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本編

13.疑惑

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 沸々ふつふつと湧き上がる怒りを耐えるかのように、偽りの笑みで見返す私。

 こういう時に役立つのがお妃教育。

 咄嗟とっさの事でも、感情のコントロールは完璧にできますのよ?

 やろうと思えば……。



「証明? だから、僕が見たって言っているんだ。それ以上確かな証拠など必要ないでしょう?」

「ではその時、私の顔をはっきり見ましたか?」

「えっ……と、髪だってあなたと同じ青だったし、ドレスも今着ている水色と似た色だったし……顔は……いや、やっぱりあなただった」



 わずかにハッとしたのを見逃すような私ではない。

 余裕の笑みで、自身の顔がよく見えるようにフールに近づいた。



「この顔でした?」

「あ、あぁ。そうだ」

「でも、今日はいつもとお化粧を変えていますの。流行りの化粧なんですって。あなた今、違和感感じましたよね? ……と言うことは、いつもの私を知っていますの?」

「……化粧くらいで何が変わるんだ? 別人ってほど変わらないだろ」



 馬鹿にされたと思ってムッとするフール。



「あら良い目をしてらっしゃいますのね? まぁ、今までまともに顔を合わせて来なかったのだから、変わっていても分からないと思いますが……それなら何に驚いてらしたのかしら?」

「あ、いや、それは……遠くで見るより……えーと……お綺麗だと……」

「お褒めいただいてありがとうございます」


 苦肉の策で絞り出した嘘の言葉だからこそのお世辞だけど、褒められたからにはお礼くらい言いますよ?


「それで……クラウン殿下は? 殿下も私の顔を見て動揺されていたようですけれど。あれはどういった意味で?」

「あれは……その……久しぶりに会ったからな。ちょっとほら……」

「殿下も見惚れて下さいましたのね?」

「え? いや、違うぞ。違う。断じていつもより美しいだなどとは思っていない」



 クラウン殿下が慌てて弁明する。



 あらやだ。

 おふざけで言ったのに、図星だったの?



 当然その腕の中に収まっていたルーザリアは、他の女を美しいと褒める恋人に嫌悪感が湧く。

 彼女は化けの皮が剥がれそうな勢いで顔を引きひきつらせていた。

 まぁそんな事、私には関係ない。



 関係あるのは……。



 これでクラウン殿下の心には『疑惑』が生まれたという事だ。

 化粧でこんなに変わるなら、馬屋にいたのは別人だとしてもおかしくないと……。

 しかしこの時点でそんなこと、仕組んだ私と殿下以外に分かる者はいない。

 黙り込んだ殿下を不審に感じながらも、フールは自分の発言を信じさせるためにあれこれ言い訳じみた事をしてみたが、それをまともに取り合う者はもういなかった。
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