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最終章 虹の橋とその番人

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「何かもうひとつ、もっと決定的な何か……」
 煮詰まった小雪は時計を見て仕方なく帰り支度を始めた。
「こう言う時は、帰って寝るに限るってね」
 そうひとり呟いて、戸締りをする。環境が変われば良いアイデアも生まれるかもしれない。そんな事を考えながら家路を急いだ。

 中山家の食卓、今日は珍しく全員が揃っていた。
「姉ちゃんが居るのが珍しいんだよ」
 小雪の前でどんぶり飯をかきこむ弟の春也が言う。
「あんたこそ、今日はやけに早いじゃあない」
「午後の講義が休講になちゃってね。教授もいいかげんだよ」
 気兼ねない姉弟の会話だった。
「春也。あなた、経済学も取るの?」
 春也に母が尋ねる。春也はちょっと父親の顔を見てから答えた。
「そうだよ。俺、和菓子職人の修行もするけど、経営も勉強したいんだ」
 小雪も気になり父の顔色を伺うが、特に変わりはなかった。
「春也の好きにしろ。ただし、弱音は吐くなよ……」
 普段、無口な父のひと言が家族みんなには余計染みいった。

「三月と九月は、決算の月なのよ。うちみたいな中小零細は手持ち資金が無くなるとすぐ倒産になっちゃうの。だから経営も大事よ」
 実際、今は母が経理を受け持っている。そんな話に流れていった。
「いわゆる、!」
 母の何気ない経営の話に、さすが興味を持っている春也はすぐに答える。
「でも、資金とかあれば大丈夫でしょ? 銀行だって貸してくれるし」
 小雪も話しに加わるが追いてかれそうだ。
「姉ちゃん、浅い」
 得意分野とあって春也は偉そうに小雪に教えだした。

「融資を受けたりも出来るけど。銀行も経営の危ない所にお金なんて貸してくれないよ。審査があるんだ」
「ふーん。厳しんだ」
「現在は決算書でも特にキャシュフロー計算書が注目されているんだよ」
「キャッシュフロー計算書?」
「そう、要はどれだけ手持ちの余剰資金があるかって言うこと。これが底をつくと……」
「底をつくと?」
 春也は手を横に倒して言う。


「……」
 箸をくわえながら小雪は考える。しばらくその体勢で動かなかったが、急に立ち上がり自分の部屋に上がっていった。

「小雪?」
「お姉ちゃん?」

 中山家の食卓にはテレビの音だけが響いていた。

 ☆ ☆ ☆
 翌日、加賀に頼んで、風間を加えたメンバーで話し合いが行われた。
「赤羽の方も大丈夫だな」
「はい、何時でも」
 加賀の言葉に赤羽は強く頷く。
「しかし、若い発想ってのも良いな」
 小雪と何かしら打ち合わせしてから風間は加賀に話しかける。
「わたしたちと違って柔軟な発想だ。まあ、その分、危ういこともあるがな。その辺はこっちでフォローしてやれば良い」
「お前もいつの間にか部下を育てようとしだしたか……」
「なに、効率重視だ! 」
 風間の言葉に照れたように笑ってから加賀は言った。
 宝田の所に乗り込むぞ」
「え。わたしもですか?」
 小雪は狐につままれたような顔をして驚いた。
「……聞いていないんですけど……」
「バカ。今、初めて言ったんだ!」
 聞いてなくて当然とばかり加賀が笑う。ちょっと拗ねた顔で小雪は加賀を見て呟く。
「それに、小雪?」
 加賀からいきなりで呼ばれたのだ。
「良いだろう? これから戦場に赴くんだ。わたしの背中は小雪、お前に任せたぞ!」

 そう言って楽しげに加賀は笑った。男らしい。もとい、さすが「女帝」であった。
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