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第五章 浜辺の小瓶と七階建てのビル
Ⅳ
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あの夏の交通イベントから三日が過ぎ、小雪達はもうすっかり忘れていた頃。あのだみ声が再び交通総務課の窓口に響いた。
「中山、中山小雪はここか?」
なまはげのようなその形相に、思わず机の下に隠れたくなった小雪であったが、その抵抗は無駄だと悟った……。
どうしてかって? それは、土井課長を案内しているのがうちの係長だったから……。(おのれ九条係長、わたしを人柱にするつもりなの)
そして津波のように窓口からさらわれていかれた小雪であった。
☆ ☆ ☆
今回の大規模災害(?)においての唯一の救いは、あのなまはげ、もとい、土井課長が呼び出されて急遽戻っていったことだろうか。
小雪は白いワンボックスに押し込められる。
先に乗り込んでいたのは組対五課の別所と椎名であった。
「すまんな中山、こっちも後が無いんでな」
別所はスキンヘッドの頭を助手席から後部座席のわたしに器用に下げて言った。
「そ、そんな頭なんか下げられても困ります」
五課の人たちは特に強面(こわもて)が多いので小雪の緊張のバロメーターも上がってしまう。
「お前の事、捜査一課の連中から聞いてな。頼む、力を貸してくれ!」(後藤課長? 石川さん? 誰? 話し広げている人は……)
すぐに車は動き出し、目的の場所へ向かう。
小雪は別所からこれまでの詳しい経緯を聞くことになった。
三日前の大麻事件のブツの出処を探していった五課は、すぐに怪しいビルを突き止めたのだが……捜索しても、証拠になるブツが摘発出来なかったそうだ。
「以前から目を付けていたんだがな。ガサ入れしても何にも出やしねえ……それらしい機材も見つかりゃあしない」
別所は苦虫を噛み潰したような顔でぼやいた。
「なるほど、それでわたしが呼ばれたんですね……」
文句の一つも言いたい気持ちを抑えつつ、小雪は真面目に考えた。違法薬物の栽培、製造などかなりのスペースと機材が必要なはずだ。これらが全く見つからないと言う事は……。
「このビルが囮(おとり)って可能性はありませんか? 本命がその隙にとんずらするとか……」
「それな、その可能性もあって課長が今、呼ばれてんだよ。部長室にな!」
別所はない髪の毛を掻きむしるようにしながら言った。
「とにかく俺達はここを貼るしかない。お前も知恵を出してくれ」
そんな別所達の必死な態度に小雪も真剣に捜査に加わることとなる。
☆ ☆ ☆
二人に案内されてロビー、階段、エレベーターと確認する。七階建ての雑居ビルに一階二階はゲームセンター、三階四階はネットカフェ、五階六階七階はオフィスになっている。
「どの階もしっかり探したんだが、全くダメだった」
「令状まで出してもらったのに、これじゃあ組対五課の面目丸潰れだ!」
二人して頭を抱えている……。
「もう少し調べさせて下さい」
小雪は改めてもう一度全てを再確認していく事にする。
七階建ての雑居ビル。屋上は無し。一階の脇に管理人室は無く小さな電気室が有るだけ。
小雪は、もう一度外から建物を見つめた。
「何か、変な建物ですね」
とりあえず、思ったことを口にした。
「まあ、ゲーセンやネカフェの入っている雑居ビルだからな。窓だってたいして無いぞ」
別所も一緒に見上げながら説明する。
「窓、不規則ですね。ちっちゃいのが多くないですか?」
「1・2・3・4・・7・・?」と数えていった小雪はふと思ったことがあった。
「別所さん。ここの配電盤ってどこかにありますよね?」
「ああ! 確か一階にあったが……」
「見せて下さい。もしかしたら……」
一階の電気室の中の配電盤を見た小雪は、振り向いて別所にこう言った。
「分かったかも知れません。連絡して欲しい所がありますので、お願いできますか?」
「わ、分かった!」
焦りながら別所は連絡を取りに走って行った。小雪は配電盤を見ながらつぶやいた。
「秘密基地ってこんな感じかな……」
小雪の指示通りに別所は連絡を取り、椎名他五課の刑事たちは暗くなるのを待って配置に付いた。
「中山。いつでもオッケーだ。やってくれ」
椎名からの連絡を確認してから小雪は配電盤のブレイカーを一つずつ落としていった。
一つ目、一階のゲームセンターの電源が落ちる。
二つ目、同じく二階のゲームセンター。
三つ目、三階のネットカフェ。
四つ目、四階のネットカフェの電源がと、順々に落ちていった。
しかし、五つ目のブレイカーを落とした時変化がある。
「おや? 五階の電源落ちないぞ! どうしてだ?」五階の刑事から連絡が入る。
しかし、すぐ六つ目を落とすと五階の刑事から電源が切れたと連絡が入った。
七つ目、六階のオフィス。
八つ目のブレイカーで、最後の七階オフィスの電気も全て消えた。
「全階電源が落ちました!」報告が入る。
慌てて振り返った別所が小雪に聞く。
「これでどうなるって事なんだ? え?」
「これからですよ別所さん。慌てないで下さいね」
冷静に答えた小雪は横にあった赤い火災報知器のボタンを迷わず押した。
「え? おまえ!」
別所の制止は間に合わなかった。
「中山、中山小雪はここか?」
なまはげのようなその形相に、思わず机の下に隠れたくなった小雪であったが、その抵抗は無駄だと悟った……。
どうしてかって? それは、土井課長を案内しているのがうちの係長だったから……。(おのれ九条係長、わたしを人柱にするつもりなの)
そして津波のように窓口からさらわれていかれた小雪であった。
☆ ☆ ☆
今回の大規模災害(?)においての唯一の救いは、あのなまはげ、もとい、土井課長が呼び出されて急遽戻っていったことだろうか。
小雪は白いワンボックスに押し込められる。
先に乗り込んでいたのは組対五課の別所と椎名であった。
「すまんな中山、こっちも後が無いんでな」
別所はスキンヘッドの頭を助手席から後部座席のわたしに器用に下げて言った。
「そ、そんな頭なんか下げられても困ります」
五課の人たちは特に強面(こわもて)が多いので小雪の緊張のバロメーターも上がってしまう。
「お前の事、捜査一課の連中から聞いてな。頼む、力を貸してくれ!」(後藤課長? 石川さん? 誰? 話し広げている人は……)
すぐに車は動き出し、目的の場所へ向かう。
小雪は別所からこれまでの詳しい経緯を聞くことになった。
三日前の大麻事件のブツの出処を探していった五課は、すぐに怪しいビルを突き止めたのだが……捜索しても、証拠になるブツが摘発出来なかったそうだ。
「以前から目を付けていたんだがな。ガサ入れしても何にも出やしねえ……それらしい機材も見つかりゃあしない」
別所は苦虫を噛み潰したような顔でぼやいた。
「なるほど、それでわたしが呼ばれたんですね……」
文句の一つも言いたい気持ちを抑えつつ、小雪は真面目に考えた。違法薬物の栽培、製造などかなりのスペースと機材が必要なはずだ。これらが全く見つからないと言う事は……。
「このビルが囮(おとり)って可能性はありませんか? 本命がその隙にとんずらするとか……」
「それな、その可能性もあって課長が今、呼ばれてんだよ。部長室にな!」
別所はない髪の毛を掻きむしるようにしながら言った。
「とにかく俺達はここを貼るしかない。お前も知恵を出してくれ」
そんな別所達の必死な態度に小雪も真剣に捜査に加わることとなる。
☆ ☆ ☆
二人に案内されてロビー、階段、エレベーターと確認する。七階建ての雑居ビルに一階二階はゲームセンター、三階四階はネットカフェ、五階六階七階はオフィスになっている。
「どの階もしっかり探したんだが、全くダメだった」
「令状まで出してもらったのに、これじゃあ組対五課の面目丸潰れだ!」
二人して頭を抱えている……。
「もう少し調べさせて下さい」
小雪は改めてもう一度全てを再確認していく事にする。
七階建ての雑居ビル。屋上は無し。一階の脇に管理人室は無く小さな電気室が有るだけ。
小雪は、もう一度外から建物を見つめた。
「何か、変な建物ですね」
とりあえず、思ったことを口にした。
「まあ、ゲーセンやネカフェの入っている雑居ビルだからな。窓だってたいして無いぞ」
別所も一緒に見上げながら説明する。
「窓、不規則ですね。ちっちゃいのが多くないですか?」
「1・2・3・4・・7・・?」と数えていった小雪はふと思ったことがあった。
「別所さん。ここの配電盤ってどこかにありますよね?」
「ああ! 確か一階にあったが……」
「見せて下さい。もしかしたら……」
一階の電気室の中の配電盤を見た小雪は、振り向いて別所にこう言った。
「分かったかも知れません。連絡して欲しい所がありますので、お願いできますか?」
「わ、分かった!」
焦りながら別所は連絡を取りに走って行った。小雪は配電盤を見ながらつぶやいた。
「秘密基地ってこんな感じかな……」
小雪の指示通りに別所は連絡を取り、椎名他五課の刑事たちは暗くなるのを待って配置に付いた。
「中山。いつでもオッケーだ。やってくれ」
椎名からの連絡を確認してから小雪は配電盤のブレイカーを一つずつ落としていった。
一つ目、一階のゲームセンターの電源が落ちる。
二つ目、同じく二階のゲームセンター。
三つ目、三階のネットカフェ。
四つ目、四階のネットカフェの電源がと、順々に落ちていった。
しかし、五つ目のブレイカーを落とした時変化がある。
「おや? 五階の電源落ちないぞ! どうしてだ?」五階の刑事から連絡が入る。
しかし、すぐ六つ目を落とすと五階の刑事から電源が切れたと連絡が入った。
七つ目、六階のオフィス。
八つ目のブレイカーで、最後の七階オフィスの電気も全て消えた。
「全階電源が落ちました!」報告が入る。
慌てて振り返った別所が小雪に聞く。
「これでどうなるって事なんだ? え?」
「これからですよ別所さん。慌てないで下さいね」
冷静に答えた小雪は横にあった赤い火災報知器のボタンを迷わず押した。
「え? おまえ!」
別所の制止は間に合わなかった。
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