢が飛んできたが、エドワードが展開した障壁によって霧散する。
「走るぞ!」
エドワードが先に駆け出す。アーネストもその後に続いた。
砦までは徒歩で三日ほど。アーネストは途中まで馬で来ていたが、襲撃のせいで失ってしまっていた。
エドワードは変わらずフードを被って歩いていた。暑苦しくはないのかとアーネストは思うが、エドワードは平然としている。
道中、再びの襲撃を警戒していたが、特に異変はなく、天候にも恵まれる中、二人は南に向けて歩き続けた。
日が落ちる頃、小さな街に着いた。野宿は免れることができそうだ。夕食時で、あちこちの家から料理の匂いが漂い、露店も軽食や弁当を買い求める男たちで賑わっていた。
二人は宿を探し、部屋を取ろうとした。ところが、
「一部屋しか空いていない?」
「はい。今日はあいにく、盛況をいただいておりまして……」
二部屋取りたいと言ったアーネストに、宿屋の主人は申し訳なさそうに言う。アーネストは傍らの少年を振り返り、
「どうする?」
この街に、他に宿屋はないようだった。
「別に問題ないだろう」
少年は何でもないように答える。
「いや、しかし……」
困ったように言い募ろうとするアーネストを、エドワードはじろりと睨む。
「何か、問題でも?」
「……君がいいなら、いいんだが……」
フードの下から覗く深淵のような瞳に気圧され、アーネストはそれ以上言うのをやめた。
宿代を支払い、部屋に通してもらう。
通されたのは、二階の一室だった。寝台が二つあるだけの、簡素な部屋だった。窓辺には小さなテーブルがあり、水差しが置かれている。
「なんだ、貴族のお坊ちゃんは、こんな狭いところに泊まるのは嫌なのか?」
あからさまな嫌味は無視し、
「そういうわけではない。これでも軍人だからな。野宿だって慣れている」
アーネストが懸念しているのはそこではないのだが、エドワードが触れないのであれば、それ以上は何も言えなかった。
二人は階下の食堂で食事を摂って、早々に就寝した。必要な情報交換以外、交わされる言葉は少ない。
そして深夜、明かりの消えた窓の下に忍び寄る影があった。黒装束に身を包み、顔を隠している。
人影は二つ。周囲を警戒しながら、窓から目標の部屋に侵入する。
侵入者は、目標の二人が寝息を立てているのを確認すると、その首筋に、銀色に光る細い刃を突き立てようとした。
瞬間、
「――!」
侵入者たちの手から、刃が弾かれた。
アーネストとエドワードは素早く起き上がって侵入者を捕えようとするが、すんでのところで距離を取られてしまう。
「なんだ、起きてたのか」
エドワードは短剣の切っ先を襲撃者たちに向けながら、アーネストを横目で見やる。
「君こそ。流石だな」
一応眠ってはいたのだが、二人とも何かあればすぐに起きて行動できるよう訓練を積んでいた。
短く言葉を交わす間に、初手で目的を果たしそびれた襲撃者も、態勢を整えていた。
「ただの野盗じゃなさそうだな」
「ああ。俺たちが狙いだろうな」
「最初にあんたを襲っていた連中と同じか? だとすれば第一王子派の人間か?」
襲撃者は、二人に向かって鋭く腕を振る。その手から放たれたのは、細い銀色の刃だった。
二人はそれぞれ、短剣でそれを難なく打ち落とす。
「ここで戦うのは不利だ」
周りにも被害が及ぶことは避けたい。
「わかってる!」
アーネストが言うと、少年もそれに同調する。
二人は荷物を掴んで窓から飛び降りた。
最初に助けられた時も思ったが、この少年、かなりの使い手のようだった。戦いを切り抜けるために考えることも似ているようだ。
地面に降り立った瞬間、
「伏せろ!」
エドワードが叫んで、掌を前に掲げる。
その刹那、遠くから光の矢が飛んできたが、エドワードが展開した障壁によって霧散する。
「走るぞ!」
エドワードが先に駆け出す。アーネストもその後に続いた。
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