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第一章 ヘブンズ・ゲート

07 それぞれの戦い

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 ◇ Real world ◇

「ピンポン~♪」

「管理事務所の者です! 緑川さん、ご在宅でしょうか?」
 やけにうるさいエンジン音の一台の軽自動車がエンジンも切らずに、緑川の別荘の玄関近くに止まった。
「なんだ? ちょっと見てくる!」
 ベランダで食事をしている二人と監視の二人を残して、リーダーの佐藤は玄関に向かった。
「管理事務所の爺さんか? うるせー車だな! ベランダにまで響いてくるぜ」
 大きい男の方が耳を塞ぐ。
「どっか壊れてんじゃないあれ?」
 女は鼻で笑った。

 佐藤は用心深く玄関を開け男を確認する。
「どうもすいません。管理事務所の大沢と言いますが、二軒ほど先のお宅の方に電気の工事が入りますので、少しばかり騒がしくなりますが二、三十分で終わりますので……。ご迷惑をおかけいたします」
 作業着の男は、薄い頭の帽子を取ってさかんに佐藤に謝った。
「分かった、分かった。さっさとやっちゃってくれ」
佐藤はおざなりに返事をしドアを閉めようとして、ドアノブに視線を移したその瞬間。仁の隠し持っていた警棒が佐藤ののどにめり込む。意識を刈り取られ、佐藤は数メートル後方に飛ばされた。

「ドーン!」
 と言う大きな音とともに、男の呻き声がしたのとほぼ同時に、恵が雨どいをつたい音もなく登ってくる。手すりからテーブルに、そして女のアゴにと一瞬のつむじ風のように、恵の膝が飛び込んだ!
「ぐ!」
 アゴに一撃をくらった女は膝から崩れ落ちた。

 残るもう一人は、とっさに一歩下がり、脇のホルスターに視線を向けたその瞬間、拳銃を出そうとしている右肘に左の蹴りを、そして首筋に右の蹴りを受けて沈黙する。

「ダメだよー! せっかく一歩下がって距離をとったのに、視線を外しちゃあ元も子もないよ。三十点だね……残念!」

 沈黙した二人を確認して、嬉しそうに恵が玄関口の仁に聞いた。
「仁さん~♪ 見てくれた?」
「どう? どう?」
「テコンドー良いでしょう♪ 間合いが半歩ぐらい稼げるよ」
「全く……、新しいモノをやればいいってもんじゃないんだぞ。恵、もっとひとつの技に磨きをかけてだな……」

 やっぱり、この二人はピクニックのようであった。

 「大丈夫? 怪我は無かった?」
 と優しく問いかける恵に、ヒナちゃんは恐る恐る問いかけた。
「お姉さんは誰?」
 恵は待ってましたとばかりに、キメ顔で言った。

「正義の味方のクモクモくんだよ! ヒナちゃんを助けに来たんだよ!」
 お母さんからは表情が消え、ヒナちゃんは難しい顔した……。

 恵の頭を抱えて転がって叫ぶ声が、静寂な別荘地に響いた。

「テイク・ツー。テイク・ツー・プリーズ! もう一度やり直しさせて~」

 ☆ Virtual ☆

「午前十時、犯行声明、一時間で捜査本部立ち上げて、次の一時間で関係施設を抑える。これで午後一時。
 俺がヒントを出したのはこの頃だからもう一、二時間で別荘には着くな、仁さんと恵なら三十分でカタがつくだろう。
 後は、涼がどうにかして、一時間。合計すると四時半か五時ぐらいか……」
 銀次郎は独り言つぶやきながら考える。

 この作戦の肝は、両方で同時にSDカードをささないといけない点にある。しかし、困ったことに音声も映像も一方通行、こちらからしか指示が出せない。
 もしも、赤羽たちの準備が整っていない時点で、こちらが指示を出したとしても、バックドアは開かない。
 また、人質奪還が気付かれて何か次の策を相手に打たれれば、ますます、不確定要素が多くなってしまう。
 暗くなる前、五時から五時半がリミットか? 火を使えばもう一時間ぐらい伸ばせるか……。
 そして、もう一つの問題はSDカードをどこに挿すかという問題だったが……、こちらは緑川の一言であっさりと解決した。

 ◇ Real world ◇

 ヒナちゃんとお母さんを保護して、ヒナちゃんからクモコちゃんのキーホルダーを預かる。
 結局、キーホルダーに付いているものではなく、キーホルダー自体に仕掛けがあり、中からマイクロSDカードが出てくる。
 ヒナちゃんとお母さんの保護は、仁と恵に任せて、涼はインカムを装着し、本部と連絡を取りながら県警から借りた車を走らせた。

「課長! バックドアのキーになると思われるSDカードを確保しました。自分はこのままドリームキャッスル社のメインコンピューターにアクセス出来る場所ヘ直接行きます。銀さんの方は何か進展がありましたか?」
 涼は車を走らせながら課長に聞く。
「赤羽くん、黒岩さん派手に動き出したわ。午後六時になったらNPCを一体ずつ焼き殺すと大勢で広場に集まっているわ。あと三十分ぐらいだけど大丈夫?」
「ハイ! 一番近いバックアップセンターにもうすぐ着きます」
「『unknown』の方は大丈夫?」
「ええ! お任せください、準備万端です。後は課長の指示一つです!」
 小気味よく涼から返事が帰ってくる。
 
 白河課長は一人密かにガッツポーズをした。

 『Unknown』とは、いわゆるホワイトハッカー集団で、赤羽涼を中心として活動している。
 白河は、その涼をヘッドハンティングして電脳捜査課を強力な組織にしていた。

「えーと。フォックス聞こえてる?」
 回線を切り替えて、涼は穏やかな声色で話した。
「ええ! ベアー。こちらは準備万端です。いつでもいいですよ!」
 すぐに丁寧な声が帰ってくる。
「あと、今回のミッションにはバイソンも参加します。きっと場を盛り上げてくれるでしょう。楽しみにしていてください」
「了解だ! ポートが開いたら、あとは任せるよ」
「喜んでもらえると良いんですけどね……」
 フォックスは実に楽しそうだった。

 本部には白河課長、
 バックアップセンターに赤羽涼、
 そして『unknown』、
 それぞれが、黒岩銀次郎の合図を待った。
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