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領収書
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「これは一体どういうことだ。何が起きている?」
王宮に帰還した国王は、すぐに異変に気付いた。
王妃は旅の疲れを癒やすために自室に戻ろうとしたが、それすらも許されなかった。
「こちらへどうぞ」
二人が警察官たちに案内されたのは、普段使われていない空き部屋だった。そこには顔面蒼白の宰相と息子、そして何故かノーフォース公爵が着席していた。
「ノーフォース公。一から説明してもらおうか」
「陛下は、先日何者かがミリアの装飾品を盗んだことはご存じですか?」
「ああ。未だ犯人が見付かっていないそうだが……」
「見付かりましたよ。今、私の目の前にいらっしゃいます」
ノーフォース公爵が向かい側に座るサディアスへ視線を移す。
「……何かの冗談であろう?」
「おや。宰相閣下からご報告をいただいていなかったのですか?」
「宰相、何の話だ」
国王の声は僅かに震えていた。何があったのか、息子が何をしてしまったのか、頭の中ではほぼ答えに辿り着いていた。
だが思い違いであって欲しいと、思わずにはいられなかった。
たとえ周囲から疎まれている正妃相手であっても、王太子が盗みを働くなど考えたくもない。
「へ、陛下、まことに申し上げにくいのですが……」
「違う! あれは私が自分で買ったものだ! ミリアの部屋から盗んだものではない!」
サディアスの悲痛な叫びが宰相の言葉を遮った。
「そ、そうよね。私たちの息子がそんなことをするはずがないわ……」
「お言葉ですが、王妃陛下。娘と侍女が部屋を空けている間、殿下に命じられた侍従が合鍵を使って侵入したと自白もしているのですよ」
「そんなのデタラメよ! サディアスを陥れようとしているだけだわ!」
「母上の言う通りだ! 物的証拠もないのに、私を犯人扱いしないでもらおうか!」
必死に無実を訴える母子を見る公爵の目は冷ややかだった。しかし唐突に笑顔になると、数枚の紙をテーブルに置いた。
「それは何だ?」
訝しげに尋ねたのは宰相だった。
「あれらを買った時の領収書だ」
「領収、書?」
サディアスの顔から表情が抜け落ちた。
「はい。殿下は何か勘違いされているようですが、あの装飾品はミリアが正妃になってから購入したものではなく、どれも私があの子に買い与えたものです。よほど気に入っていたのでしょう。娘はあれらを持参して殿下に嫁ぎました」
「そ、そんな……だが、あれは私の……」
「裏面に彫られている製造番号を確認すれば、すぐに分かることです」
「あ……」
ノーフォース公爵にあっさり切り返され。サディアスは放心する。ミリアが今までにどのような装飾品を着けていたかなど、まったく興味がなかった。ただ「ミリアによく似合うな」ぐらいにしか思っていなかった。
まさか、ミリアが元々持っていたものを盗んでしまっていたなんて……
呆然とする息子を見て全てを悟った王妃が、息子の頬を平手打ちする。
「サディアス……何て言うことを!」
「母上、違うのです……私はただ、どうにかこの国を救おうと……!」
「意味が分からないわ! あなたには王族としての自覚がないの!?」
他国への書状の件を知らない王妃にとっては、サディアスの言い訳は到底理解出来ないものだった。さらにもう一発、息子の頬を打った。
国王も険しい顔で、宰相から事の経緯を聞き出している。
「……恐らくご両親に似たのでしょうねぇ」
柔和な笑みを浮かべたノーフォース公爵の呟きは、誰の耳にも届かなかった。
王宮に帰還した国王は、すぐに異変に気付いた。
王妃は旅の疲れを癒やすために自室に戻ろうとしたが、それすらも許されなかった。
「こちらへどうぞ」
二人が警察官たちに案内されたのは、普段使われていない空き部屋だった。そこには顔面蒼白の宰相と息子、そして何故かノーフォース公爵が着席していた。
「ノーフォース公。一から説明してもらおうか」
「陛下は、先日何者かがミリアの装飾品を盗んだことはご存じですか?」
「ああ。未だ犯人が見付かっていないそうだが……」
「見付かりましたよ。今、私の目の前にいらっしゃいます」
ノーフォース公爵が向かい側に座るサディアスへ視線を移す。
「……何かの冗談であろう?」
「おや。宰相閣下からご報告をいただいていなかったのですか?」
「宰相、何の話だ」
国王の声は僅かに震えていた。何があったのか、息子が何をしてしまったのか、頭の中ではほぼ答えに辿り着いていた。
だが思い違いであって欲しいと、思わずにはいられなかった。
たとえ周囲から疎まれている正妃相手であっても、王太子が盗みを働くなど考えたくもない。
「へ、陛下、まことに申し上げにくいのですが……」
「違う! あれは私が自分で買ったものだ! ミリアの部屋から盗んだものではない!」
サディアスの悲痛な叫びが宰相の言葉を遮った。
「そ、そうよね。私たちの息子がそんなことをするはずがないわ……」
「お言葉ですが、王妃陛下。娘と侍女が部屋を空けている間、殿下に命じられた侍従が合鍵を使って侵入したと自白もしているのですよ」
「そんなのデタラメよ! サディアスを陥れようとしているだけだわ!」
「母上の言う通りだ! 物的証拠もないのに、私を犯人扱いしないでもらおうか!」
必死に無実を訴える母子を見る公爵の目は冷ややかだった。しかし唐突に笑顔になると、数枚の紙をテーブルに置いた。
「それは何だ?」
訝しげに尋ねたのは宰相だった。
「あれらを買った時の領収書だ」
「領収、書?」
サディアスの顔から表情が抜け落ちた。
「はい。殿下は何か勘違いされているようですが、あの装飾品はミリアが正妃になってから購入したものではなく、どれも私があの子に買い与えたものです。よほど気に入っていたのでしょう。娘はあれらを持参して殿下に嫁ぎました」
「そ、そんな……だが、あれは私の……」
「裏面に彫られている製造番号を確認すれば、すぐに分かることです」
「あ……」
ノーフォース公爵にあっさり切り返され。サディアスは放心する。ミリアが今までにどのような装飾品を着けていたかなど、まったく興味がなかった。ただ「ミリアによく似合うな」ぐらいにしか思っていなかった。
まさか、ミリアが元々持っていたものを盗んでしまっていたなんて……
呆然とする息子を見て全てを悟った王妃が、息子の頬を平手打ちする。
「サディアス……何て言うことを!」
「母上、違うのです……私はただ、どうにかこの国を救おうと……!」
「意味が分からないわ! あなたには王族としての自覚がないの!?」
他国への書状の件を知らない王妃にとっては、サディアスの言い訳は到底理解出来ないものだった。さらにもう一発、息子の頬を打った。
国王も険しい顔で、宰相から事の経緯を聞き出している。
「……恐らくご両親に似たのでしょうねぇ」
柔和な笑みを浮かべたノーフォース公爵の呟きは、誰の耳にも届かなかった。
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