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大吉? 大凶?

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 去年の学生選抜の時、じん帯をやった。今年は、だましだましやっていたが、ついに夏に切っちまって、最近、やっとギブスが外れたばかりだ。日常生活には支障がないので安心してくれと、執刀医の先生はにこやかに説明してくれた。
 俺の生活の中からバスケットボールが欠けていった……。
 悪友たちは、高校時代同じバスケ部だった連中だが、もうバスケをやっているヤツはいない。いい加減で、バカをやって騒いで、そのバカさ加減が俺には眩しかった。
「バカは、バカらしく、気を使ってくれてんだろうな……」口に出しては言わない、こいつらに感謝の言葉なんて言ったら、どんだけ冷やかされるか、たまったもんじゃない。
 俺は無言で空になったコーヒーカップを手に、ドリンクバーへと向かった。

 † † †
 
 わたしは、初めての店のドリンクバーを目の前にしてまごついていました。アイス用のガラスのコップは目の前に並んでいるのですが、ホットを入れるカップが見当たりません。
 目を泳がせ立ちすくんでいると、声をかけられて驚きました。けっして、驚くほどの大きな声ではなかったのですが、その声が後ろからではなく、わたしの頭の上からだったことに驚いてしまいました。
 恐る恐る見上げると、そこには山のような大きさの男の人が、わたしを見下ろしていて、思わず固まってしまいました。小動物が丸くなって死んだふりをする気持ちが分かった気がします。
「ホットのカップなら、下の引き出しだ」そう言って、その人は引き出しを開けてくれました。
「す、すいません」
 わたしはどうにかお礼の言葉を引き出せましたが、その後の会話など、そう簡単には出来ずに、わたし達は、そのまま元の席に戻ったんです。
 目が合った向かいの彼は、目礼をしてくれました。怖そうですが礼儀正しい人のようでした。

 あいつとは違って。

 ふいに、あいつの事を思い出しました。濁った目でわたしに暴言を叩きつける。そして、手を上げた……。
 どす黒いものが、わたしのなかに波紋を広げました。
 そして広がっていく。
 その中に沈んでしまう。
 助けて、誰か……。
 助けて、誰か……。

「どうした? 顔、真っ青だぞ」
 そんな心配気な向かいの席の彼の言葉に、わたしは現実に引き戻されます。
 となりの友人の握ってくれた手がとても温かく感じられました。
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