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第二章 出会いと誘拐事件
Ⅶ
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「お邪魔しまーす……」
「失礼しまーす」
小雪の同僚、交通総務課の瞳と佳子は、なるべく静かにサイバーセキュリティ対策室に入っていった。
返事もないので中を覗くと、慌ただしく緊張気味にしゃべる小雪や後藤課長の声が聞こえてきた。
恐る恐る中を覗きこみモニターを見ると、そこにはよく知った車が映しだされていたのだ……。
「え? 何で? 『キッチンどん』?」
瞳と佳子には、全く理解が出来なかった。
「キミたちはこの車を知っているのか?」
二人に気付いた赤羽が振り向き聞き返す。
全員の視線が二人に突き刺さった。
「はい! この軽ワゴンはうちと取引のある仕出し弁当屋『キッチンどん』の車です」
瞳が背筋を伸ばしてはっきりと答えた。
「でも、今日は修理中で別の車で来ていましたけど……」
しかし、佳子がそう付け加える。
「修理中? どう言うことだ。至急、この車両の所在を確認! そこの二人はすぐに所有者に連絡しろ!」
後藤の大きな声がことさら大きく響いた。
「はっ、はい!」
急ぎ瞳が「キッチンどん」の店長に連絡し修理工場が判明する。しかし、車は昨夜のうちに工場から盗まれていた……。
「こっちも、盗難車か……」
がっかりと肩を落とすように原田が呟く。
「でも、原田さん。こっちが本命ですから。こいつを押さえれば『ゲーム・コンプリート』です!」
そんな原田を赤羽が後ろから励ます。
「よし! Nシステムで再度追い詰めるぞ」
上田と二人、Nシステムを起動させ、この車を探し始めた。
☆ ☆ ☆
「後藤課長。わたし達は出動の準備をしたいのですが……」
小雪は前のめりにモニターを覗きこんでいる後藤に思い切って話しかけた。
「どう言うことだ?」
後藤は振り向かず理由を求めた。
「はい、フェイク車両は池袋方面に向かいました。なので、本命は逆。つまり品川方面か江東・江戸川方面と思われます。まして、『キッチンどん』は深川のお店です。あらかじめ江東区・中央区方面で待機した方が……」
「さすが、小雪。それなら白バイ連中に連絡しておくよ。その辺なら警備会場から近いしね! あ、よろしいでしょうか? 後藤課長」
横から話に割り込んだ、瞳が慌てて後藤に許可を求めた。
「構わん。さすが交通課だな! だが誘拐の事は伏せてくれよ」
餅は餅屋。苦笑いしながら後藤は交通課の山内瞳と細川佳子の名前もしっかり記憶しようとしたのだが……。
「で、何の事件なんですか?」
二人は全くの自然体で後藤に聞いた。
「……」
「お前ら、それも分からんで口を出していたのか……」
後藤の眉間のシワがより深くなった……。
「中山。俺達だけで行こう」
赤羽が急に立ち上がって言った。
「え、はい」
意外な言葉に小雪は変なトーンの返事をしてしまう。
「俺の車が地下にある。いざとなったらサイレンも鳴らせる。後部座席はスモークだ」
廊下に出ながら赤羽が確認のように言う。
「つまり、人質を確保しても安全に会議場まで乗せられると……」
「さすがだな、頭の回転だけは良いな」
「『だけ』は余計です」
お互いの顔も見ず話しながら、地下へのエレベーターを待つ。
小雪はちょっと楽しくなって、また余計な事を言ってしまう。
「でも、運転はわたしですから。ナビも不要です。助手席でPCでも見てて下さいね。サイバーの赤羽さん」
そう言って、小雪は赤羽に向かって手のひらを差し出した。
「チッ!」
横目で睨みながら赤羽は小雪の手のひらに車のキーを押し付けた。
「失礼しまーす」
小雪の同僚、交通総務課の瞳と佳子は、なるべく静かにサイバーセキュリティ対策室に入っていった。
返事もないので中を覗くと、慌ただしく緊張気味にしゃべる小雪や後藤課長の声が聞こえてきた。
恐る恐る中を覗きこみモニターを見ると、そこにはよく知った車が映しだされていたのだ……。
「え? 何で? 『キッチンどん』?」
瞳と佳子には、全く理解が出来なかった。
「キミたちはこの車を知っているのか?」
二人に気付いた赤羽が振り向き聞き返す。
全員の視線が二人に突き刺さった。
「はい! この軽ワゴンはうちと取引のある仕出し弁当屋『キッチンどん』の車です」
瞳が背筋を伸ばしてはっきりと答えた。
「でも、今日は修理中で別の車で来ていましたけど……」
しかし、佳子がそう付け加える。
「修理中? どう言うことだ。至急、この車両の所在を確認! そこの二人はすぐに所有者に連絡しろ!」
後藤の大きな声がことさら大きく響いた。
「はっ、はい!」
急ぎ瞳が「キッチンどん」の店長に連絡し修理工場が判明する。しかし、車は昨夜のうちに工場から盗まれていた……。
「こっちも、盗難車か……」
がっかりと肩を落とすように原田が呟く。
「でも、原田さん。こっちが本命ですから。こいつを押さえれば『ゲーム・コンプリート』です!」
そんな原田を赤羽が後ろから励ます。
「よし! Nシステムで再度追い詰めるぞ」
上田と二人、Nシステムを起動させ、この車を探し始めた。
☆ ☆ ☆
「後藤課長。わたし達は出動の準備をしたいのですが……」
小雪は前のめりにモニターを覗きこんでいる後藤に思い切って話しかけた。
「どう言うことだ?」
後藤は振り向かず理由を求めた。
「はい、フェイク車両は池袋方面に向かいました。なので、本命は逆。つまり品川方面か江東・江戸川方面と思われます。まして、『キッチンどん』は深川のお店です。あらかじめ江東区・中央区方面で待機した方が……」
「さすが、小雪。それなら白バイ連中に連絡しておくよ。その辺なら警備会場から近いしね! あ、よろしいでしょうか? 後藤課長」
横から話に割り込んだ、瞳が慌てて後藤に許可を求めた。
「構わん。さすが交通課だな! だが誘拐の事は伏せてくれよ」
餅は餅屋。苦笑いしながら後藤は交通課の山内瞳と細川佳子の名前もしっかり記憶しようとしたのだが……。
「で、何の事件なんですか?」
二人は全くの自然体で後藤に聞いた。
「……」
「お前ら、それも分からんで口を出していたのか……」
後藤の眉間のシワがより深くなった……。
「中山。俺達だけで行こう」
赤羽が急に立ち上がって言った。
「え、はい」
意外な言葉に小雪は変なトーンの返事をしてしまう。
「俺の車が地下にある。いざとなったらサイレンも鳴らせる。後部座席はスモークだ」
廊下に出ながら赤羽が確認のように言う。
「つまり、人質を確保しても安全に会議場まで乗せられると……」
「さすがだな、頭の回転だけは良いな」
「『だけ』は余計です」
お互いの顔も見ず話しながら、地下へのエレベーターを待つ。
小雪はちょっと楽しくなって、また余計な事を言ってしまう。
「でも、運転はわたしですから。ナビも不要です。助手席でPCでも見てて下さいね。サイバーの赤羽さん」
そう言って、小雪は赤羽に向かって手のひらを差し出した。
「チッ!」
横目で睨みながら赤羽は小雪の手のひらに車のキーを押し付けた。
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