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最終章 虹の橋とその番人

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 最後に奥の部屋に案内すると言う赤羽の後ろについて、小雪は静脈認証キーの付いた部屋のドアの前まで案内された。
「ここが、俺のもうひとつの仕事場だ。キミには是非見て欲しいんだ」
 赤羽の真面目な眼差しでそう頼まれたら、小雪には断ることが出来なかった。素直にうなずくと、赤羽は手をかざしてドアのロックを外す。

「ピー」と言う解除音とともにドアが開く。

 赤羽に案内されたその部屋の中には、サイバーセキュリティ室にも負けないくらいの機材が揃っていた。中心にレーサーが座るような椅子がある。その前にはいくつものモニターが並んでいた。
 赤羽が部屋に入るとそのモニターたちが勝手に起動する。
「おい、まじかよ! ホントに連れ込んだのか?」
 すぐにフランクな言葉で反応があった。
「拉致監禁?」
 今度は女の声だ。
「かわいそうですよ。みなさん、『ベア』も頑張ったんですから……『ベア』信用できるってことで良いんですね?」
 冷静な声がそう話しかけてくる。
「ああ、そうだ。俺の! 全面的に信用してほしい」
 赤羽は小雪の肩を抱くようにして強く言い切った。
「パ、パートナー……」
 思いがけない言葉に小雪はうつ向きながらその言葉を繰り返す、頬が赤くなるのが自分でも分かった。

「中山小雪、警視庁交通部交通総務課所属。元警視総監の柳田の事件を皮切りに、都知事誘拐事件。転落死事件。教師刺殺事件。大麻事件。花火師殺人事件。睡眠強盗事件など、どれも彼女の協力で解決に導いている……警視庁の切り札って感じだな! 」
 そうフランクな声が小雪のこれまでの関わった事件のことをすらすらとしゃべった。(警察でも一部の人間しか知らない情報を知っている)小雪は緊張した。
「買いかぶり過ぎじゃあない『クロウ』は」
 今度は冷ややかな女の声が話し始める。
「そう簡単にはわたしは信じられないよ。特にそう、誠実ぶってるはね」
「バカ『バイソン』それを言ったらお前が一番誠実ぶってるぞ!」
「クロウ」と呼ばれた男が笑って突っ込む。
「黙れ! 殺すぞ」
「バイソン」と呼ばれた女は急に口汚く罵りだす。(え、すごい言葉なんですけど……)小雪はビビっていた。
「すいませんね。いつもこうなんですよ。でも、しっかりチームワークは良いんですから」
 冷静な声が笑いながらそうフォローする。「クロウ」と「バイソン」の言い合いはその後もしばらくは続いた。

「俺が紹介するよ」
 仕方なしに赤羽が小雪にメンバーを紹介し始めた。
「俺がリーダーの『ホワイトベア』だ。そして、その冷静なのがサブリーダーの『シルバーフォックス』そしてフランクな奴が「ダーククロウ』で、その物騒なのが「レッドバイソン』だ」
「どうせわたしは物騒ですよ!」
 ふてくされたような声が帰ってくる。
 本当にみんな気心がしれた仲間なのだろう、そんな言葉の中にも信頼感がにじみ出ていると小雪は思った。

「よろしくお願いします。中山小雪です」
 小雪はモニターに向かって深々と頭を下げた。茶々を入れるメンバーは誰もいなかった。

「ふう、驚いた」
 部屋を出て小雪は呟く。
「ゴメンよ。驚かせちゃったね。まさか、すぐあんなに反応するとは思わなかったんだ」
 当初は部屋を見せて終わりのつもりだったようだ。
「まあ、あいつらに認められたってことだから。結果オーライで」
 満面の笑顔で赤羽が言った。
「もう、赤羽さんは計画性があるようで、細かい詰めが甘々ですよ!」
 拗ねた顔で小雪は睨んだ。それが赤羽のツボにハマったようでしばらく二人で笑ってしまった。
 赤羽の無邪気な笑い声を小雪は初めて聞いたような気がした。

 ☆ ☆ ☆
 近くのレストランで夕飯を食べてから、車で家まで送るという赤羽の提案をどうにか断って、小雪は駅で赤羽と別れた。
 決して、嫌だった訳ではなく。今日色々あった出来事を自分なりに整理したかっただけなのだ。
 電車を待ってホームにたたずむ。夜の風を感じるだけでも、少しは冷静さを取り戻せる気がした。赤羽の言葉、自分の言葉、そして他のメンバーの……。色々な選択肢をわたしは選んで今に至る。
「パートナーか……」
 ホームから見上げる夜空は、いつもよりもたくさんの星に彩られている気がした。

「らぁ、らっ、らっ、らぁ……」
 某テーマパークのパレード音がホームに響く。小雪は現実に引き戻されてスマホを取り出した。
「?」
 画面表示に何も出ない。普通は登録されていなければ番号が出るはずなのだが……それすら出ていない。呼び出し音は切れそうにないため、小雪は恐る恐る電話に出た。
「小雪ちゃんだね。『クロウ』だ! とにかく用件だけ言うぞ。明日にでもお前に呼び出しがかかりそうだ。二課の加賀か、一課の後藤か、内容は『虹の橋・宝田』の件だ。本腰を入れるんでお前にも声がかかるようだ」
「クロウ」の話の内容は小雪の全く想像していなかったものだった。
「赤羽さんは?」
「あいつにも声はかかるだろう。あいつは大丈夫だ。捜査にはすでに加わっているからな。心の準備だけでもしておけよ」
 そう言うと「クロウ」はすぐに電話を切った。
「……どうやってかけているの? アドレスも知らないのに……」
 小雪は通話記録も出ない自分のスマホを見ながら呟いたのだった。

 その後、赤羽から連絡があり、詳しい話を聞く。その夜の会話は全く甘いものではなかった。
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