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第一章 始まりとアクロスティック

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 次の日、小雪が交通総務課の休憩室で同僚たちとテレビを見ていると、後藤課長が突然現れた。
「中山、昨日は本当に助かった。礼を言わせてくれ」
 そう言って頭を下げられてしまった。
「課長、わたしは大した事はしていませんので、どうか頭など下げないでください」
 焦って、小雪はおどおどしてしまう。
 頭を上げた後藤課長は、その後の経過を小雪たちに詳しく説明してくれた。

「午前中に再度行って、サイバーから借りた新型を早速取り付けたんだが。そしたらすぐに尻尾を出したんで、別居している長男を連れて現場に乗り込んだんだ……」
 嬉しそうに話す後藤課長を見て、小雪もほっとひと安心した。

「しかし、どうしてお前はあの暗号を簡単に解いてしまったんだ? チラッと見ただけだろうに……」
 後藤はそこが、昨日から不思議でならなかったようだ。
「あの、わたし大学時代『ミス研』にいたんです」
 少し恥ずかしそうに小雪は答える。
「ミス研?」
 聞いたこともない言葉に後藤は困惑した。

「へえー。そうなんだ意外だね」
「なぁに、その『ミス研』って?」
 同僚の瞳はすぐ分かったが、佳子は知らないようだった。
「『ミステリー研究会』通称『ミス研』だよね!」
 瞳が自慢げに解説する。
「でも、小雪がミステリー書いてたなんて知らなかったよ」
 瞳は初耳だとばかり、小雪の顔をのぞきこんだ。
「違う、違う。わたしは読むの専門。ミステリーとかの本好きが集まってワイワイやってた感じかな……」
 懐かしいと言うように当時のことを小雪は思い出す。
「でも、まさか実際にアクロスティックを見るとは思わなかったけどね……」

「不思議な巡りあわせだな!」
 車が故障しなければ、代車がマニュアル車でなければ、後藤はこの巡りあわせに運命的なものを感じていた。
「中山小雪か……」
 このあと、後藤の脳裏にこの名前がしっかりと刻まれることになる。

 休憩室のテレビでは特集の様なものが始まっていた。それに気がついて後藤が何故かテレビのボリュームを上げた。

アナウンサー「本日のゲストは、最近色々と注目を集めている。虹の橋『ビフロスト』の社長、宝田修平たからだしゅうへいさんです!」

アナウンサー「宝田さんは最高級訪問医療と言う難しい分野を開拓なさっていますが、風当りなどはやはり強いのでしょうか?」

宝田「強いどころではありませんよ。常に偏見や批判との戦いです」

アナウンサー「ブログとか炎上したと聞きましたが」

宝田「常に炎上状態ですね(笑い)」

アナウンサー「それでもやり抜くと公言されている原動力は何なのでしょうか?」

宝田「それは、そこから生まれる潤沢な資金が、きっと底辺で苦しんでいる人たちに還流出来ると思っているからです! わたし達のやっていることは、今批判をしている人にもきっと分かってもらえると信じています」

アナウンサー「ところで、宝田さんはファッションにもうるさいとか、お聞きしましたが?」

宝田「いや、お恥ずかしい! 最低限ですよ、メガネや時計をTPOで変えているだけです」

アナウンサー「でも、その指輪もオシャレですよね(右の薬指に付けた指輪を見つけて指摘する)」

宝田「分かっちゃいましたか? これはフィンランドで見つけたんですけど『ギャラルホルン』と言う角笛のレリーフが刻まれているんですよ(嬉しそうにアナウンサーに見せる)」

「中山、こいつの顔よく覚えておけ!」
 突然、後藤が真面目な顔で言う。

「柳田さんはを受けていたんだ」

「え!」
 
 改めて小雪はテレビ画面を見た。
 虹の橋「ビフロスト」宝田修平の話はまだ続いていた……。

 この週末に起こる大事件で小雪は更に大きな渦に巻き込まれていくことになるのだが……。

 それは、また次のお話で……。
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