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第四章 窓辺のコッペリア
03 ビスクドール
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――― 私たちはどこから来てどこへ行くのでしょか? みんなバラバラになってしまうのでしょうか?
◇ Real world ◇
志乃と一郎はそれぞれの準備を完了して、小雪の指示で動き出そうとしていた。一方、恵は怪談話をまだ引きずっているようだった。
「メグ、私たちだけでも始めちゃうよ! 貴方はどうするの?」
「君がメインなんだから頑張って!」
二人に背中を押されるように恵も一歩踏み出す。
「これ、貴方のお父さんから預かったんだよ!」志乃が恵に渡したモノを指さす。
「許可が下りたんだから、頑張らないと!」
「うん! 分かった」
恵は気持ちを吹っ切るようにそれを両手に付ける。
黒光りする、ナックルダスター(メリケンサック)だ!
「よし! これで三倍・界王拳まで打てるぞ」やっと少しはいつもの恵に戻った様だった。
これで三人の準備は整う。
「金城さん! あの鎧の弱点はどこですか?」志乃は金城に解説を求めた。
「見たことのないタイプだけれども、心臓部分の集積回路は胴体の真ん中にあるはずだ!」
「胴体ですね! 分かりました」
「メグ! 左の一体は二人で押さえておくから。右を先にヨロシクね!」
「あいよ!」返事と同時に恵が走り出した!
制圧開始だ!
志乃は、アーチェリーの矢を迷い無く左の鎧の顔面に突き刺し、右の膝、左の膝と次々に突き刺していく。
一方、一郎はドローンでワイヤーを打ち出し左の鎧の足を束ねた。左の鎧はたまらず転倒する。
もう一方の右の鎧は、一直線に飛び込んでいく恵に対して大剣を振りかぶった。
「遅いよ! それに大振りすぎる!」
横にスライドした恵に簡単に避けられたと同時に、右手を砕かれ大剣が転がった。
右の鎧が胸を打ち抜かれて倒れる時には、もう恵は転がっている左の鎧の胸に正拳を打ち込んでいた。
「なんだ……二倍・界王拳までしか使えなかったよ。残念」
意味不明な事を言いながらも、恵はご満悦だった。
金城優作は、初めて恵の実力を見て空いた口が塞がらないでいる。
(まあ、みんなそうよね! 最初はわたしも信じられなかったもの……小雪はそう思った)
☆☆ ☆☆
玄関に捜査一課の三人と高校生三人、それに金城と小雪の総勢八人が揃った。
「金城さん! 簡単に部屋の間取りを教えて下さい」
原田が唯一この家に入ったことのある金城に聞く。
「詳しくは分かりませんが、入ってすぐ広い踊り場と階段、一階にはリビング、キッチン。二階に先生の部屋と奥に研究室でしょうか?」
「私も十年以上前にお邪魔したきりですから……」古い話だが全くないよりはまだましだ。
「まず、ドローン入れましょうか?」一郎が提案する。
「そうだな、廊下だけでも見回ってくれ!」
「分かりました!」
ドローンは廊下、階段、二階まで飛んで戻って来た。特に問題はなかった。
いよいよ、全員が屋敷の中へ足を踏み入れる。
「金城さんと高校生はここで待っていてくれ」
「え! どうして?」恵は不満そうだ。
「遺体とか、もしかして出た場合。子供たちや一般人には見せらないでしょう?」
小雪が具体的に説明する。
「最悪あり得ると考えているのですね?」
金城は不安げに小雪に問いかけた。
「もしもの事です。一応考慮しておかないといけませんから」
万が一のことを考えての対応だ。
結局、金城と三人は最初に原田たちが中を確認した、一階のリビングで待つこととなる。
リビングは埃もなく綺麗な状態であった。ただ……ここには……。
「金城さん! 前にここには来ているんですよね?」志乃が尋ねた。
「ああ! でもその頃はまだ、小さいのが並んでいたぐらいだったんだけど……」
リビングには大小様々な大きさのビスクドールが並んで座っていた。
「亡くなった奥さんの趣味でね。ヨーロッパ製の人形を集めていたんだよ……でも、ここまでとは……」金城もさすがに驚いている。
特に、最前列には等身大のビスクドールが三体並んで座っていた。
紫色、ピンク色、水色のそれぞれ髪の毛と同じ色合いのドレスを着ている。
「いっちゃん! 今日の話と同じじゃない?これ……」
恵は今日聞いた怪談話を連想して一郎の後ろに隠れてしまった。
「メグ! ほら、動き出さないから安心だよ!」そう言って、一郎は右端の水色の髪の人形の頭を触った。
(あれ? 一瞬、人形の眉が動いたような気がしたけど……錯覚かな? きっと、そうだね……)一郎は一人で勝手に納得する。
しばらくして、原田たちは二階から戻って来た。
「やはり、無人だ! 荒らされた形跡も無い。明日、鑑識を連れて来るから。今日はここまでだな」
撤収の合図でみんなリビングから出て行く、最後に恵が部屋から出ようとした時……。
「メグ! 行っちゃうの?」
「メグ! 連れてってよ!」
「……髪の毛触らないでよ、バカ……」
恵は誰も居ないはずの部屋からの声に呼び止められた……!
「出たー!! ギャー!」
屋敷中を揺らすぐらいの恵の悲鳴が響き渡った。
☆☆ ☆☆
恵の大絶叫に驚いて戻って来た全員の前に、三体のビスクドールがゆっくりとした歩調でリビングから出てくる。
原田たち刑事もみんな驚いて無言で固まった。
ただ一人、驚いてはいるが、興奮して声を上ずらせながら人形たちに問いかけた男がいた。金城である。
「君たちは大久保先生の作った自動人形(オートマタ)なんだね!」
紫色のドレスを着たビスクドールが代表して答える。
「わたしたちは大久保教授(マスター)の最高傑作、コッペリアよ!」
◇ Real world ◇
志乃と一郎はそれぞれの準備を完了して、小雪の指示で動き出そうとしていた。一方、恵は怪談話をまだ引きずっているようだった。
「メグ、私たちだけでも始めちゃうよ! 貴方はどうするの?」
「君がメインなんだから頑張って!」
二人に背中を押されるように恵も一歩踏み出す。
「これ、貴方のお父さんから預かったんだよ!」志乃が恵に渡したモノを指さす。
「許可が下りたんだから、頑張らないと!」
「うん! 分かった」
恵は気持ちを吹っ切るようにそれを両手に付ける。
黒光りする、ナックルダスター(メリケンサック)だ!
「よし! これで三倍・界王拳まで打てるぞ」やっと少しはいつもの恵に戻った様だった。
これで三人の準備は整う。
「金城さん! あの鎧の弱点はどこですか?」志乃は金城に解説を求めた。
「見たことのないタイプだけれども、心臓部分の集積回路は胴体の真ん中にあるはずだ!」
「胴体ですね! 分かりました」
「メグ! 左の一体は二人で押さえておくから。右を先にヨロシクね!」
「あいよ!」返事と同時に恵が走り出した!
制圧開始だ!
志乃は、アーチェリーの矢を迷い無く左の鎧の顔面に突き刺し、右の膝、左の膝と次々に突き刺していく。
一方、一郎はドローンでワイヤーを打ち出し左の鎧の足を束ねた。左の鎧はたまらず転倒する。
もう一方の右の鎧は、一直線に飛び込んでいく恵に対して大剣を振りかぶった。
「遅いよ! それに大振りすぎる!」
横にスライドした恵に簡単に避けられたと同時に、右手を砕かれ大剣が転がった。
右の鎧が胸を打ち抜かれて倒れる時には、もう恵は転がっている左の鎧の胸に正拳を打ち込んでいた。
「なんだ……二倍・界王拳までしか使えなかったよ。残念」
意味不明な事を言いながらも、恵はご満悦だった。
金城優作は、初めて恵の実力を見て空いた口が塞がらないでいる。
(まあ、みんなそうよね! 最初はわたしも信じられなかったもの……小雪はそう思った)
☆☆ ☆☆
玄関に捜査一課の三人と高校生三人、それに金城と小雪の総勢八人が揃った。
「金城さん! 簡単に部屋の間取りを教えて下さい」
原田が唯一この家に入ったことのある金城に聞く。
「詳しくは分かりませんが、入ってすぐ広い踊り場と階段、一階にはリビング、キッチン。二階に先生の部屋と奥に研究室でしょうか?」
「私も十年以上前にお邪魔したきりですから……」古い話だが全くないよりはまだましだ。
「まず、ドローン入れましょうか?」一郎が提案する。
「そうだな、廊下だけでも見回ってくれ!」
「分かりました!」
ドローンは廊下、階段、二階まで飛んで戻って来た。特に問題はなかった。
いよいよ、全員が屋敷の中へ足を踏み入れる。
「金城さんと高校生はここで待っていてくれ」
「え! どうして?」恵は不満そうだ。
「遺体とか、もしかして出た場合。子供たちや一般人には見せらないでしょう?」
小雪が具体的に説明する。
「最悪あり得ると考えているのですね?」
金城は不安げに小雪に問いかけた。
「もしもの事です。一応考慮しておかないといけませんから」
万が一のことを考えての対応だ。
結局、金城と三人は最初に原田たちが中を確認した、一階のリビングで待つこととなる。
リビングは埃もなく綺麗な状態であった。ただ……ここには……。
「金城さん! 前にここには来ているんですよね?」志乃が尋ねた。
「ああ! でもその頃はまだ、小さいのが並んでいたぐらいだったんだけど……」
リビングには大小様々な大きさのビスクドールが並んで座っていた。
「亡くなった奥さんの趣味でね。ヨーロッパ製の人形を集めていたんだよ……でも、ここまでとは……」金城もさすがに驚いている。
特に、最前列には等身大のビスクドールが三体並んで座っていた。
紫色、ピンク色、水色のそれぞれ髪の毛と同じ色合いのドレスを着ている。
「いっちゃん! 今日の話と同じじゃない?これ……」
恵は今日聞いた怪談話を連想して一郎の後ろに隠れてしまった。
「メグ! ほら、動き出さないから安心だよ!」そう言って、一郎は右端の水色の髪の人形の頭を触った。
(あれ? 一瞬、人形の眉が動いたような気がしたけど……錯覚かな? きっと、そうだね……)一郎は一人で勝手に納得する。
しばらくして、原田たちは二階から戻って来た。
「やはり、無人だ! 荒らされた形跡も無い。明日、鑑識を連れて来るから。今日はここまでだな」
撤収の合図でみんなリビングから出て行く、最後に恵が部屋から出ようとした時……。
「メグ! 行っちゃうの?」
「メグ! 連れてってよ!」
「……髪の毛触らないでよ、バカ……」
恵は誰も居ないはずの部屋からの声に呼び止められた……!
「出たー!! ギャー!」
屋敷中を揺らすぐらいの恵の悲鳴が響き渡った。
☆☆ ☆☆
恵の大絶叫に驚いて戻って来た全員の前に、三体のビスクドールがゆっくりとした歩調でリビングから出てくる。
原田たち刑事もみんな驚いて無言で固まった。
ただ一人、驚いてはいるが、興奮して声を上ずらせながら人形たちに問いかけた男がいた。金城である。
「君たちは大久保先生の作った自動人形(オートマタ)なんだね!」
紫色のドレスを着たビスクドールが代表して答える。
「わたしたちは大久保教授(マスター)の最高傑作、コッペリアよ!」
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