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第一章 始まりとアクロスティック

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 新年度に入ってすぐ、今週は月曜からまわりが騒がしい。それでもここ交通総務課の受付は、平常どうりの業務を黙々とこなしていた。
「金曜日の晩に国際会議なんって。何も都心の真ん中でやらなくても良いんじゃあないの?」
 同期の山内瞳やまうちひとみはぼやいた。
「ホントね、わたしたちまで金曜に召集とかないわよね?」
 もう一人の同期の細川佳子ほそかわけいこも心配している。
「言わない方が良いわよ! 言っているとホントになっちゃうかも……」
 中山小雪なかやまこゆきは冗談交じりで対応した。
「うちは白バイ隊も要人警護や交通規制で全員出動らしいから! 今からこれだからね、当日は猫の手も借りたいって感じじゃあないかな?」
 九条くじょう係長もその可能性を否定出来なかった。
「どうせ、お弁当配りとかでしょう?」
「ある、ある!」
「何か、去年あったね……」
 そう言って、小雪は去年の年末年始の初詣の交通規制応援を思い出していた。
「あの時は、寒かったね……」
 三人のため息がシンクロした。

 そんな交通総務課の窓口に、突然、息を切らせながら駆け込んできた男がいた。
「はぁ、はぁ、ここにマニュアルの、マニュアルの免許を持っている人はいませんか?」
 小雪たちと同期の陣内徹じんないとおるだった。
「陣内! 何言ってるのかサッパリ分からないぞ。ちゃんと落ち着いて話せよ」
 瞳は同期の陣内なので遠慮なく叱り飛ばした。
「大丈夫? ほら落ち着いて話して」
 心配した佳子はコップに水を持って駆け寄った。
「あ、ありがとう。大丈夫だから……」
 落ち着きを取り戻した陣内は改めて話し出す。
「課長の送迎用の車がトラブってしまって、かわりに古いのを使うんだけど、それがマニュアル車なんだ! うちの課はみんな出払っていて運転できる奴が誰もいないんだ」
「なるほど、それで交通課に来た訳……。安直過ぎない?」
「瞳、それじゃあかわいそうだよ……」
「わたしも佳子もオートマ免許! 誰かいたっけマニュアルの免許持ち?」
 周りを見回した瞳の後ろで、二人がそっと手を上げた。
「あの、係長と私はマニュアル免許だよ……」
 小雪が恐る恐る手を上げ九条係長を見ると、露骨に目を逸らされた。
「お願い、わたしの仕事をこれ以上増やさないで! 」みんなには聞こえなかったが、確かに小雪には係長の心の声がそう聞こえた。
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