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舞台裏

68.私の王子様〈第三者side〉

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〈第三者side〉


 自分の記憶を探っていたブリトニーはやがて、下町の中でも治安の悪い路地裏で迷子になっていた、身なりの良い男の子三人を助けた事を思い出した。



 それってもしかして『私の王子様』のこと!?



 その三人の中の──多分一番身分の高い男の子。

 彼は絵本から抜け出たと言われても信じてしまいそうなほど、本当の王子様のようにカッコ良かった。

 こんな綺麗でカッコ良い男の子は見たことが無くて、将来こんな人と結婚できたら良いなぁと夢見たのだ。



 しかしそのほかの二人については……。



 申し訳ないが、ブリトニーはまったく顔を覚えていなかった。

 でも目の前の彼がブリトニーを覚えていてその時の男の子が自分だと言うのだからそうなのかもしれない。

 そして彼があの時の子なら『私の王子様』の友だち──少なくとも知り合いなのだ。



「アー! アノトキの オトコのコ? ワー、ナツカシイワ」



 茶髪の彼は、彼女の棒読みに必死で笑いをえた。



「やっぱり。あぁ、僕のこと覚えててくれたんだね? 嬉しいよ」

「モチロンヨ ワタシも ウレシイワ」



 こうしてブリトニーは、この何の特長も無く記憶にも残っていなかった彼から『私の王子様』の事を聞き出すことにした。

 だが……。



「もう! 使えないわね」



 茶髪の男子と別れたあと、ブリトニーは寮の自室で悪態をいていた。



「せっかく、『私の王子様』にまた会えると思ってたのに、友だちじゃなかったなんて……」



 彼女は手に抱えた、極彩色でカラフルな蛇のぬいぐるみをボスっと殴った。

 先ほどせっかく掴みかけたと思った手掛かりが、呆気なく途切れてしまったのだ。

 茶髪の彼は、あの日たまたま『私の王子様』と一緒に行動していただけで、彼は直接『私の王子様』と友だちではなかったのだと言う。

 あの『私の王子様』は子爵家のご子息だそうで、富裕層とはいえ、一介の商人の息子風情が紹介するのは難しいらしい。



「貴族が何よ、階級が何よ。も~お! 絶対玉の輿に乗って、私が偉くなって、誰にも文句言われなくなってみせるわ!」



 またボスッと蛇の腹目掛けて拳が叩き込まれた。

 たぶん最初はパンパンに膨れていたであろう蛇さんは、長年サンドバックにされていたようで、今やグテッとひしゃげていて悲壮感が半端ない。

 そのかわいそうな蛇さんを何度もボスボス叩き、引っ張り、ブリトニーは必死に頭を働かせる。



「でも『王子様』の名前は分かったわ。デニス・アンバー様! あぁ、きっとあの時よりもっとステキになっているでしょうね♪」



 ブリトニーはさっきの男子から聞いた情報をうっとりと思い返す。



 アンバー家が騎士で有名な家である事。

 今は子爵三男だが、将来は祖父のグランデ辺境伯を継ぐ事。

 現在は学園の騎士科に在籍していて、学年一どころか学園内でも一番の剣の使い手だと噂されている事。



 そのどれもがブリトニーのお眼鏡に叶う、素晴らしい結婚相手だ。

 これは何とかしてデニスに会い、あの時の出逢いが運命だったと思ってもらわなければならない。

 ブリトニーはこの日から、ほかの結婚相手の候補者を捨て『私の王子様』を手に入れるべく行動を開始した。
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