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10.さよならエリオット

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 え、どゆこと……?
 私がポカンとしていると、母は不思議そうに首を傾げた。

「あら? リリティーヌ、離婚したくないの?」
「えっ、すごくしたいです!」

 私が即答すると、「じゃあ、まずはここから出ましょう」と言う。
 私にとっては理想の展開だけど、話の流れがまったく分からない。
 だけどそれは、私だけじゃなかった。

「ちょっ……リリティーヌを連れて行くおつもりですか!?」

 いつの間にか応接間にいたエリオットが、焦ったように母に問う。
 母は扇で口元を隠しながら、「ええ」と答えた。

「うちの娘があなたと離婚したいとのことなので。でしたら母として、協力するのは当然でしょう?」
「り、離婚……?」

 母の言葉に、エリオットが信じられないというような顔で私を見る。
 だけど私は無視して、母に質問をした。

「お母様は私の味方なの?」
「勿論よ」
「でも、お父様は離婚するなって……」
「あの人のことは、気にしなくていいの。大丈夫、何も心配はいらないわ」

 母はそう言いながら、私の頭を優しく撫でてくれた。
 その言葉に、その笑顔に、私は目を潤ませる。
 母も、父と同じように私の気持ちなんて聞いてくれないと思っていたから……

「お、おか、お母様ぁ……!」

 涙を零しながら、私は母に強く抱き着いた。
 幼い子供のようにわんわん泣きじゃくる私の背中を、母は何度も擦っている。
 と、その光景を見ていたエリオットが口を開いた。

「離婚だなんて僕は絶対に応じません! 僕たちは愛し合っているのに、どうして別れなければならないのですか……!?」
「……愛し合っている?」

 母がぴくりと片眉を動かす。

「二年も関係が続いていた女性を屋敷に住まわせておいて、そのようなことを仰るのですか?」
「レナとの関係はもう終わっています」
「けれどトゥール侯爵様は、リリティーヌ以外の女性と頻繁に出歩いているそうで」
「そ、それは新居探しや買い物のためです!」

 エリオットは、動揺しながら反論した。
 けれどそれで、素直に納得する母ではない。呆れたような眼差しをエリオットに向けた。

「あなたが何を仰っても、私の考えは変わりません。リリティーヌは連れて帰りますので」
「リリティーヌ……考え直してくれ!」

 縋るような眼差し。それを拒絶するように、私は首を横に振った。
 浮気が発覚した時、私は離婚を思い留まった。もう一度、この男を信じようと思った。
 その気持ちを裏切ったのはエリオットだ。
 かつての浮気相手ばかり優先して、私はその次。
 なのに考え直せだなんて、冗談じゃない。

「エリオット」

 優しい声で名前を呼ぶと、エリオットは目を輝かせながら反応した。
 いい顔。私はにっこりと微笑んだ。

「レナさんと末永くお幸せにね」
「リリ……」
「それじゃあ、私荷物を纏めに行くから」

 素っ気ない口調で告げて、応接間を後にする。
 自分の部屋に向かう前に、私はメイドに声をかけた。

「レナはどこに行ったか分かる?」
「そ、それが内側から鍵をかけて、引きこもってしまいまして」
「……そう」

 ネックレスを返すのが嫌で、籠城作戦に出たか……
 下手に癇癪を起こされてネックレスを壊されるかもしれない。
 今すぐ取り戻したいけど、ここは一旦引こうと、母と話し合って決めた。

 今まで好き勝手していたことへの報いは、後からしっかり受けさせてやる……!
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