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強権

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 ミリアが実家に帰った数日後。ノーフォース公爵が大勢の警察官を率いて、王宮を訪れた。

「私の大事な娘が不当な扱いを受けたそうなのでな。少し調べさせてもらおう」
「調べる? 何をだ?」
「まずは、娘の装飾品を盗んだ犯人を探さなくては。どうせ、そちらでは何もしていないのだろう?」

 顎を擦りながらノーフォース公爵が問う。質問というより、確認するような物言いだった。
 宰相はごくりと息を呑む。昔からこの男が苦手だったのだ。

 ルマンズ侯爵が不正を嫌う清廉潔白な人物であるなら、ノーフォース公爵は目的のためなら手段を選ばない狡猾な男だ。
 公爵家の手によって潰された貴族家もある。
 いや、この男だけではない。ノーフォース公爵家は代々そうやって自分たちに仇なす者を排除し続け、ミジューム王国の名家として君臨してきた。外交にも力を入れており、他国との繋がりも深い。
 恐ろしい血筋だ。この国で、最も敵に回してはならないと言われている。

 ミリアに受け継がれたのは、ずる賢さだけだった。それも自分に都合の悪いことが起こった時にだけ発揮される。
 本当にノーフォース公爵家の人間かと疑いたくなるような、お花畑の娘だ。
 ミリアという突然変異が生まれ、安堵する者もいれば、同情する者も多かった。

 公爵家はミリア以外に子宝に恵まれなかった。
 社交界では、数年前に亡くなった夫人の病気が関係しているのではと囁かれている。
 公爵は夫人を寵愛していたので、後妻を迎えるつもりがないとも……

「では宰相閣下、あなたの部屋も調べてもいいだろうか」
「ま、待て公爵殿。そなたにそのような権限はない。たとえ娘のためであっても、認められんぞ」
「あなた方に認めてもらわなくても結構。既に議会の承認も得ている」

 ノーフォース公爵は薄ら笑いを浮かべ、承認書を宰相に見せつけた。

(何という男だ……)

 確かに数日前に議会は開かれている。だが、この件について議案が提出されたという報告は上がってない。
 恐らく箝口令でも敷いていたのだろう。証拠の隠滅を防ぐためと言っておけば、反対意見も挙がらない。
 さらに、ミジューム警察の上層部の半数は、ノーフォース派が占めている。

 議会を掌握し、警察も思うがままに動かせる。
 今、この国でノーファース公爵家にまともに対抗出来るのは、ルマンズ侯爵家ぐらいだろう。

(議会にはルマンズ侯爵も出席していたはずだ。なのに何故、公爵を止めなかったのだ!?)

 警察官を引き連れて王宮に押しかけるなど、前代未聞だ。他の高位貴族たちならともかく、ルマンズ侯爵が看過するとは思えない。
 どうして止めてくれなかったのかと、他力本願な考えが浮かんでしまう。


 こうして警察官たちよる捜索が始まった。
 よりによって国王王妃両陛下が、公務で地方へ出向いている時の出来事だった。いや、このタイミングを狙っていたのだろう。

 多くの者たちは困惑しつつも、捜査には協力的だった。何もやましいことなどないからだ。

 だがしかし、疚しいことがある者は話が別だった。

「や、やめろ、私の部屋には入るな! 貴様ら全員不敬罪で絞首台送りにしてやる!!」

 サディアスが必死の形相で抵抗しているが、何の抑止にもなっていない。警察官たちによって、ドロワーやクローゼットの中から調べられていく。

「……殿下、何故あなたがこのようなものをお持ちなのですか?」

 捜査に立ち会っていた宰相は、この時大いに悔やんだ。
 何故、サディアスにミリアの装飾品を返却してしまっていたのかと。
 誰にも見付からないよう、王宮の外へ持ち出しておくべきだったのだ。
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