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第四章 雨上がりと水曜日
Ⅳ
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「出ました! 指紋!」
慌てて陣内が石川たちの居る警備員室のとなりの教室に転がり込んできた。
「誰のが出たんだ?」石川が聞く。
「二人の指紋です! 被害者と容疑者の」
小雪も慌てて聞き返した。
「どっちの指紋が後ですか?」
「??」
陣内は答えられず、代わりに後からやって来た鑑識の渡辺さんが答えてくれた。
「容疑者の島田の方が新しい! 後だな」
「これで決まりですね! 容疑者の島田先生を呼んで頂けますか?」
小雪は頷いた。
☆ ☆ ☆
被害者の同僚教師、島田一夫は落ち着かない表情で三人が待つ教室に入って来た。
ここには小雪を含め三人の刑事が居るのだから。まあ、落ち着かなくても当然だろう。
「島田先生! すいませんお引き留めしてしまって、少しお話を聞かせていただいたら、もう帰って結構ですから」
小雪は柔らかい口調で話しを始めた。
「昨日の件なのですか、島田先生は立花先生の帰る姿をご覧になられたのですね?」
「はい、見ました」
島田は緊張気味に硬い返事をした。
「どの辺りで見ましたか?」
「確か……二階の廊下でしょうか?」
「どの様なご様子でしたか?」
小雪はにこやかになるべく島田が答え易いように質問をする。
「強い雨の中を赤い傘を差して駐車場の方へ歩いて行きましたね……」
思い出すように島田は考えながら話した。
「傘の色は赤でしたか?」
「はい! 確かです。どうしてそんな事を聞くんですか?」
島田はその質問を不思議がった。
「何故? 立花先生は赤い傘を差して帰ったのでしょうか?」
「??」
にこやかに尋ねる小雪の意図することが分からずに島田は黙ってしまった。
「立花先生の傘は、このビニール傘なのに!」
そう言って、鑑識の調べ終わった透明のビニール傘を小雪は島田に示す。
「!!」
小雪のこの発言に、島田はもちろん他の刑事たちも驚き固まってしまった。
全員の視線が小雪に説明を求めていたが、あえてスルーして小雪は続きを話し出す。
「警備員の福田さんは、午後八時の巡回の時、傘立てに傘は無かったと証言しています」
「では、一体どうして立花先生は赤い傘を差して帰れたんでしょうか?」
「違いますよね! 本当は、傘が無くて困っていたんですよね? 立花先生は……そこで、あなたが傘を差して一緒に駐車場まで行ってあげたんですよね、島田先生?」
笑顔のまま、小雪は島田の横まで近づき、耳元でそっと小声で語りかけた。
「でも、本当は傘を隠して待っていたんでしょ? 彼女を刺す機会を作るために!」
「……」
島田の顔色は見る見る蒼白になっていった。
「あなたは後から彼女の傘を殺人現場に置いておけば一人で帰って誰かに襲われたと思われるし、この大雨では痕跡はみんな消えてしまうって思ったのでしょうけど……」
島田の周りを回るようにしながら、小雪は彼に話しかけた。
「残念でした! 傘立ての傘からあなたと立花先生の指紋が出ました。それも、最後に触ったのは島田先生、あなたですよ」
そう言って、島田の前で立ち止まってからはっきりとした口調で彼に話しかけた。
「赤い傘の証言と彼女の傘の指紋の言い訳をどうしてくださるのか、私は楽しみですよ」
ガックリとうなだれた島田に対しての小雪の微笑みが、この時心底怖いと捜査一課の二人は思ったのだった。
☆ ☆ ☆
観念して犯行を認めた島田は、後から遅れてきた原田に再度詳しく殺害の状況を確認されている。
石川と陣内は小雪とともに、いったん教室から出た。
「中山、どこで分かったんだ?」
「そうだ! 決め手は何だったんだ?」
二人は教室の外ですぐ小雪に種明かしを求めてきた。
「最初におかしいと思ったのは、あの傘ですね」
そう言って、小雪は現場に落ちていた赤い傘を指さす。
「この傘をよく見てください。傘の骨が曲がっています」
傘を広げて二人に見せた。
「でも、争った拍子に曲がったとかは?」
陣内も考え反論した。
「そうですね。確かにその時曲がったのかも知れませんが……ここを見てください」
そう言って傘の骨組みを指さした。
「サビているんですよ、これはしばらく使っていなかったモノです!」
確かにその赤い傘の骨組み部分にはサビが浮き出ていた。
「若い女性がわざわざ雨の日にこの傘を持って職場に来るのはおかしいです」
「確かにそうだな、昨日は朝から雨だったから、朝、通勤にもこれをさして来たってことだよな」
石川も傘の不自然さに納得した。
「島田は『赤=彼女の傘』と勘違いしたんでしょうね。そして証言までしてしまった。このミスが決定的ですね」
島田の思い込みが敗因になってしまったようだ。
「でも、何でこっちの傘が被害者のだと分かったんだ?」
陣内はまだ納得できないでいた。
「それは簡単ですよ!」
そう言って、小雪は傘立てに残っていた方のビニール傘を手に取った。
「星乃さんのきっとお気に入りでしょうね。この傘は!」
小雪は手に取ったビニール傘を陣内たちの目の前で広げて見せる。
「私も欲しかったんですよ。限定品ですぐ売り切れちゃいましたけど……」
小雪の広げたビニール傘には内側にたくさんの星がプリントされていたのだった。
慌てて陣内が石川たちの居る警備員室のとなりの教室に転がり込んできた。
「誰のが出たんだ?」石川が聞く。
「二人の指紋です! 被害者と容疑者の」
小雪も慌てて聞き返した。
「どっちの指紋が後ですか?」
「??」
陣内は答えられず、代わりに後からやって来た鑑識の渡辺さんが答えてくれた。
「容疑者の島田の方が新しい! 後だな」
「これで決まりですね! 容疑者の島田先生を呼んで頂けますか?」
小雪は頷いた。
☆ ☆ ☆
被害者の同僚教師、島田一夫は落ち着かない表情で三人が待つ教室に入って来た。
ここには小雪を含め三人の刑事が居るのだから。まあ、落ち着かなくても当然だろう。
「島田先生! すいませんお引き留めしてしまって、少しお話を聞かせていただいたら、もう帰って結構ですから」
小雪は柔らかい口調で話しを始めた。
「昨日の件なのですか、島田先生は立花先生の帰る姿をご覧になられたのですね?」
「はい、見ました」
島田は緊張気味に硬い返事をした。
「どの辺りで見ましたか?」
「確か……二階の廊下でしょうか?」
「どの様なご様子でしたか?」
小雪はにこやかになるべく島田が答え易いように質問をする。
「強い雨の中を赤い傘を差して駐車場の方へ歩いて行きましたね……」
思い出すように島田は考えながら話した。
「傘の色は赤でしたか?」
「はい! 確かです。どうしてそんな事を聞くんですか?」
島田はその質問を不思議がった。
「何故? 立花先生は赤い傘を差して帰ったのでしょうか?」
「??」
にこやかに尋ねる小雪の意図することが分からずに島田は黙ってしまった。
「立花先生の傘は、このビニール傘なのに!」
そう言って、鑑識の調べ終わった透明のビニール傘を小雪は島田に示す。
「!!」
小雪のこの発言に、島田はもちろん他の刑事たちも驚き固まってしまった。
全員の視線が小雪に説明を求めていたが、あえてスルーして小雪は続きを話し出す。
「警備員の福田さんは、午後八時の巡回の時、傘立てに傘は無かったと証言しています」
「では、一体どうして立花先生は赤い傘を差して帰れたんでしょうか?」
「違いますよね! 本当は、傘が無くて困っていたんですよね? 立花先生は……そこで、あなたが傘を差して一緒に駐車場まで行ってあげたんですよね、島田先生?」
笑顔のまま、小雪は島田の横まで近づき、耳元でそっと小声で語りかけた。
「でも、本当は傘を隠して待っていたんでしょ? 彼女を刺す機会を作るために!」
「……」
島田の顔色は見る見る蒼白になっていった。
「あなたは後から彼女の傘を殺人現場に置いておけば一人で帰って誰かに襲われたと思われるし、この大雨では痕跡はみんな消えてしまうって思ったのでしょうけど……」
島田の周りを回るようにしながら、小雪は彼に話しかけた。
「残念でした! 傘立ての傘からあなたと立花先生の指紋が出ました。それも、最後に触ったのは島田先生、あなたですよ」
そう言って、島田の前で立ち止まってからはっきりとした口調で彼に話しかけた。
「赤い傘の証言と彼女の傘の指紋の言い訳をどうしてくださるのか、私は楽しみですよ」
ガックリとうなだれた島田に対しての小雪の微笑みが、この時心底怖いと捜査一課の二人は思ったのだった。
☆ ☆ ☆
観念して犯行を認めた島田は、後から遅れてきた原田に再度詳しく殺害の状況を確認されている。
石川と陣内は小雪とともに、いったん教室から出た。
「中山、どこで分かったんだ?」
「そうだ! 決め手は何だったんだ?」
二人は教室の外ですぐ小雪に種明かしを求めてきた。
「最初におかしいと思ったのは、あの傘ですね」
そう言って、小雪は現場に落ちていた赤い傘を指さす。
「この傘をよく見てください。傘の骨が曲がっています」
傘を広げて二人に見せた。
「でも、争った拍子に曲がったとかは?」
陣内も考え反論した。
「そうですね。確かにその時曲がったのかも知れませんが……ここを見てください」
そう言って傘の骨組みを指さした。
「サビているんですよ、これはしばらく使っていなかったモノです!」
確かにその赤い傘の骨組み部分にはサビが浮き出ていた。
「若い女性がわざわざ雨の日にこの傘を持って職場に来るのはおかしいです」
「確かにそうだな、昨日は朝から雨だったから、朝、通勤にもこれをさして来たってことだよな」
石川も傘の不自然さに納得した。
「島田は『赤=彼女の傘』と勘違いしたんでしょうね。そして証言までしてしまった。このミスが決定的ですね」
島田の思い込みが敗因になってしまったようだ。
「でも、何でこっちの傘が被害者のだと分かったんだ?」
陣内はまだ納得できないでいた。
「それは簡単ですよ!」
そう言って、小雪は傘立てに残っていた方のビニール傘を手に取った。
「星乃さんのきっとお気に入りでしょうね。この傘は!」
小雪は手に取ったビニール傘を陣内たちの目の前で広げて見せる。
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