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第二章 アリスの楽園

03 安全地帯

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 ☆ Virtual ☆

 ヘブンズゲートの施設は現在は使用禁止だが、ゆくゆくはレジャー施設として公開する予定だそうだ。
 せっかくの施設だからこのままポシャッてはかわいそうだ。緑川も安心しただろう。
「紺野先生! 緑川先生が探しておられました」研修医の日野が教えに戻って来た。
「あら! もう終わったのかしら? では、黒岩さん戻りましょうか」
 二人ログオフをしようとフリックしてステータス画面を出そうとしたその時。背後に視線を感じて銀次郎はとっさに後ろを振り向いた。

 決して悪意ではない恐れのような感覚が背中に張り付く、その視線はどうやら少し離れた病院の窓からだったのか。2階の窓のカーテンが揺れるのが見えた。

「どうしましたか?」
 俺の目線をたどって病室の窓に気が付き、紺野女史はすぐに説明してくれた。
「大丈夫ですよ! あそこには居座っている女の子がいるんです」
 銀次郎は「座敷童か?」と突っ込みたくなった。

 現実社会で問題があって、一時保護している子供。虐待とか育児放棄とかリアルからはじき出された子供たちもここでは預かっているらしい。
 そんな子供たちの安全地帯がここ(バーチャル)とは……考えさせられる問題だ。

 まあ、これは政治家の偉い先生の問題で俺の頭を悩ますものでは決してない。
「ただ……」
 なぜか、紺野女史の俺との距離が近い、近くなっている……この方が俺には問題だった。

 ◇ Real world ◇

 銀次郎が紺野女史と戻った時には、涼と緑川の両名はまだ応接室で話を弾ませていた。
話尽きないと言う感じか、これで涼も緑川を信用してくれれば良いのだが。
 病院を出たのはもう夕方近くになってしまっていた。
「また、是非、喫煙室で一人は寂しいですから……」と小声で言う女史の妖艶な微笑みにあやふやな言葉を返して銀次郎は病院を後にした。

 しかし、銀次郎はすぐまたこの病院に駆けつけることになるとは、この時はまだ想像もしていなかった。
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