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第七章 後悔と宿題
Ⅳ
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「どうでした。野田さん」
休憩室で待っていた小雪に汗だくで帰ってきた野田は汗を拭き拭き話し始める。
「お前の指摘通りだ。別れた二番目の奥さんは、奴が前の奥さんと別れる前から交際していたそうだ」
「え、不倫していたの。最低ね!」
瞳と佳子も飲み物とお茶請けを持って来て座る。
「それと、死んだ前の奥さんの遺骨なんだが、実家の墓にあったぞ。何でもご主人は次男で墓が無かったんで、実家の方に埋葬したと言っていたな」
「それでご主人は?」
小雪はもう一つの答えを野田に求めた。
「ああ、奴は実家、九州の両親の墓に入ったそうだ」
「遺言で指定して、もしくは実家の墓の近くで死んだか……」
「お前、よく分かったな。そうだ、奴は実家の墓の前で自殺したんだ」
野田は驚いて思わず立ち上がり、瞳と佳子も何故なのか説明を求めて、小雪を見つめた。
「これは、あくまでもわたしの想像だから。真実では無いかもしれないけど……」
そう前置きをしてから、小雪はゆっくりと話し始める。
「当時、バブル景気の絶頂期。ご主人の会社も景気が良く、もう奥さんの実家からの資金援助も必要なくなっていた……」
淡々と物語の様に小雪は話し始めた。
「好景気の中、頭の上がらない奥さんでなく、別の女性と交際をしていたご主人は、資金面での会社の完全な独立を考え。奥さんとその実家が邪魔になる、そこで奥さんを事故に見せかけて殺す計画を思いついた」
「ちょっと、それじゃあ。これは……」
「まだ、話はこれから、慌てないで」
小雪は一息つくと、カフェオレを一口飲んでから、また話し出した。
「ご主人は、夕方の人の少ない公園の階段から転落させる計画を立てた。しかし、実際には公園は無人ではなく。誰かしらがいる。それも複数人。そこで、それを逆手にとって目撃者にする計画を立てた……」
「突き落とした人はいなかったんだよね」
「そう、目撃者はそう言っていたよね」
瞳と佳子が反論する、確かに突き落とした人物は目撃されなかったはずだ。
「そう、突き落とした人はね!」小雪はそこを強調した。
「ん?」
「どう言うこと?」
「ご主人は突き落としてはいない。だって、下から上がって来たんだから」
「!」
「階段の下から上がって来て、引っ張り落としたんだよ!」
聞いていた三人の呼吸が一瞬止まった。
「だから、高校生が聞いたんだよ『あなた、ここよ』って声を。あれは途中まで階段を上がって来ていたご主人に向けたもの。だって、当時は階段の下なんか桜の大木で見えないでしょう?」
三人は納得せざる負えない。確かに引っ張り落とすなら上からは死角になって見えない。
「でも、ここで想定外の事が起こった……」
「何、それ、想定外って!」
瞳が乗り出して聞く。
「奥さんは死ななかったの、少なくとも即死はしなかった」
小雪は痛ましい表情で続ける。
「第一発見者になるべく近付いたご主人に鬼の形相でしがみ付いたの」
声も出せないでいる三人に小雪は更に話を進めた。
「それを、ご主人は振り払い、後頭部を思いっきり階段へ打ち付けた……」
写真に写っていた、主な死因になった後頭部の傷。それは転落時では無く、犯人であるご主人による殺害の証拠であったのだ。
愕然とする野田に対し、小雪は優しく語りかける。
「野田さん、この事件はもう時効になってしまったかも知れませんが、犯人は十分に報いを受けています。だから、あなたが気に病む様な事は無いと思います。でも、もし出来るなら、亡くなった奥さんのお墓に報告をしてあげて下さい」
「あなたの記憶の中の殺された奥さんの顔もきっと優しいものになると思いますよ」
小雪は、そう言ってコーヒーのお代わりをそっと差し出した。
休憩室で待っていた小雪に汗だくで帰ってきた野田は汗を拭き拭き話し始める。
「お前の指摘通りだ。別れた二番目の奥さんは、奴が前の奥さんと別れる前から交際していたそうだ」
「え、不倫していたの。最低ね!」
瞳と佳子も飲み物とお茶請けを持って来て座る。
「それと、死んだ前の奥さんの遺骨なんだが、実家の墓にあったぞ。何でもご主人は次男で墓が無かったんで、実家の方に埋葬したと言っていたな」
「それでご主人は?」
小雪はもう一つの答えを野田に求めた。
「ああ、奴は実家、九州の両親の墓に入ったそうだ」
「遺言で指定して、もしくは実家の墓の近くで死んだか……」
「お前、よく分かったな。そうだ、奴は実家の墓の前で自殺したんだ」
野田は驚いて思わず立ち上がり、瞳と佳子も何故なのか説明を求めて、小雪を見つめた。
「これは、あくまでもわたしの想像だから。真実では無いかもしれないけど……」
そう前置きをしてから、小雪はゆっくりと話し始める。
「当時、バブル景気の絶頂期。ご主人の会社も景気が良く、もう奥さんの実家からの資金援助も必要なくなっていた……」
淡々と物語の様に小雪は話し始めた。
「好景気の中、頭の上がらない奥さんでなく、別の女性と交際をしていたご主人は、資金面での会社の完全な独立を考え。奥さんとその実家が邪魔になる、そこで奥さんを事故に見せかけて殺す計画を思いついた」
「ちょっと、それじゃあ。これは……」
「まだ、話はこれから、慌てないで」
小雪は一息つくと、カフェオレを一口飲んでから、また話し出した。
「ご主人は、夕方の人の少ない公園の階段から転落させる計画を立てた。しかし、実際には公園は無人ではなく。誰かしらがいる。それも複数人。そこで、それを逆手にとって目撃者にする計画を立てた……」
「突き落とした人はいなかったんだよね」
「そう、目撃者はそう言っていたよね」
瞳と佳子が反論する、確かに突き落とした人物は目撃されなかったはずだ。
「そう、突き落とした人はね!」小雪はそこを強調した。
「ん?」
「どう言うこと?」
「ご主人は突き落としてはいない。だって、下から上がって来たんだから」
「!」
「階段の下から上がって来て、引っ張り落としたんだよ!」
聞いていた三人の呼吸が一瞬止まった。
「だから、高校生が聞いたんだよ『あなた、ここよ』って声を。あれは途中まで階段を上がって来ていたご主人に向けたもの。だって、当時は階段の下なんか桜の大木で見えないでしょう?」
三人は納得せざる負えない。確かに引っ張り落とすなら上からは死角になって見えない。
「でも、ここで想定外の事が起こった……」
「何、それ、想定外って!」
瞳が乗り出して聞く。
「奥さんは死ななかったの、少なくとも即死はしなかった」
小雪は痛ましい表情で続ける。
「第一発見者になるべく近付いたご主人に鬼の形相でしがみ付いたの」
声も出せないでいる三人に小雪は更に話を進めた。
「それを、ご主人は振り払い、後頭部を思いっきり階段へ打ち付けた……」
写真に写っていた、主な死因になった後頭部の傷。それは転落時では無く、犯人であるご主人による殺害の証拠であったのだ。
愕然とする野田に対し、小雪は優しく語りかける。
「野田さん、この事件はもう時効になってしまったかも知れませんが、犯人は十分に報いを受けています。だから、あなたが気に病む様な事は無いと思います。でも、もし出来るなら、亡くなった奥さんのお墓に報告をしてあげて下さい」
「あなたの記憶の中の殺された奥さんの顔もきっと優しいものになると思いますよ」
小雪は、そう言ってコーヒーのお代わりをそっと差し出した。
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