2 / 13
2.絆された
しおりを挟む
馬鹿二人を連れて屋敷に戻る。
私以外の女がエリオットにべったりな様子を見て、メイドが「えっ」という顔をした。
この地獄みたいな状況でも罪悪感ゼロな女もヤバいし、それを咎めようとしないエリオットもヤバい。
話し合いはエリオットの部屋で行うことに。
私は広間でいいだろと思ったけど、
「私……エリオット様のお部屋に行ってみたいです!」
「いいよ。こっちだ」
と、二人で勝手に話を進められた。
まるで初めて恋人のお家にお邪魔しましたみたいな、初々しい雰囲気を醸し出している。
まあそのおかげで、私は怒りモードを継続していられるわけだけど。気を抜いたら涙が出そうだった。
「それでお二人はいつからの関係なのですか?」
「……二年前から」
私が尋ねると、エリオットは気まずそうに答えた。
それでも、ちゃっかり自分の隣に座っている女と手を握り合っている。
二年前。それを聞いて私は遠い目をした。
私たちが結婚したのは三年前なんだけど、たった一年で浮気をしただと……?
「……その人のお名前は?」
「私はレナっていいます。ウエイトレスをしてます」
キリッとした顔で女が名乗った。
エリオットの趣味は食べ歩き。平民向けのレストランを訪れることもよくある。
なるほど、二人はそこで出会ったのか。
私はふぅーと溜め息をついてから、極力感情を込めずに言い放った。
「よし、離婚しましょう」
「な……っ!」
「だって、今もレナさんのことを愛しているようですし。私もそんな人と夫婦として続けていきたくありませんので、とっとと身を引かせていただきます」
「ま、待ってくれ、リリティーヌっ!」
エリオットが真っ青な顔で私に懇願する。
「考え直してくれないかな? たった一度の過ちで、僕たちの全てが終わってしまうのは……」
「終わらせるようなことをしたあなたが悪いんでしょうが!」
被害者面に腹が立って声を荒らげれば、エリオットも流石に言葉を詰まらせた。
浮気なんてよくある話。特に富も権力も持っている貴族なんかは。
私の友人の中にも、浮気癖のある夫がいると笑い話にしている人がいる。
だからエリオットの言う通り、たかが初めての浮気程度で離婚と騒ぐのは過剰なのかもしれない。
しかし、私とて譲れないものがある。
「……では、失礼します」
これ以上彼と話をするのも、彼の顔を見るのも嫌だった。
椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
「リリティーヌ……っ!」
腕を引かれ、振り返ったところで抱き締められる。
私が抵抗すると、離れることを許さないとでも言うように腕の力が強くなった。
「悪かった。申し訳ないことをしたと思っている。だけど、君のことは今も心から愛しているよ。その気持ちに偽りはない……」
「っ、だったらどうして私以外の女と……!」
「僕だってたくさん悩んだ。一晩中考えて眠れない夜もあったよ。だけど、選べなくて……ごめん。ごめんよ、リリティーヌ……!」
エリオットの青い目には涙が浮かんでいた。
宝石のように綺麗で、そんなものを間近で見せられたら決心が揺らいでしまう。
そう、この人が私を愛してくれているのは真実。
これまで私に注いでくれた優しさと愛情が、そのことを証明している。
でも……許してしまっていいのか、私には分からなかった。
「やめて……やめて、エリオット。これ以上私を苦しめないで……」
「もう迷わない。君を選ぶ。だから……もう一度僕をしんじて?」
穏やかで優しくて、けれど有無を言わせない声。
私がこくんと頷くと、エリオットは目を細めて微笑んだ。彼の目尻から涙がぽろりと零れ、それを指で拭ってあげれば「ありがとう」と温かな言葉。
信じたい。愛したい。
そんな想いに突き動かされ、広い背中に腕を回した。
今にして思えば、これが私の人生最大のやらかしだった。
私以外の女がエリオットにべったりな様子を見て、メイドが「えっ」という顔をした。
この地獄みたいな状況でも罪悪感ゼロな女もヤバいし、それを咎めようとしないエリオットもヤバい。
話し合いはエリオットの部屋で行うことに。
私は広間でいいだろと思ったけど、
「私……エリオット様のお部屋に行ってみたいです!」
「いいよ。こっちだ」
と、二人で勝手に話を進められた。
まるで初めて恋人のお家にお邪魔しましたみたいな、初々しい雰囲気を醸し出している。
まあそのおかげで、私は怒りモードを継続していられるわけだけど。気を抜いたら涙が出そうだった。
「それでお二人はいつからの関係なのですか?」
「……二年前から」
私が尋ねると、エリオットは気まずそうに答えた。
それでも、ちゃっかり自分の隣に座っている女と手を握り合っている。
二年前。それを聞いて私は遠い目をした。
私たちが結婚したのは三年前なんだけど、たった一年で浮気をしただと……?
「……その人のお名前は?」
「私はレナっていいます。ウエイトレスをしてます」
キリッとした顔で女が名乗った。
エリオットの趣味は食べ歩き。平民向けのレストランを訪れることもよくある。
なるほど、二人はそこで出会ったのか。
私はふぅーと溜め息をついてから、極力感情を込めずに言い放った。
「よし、離婚しましょう」
「な……っ!」
「だって、今もレナさんのことを愛しているようですし。私もそんな人と夫婦として続けていきたくありませんので、とっとと身を引かせていただきます」
「ま、待ってくれ、リリティーヌっ!」
エリオットが真っ青な顔で私に懇願する。
「考え直してくれないかな? たった一度の過ちで、僕たちの全てが終わってしまうのは……」
「終わらせるようなことをしたあなたが悪いんでしょうが!」
被害者面に腹が立って声を荒らげれば、エリオットも流石に言葉を詰まらせた。
浮気なんてよくある話。特に富も権力も持っている貴族なんかは。
私の友人の中にも、浮気癖のある夫がいると笑い話にしている人がいる。
だからエリオットの言う通り、たかが初めての浮気程度で離婚と騒ぐのは過剰なのかもしれない。
しかし、私とて譲れないものがある。
「……では、失礼します」
これ以上彼と話をするのも、彼の顔を見るのも嫌だった。
椅子から立ち上がり、部屋から出て行こうとする。
「リリティーヌ……っ!」
腕を引かれ、振り返ったところで抱き締められる。
私が抵抗すると、離れることを許さないとでも言うように腕の力が強くなった。
「悪かった。申し訳ないことをしたと思っている。だけど、君のことは今も心から愛しているよ。その気持ちに偽りはない……」
「っ、だったらどうして私以外の女と……!」
「僕だってたくさん悩んだ。一晩中考えて眠れない夜もあったよ。だけど、選べなくて……ごめん。ごめんよ、リリティーヌ……!」
エリオットの青い目には涙が浮かんでいた。
宝石のように綺麗で、そんなものを間近で見せられたら決心が揺らいでしまう。
そう、この人が私を愛してくれているのは真実。
これまで私に注いでくれた優しさと愛情が、そのことを証明している。
でも……許してしまっていいのか、私には分からなかった。
「やめて……やめて、エリオット。これ以上私を苦しめないで……」
「もう迷わない。君を選ぶ。だから……もう一度僕をしんじて?」
穏やかで優しくて、けれど有無を言わせない声。
私がこくんと頷くと、エリオットは目を細めて微笑んだ。彼の目尻から涙がぽろりと零れ、それを指で拭ってあげれば「ありがとう」と温かな言葉。
信じたい。愛したい。
そんな想いに突き動かされ、広い背中に腕を回した。
今にして思えば、これが私の人生最大のやらかしだった。
118
お気に入りに追加
2,752
あなたにおすすめの小説
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定

いくら時が戻っても
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
大切な書類を忘れ家に取りに帰ったセディク。
庭では妻フェリシアが友人二人とお茶会をしていた。
思ってもいなかった妻の言葉を聞いた時、セディクは―――
短編予定。
救いなし予定。
ひたすらムカつくかもしれません。
嫌いな方は避けてください。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。


地獄の業火に焚べるのは……
緑谷めい
恋愛
伯爵家令嬢アネットは、17歳の時に2つ年上のボルテール侯爵家の長男ジェルマンに嫁いだ。親の決めた政略結婚ではあったが、小さい頃から婚約者だった二人は仲の良い幼馴染だった。表面上は何の問題もなく穏やかな結婚生活が始まる――けれど、ジェルマンには秘密の愛人がいた。学生時代からの平民の恋人サラとの関係が続いていたのである。
やがてアネットは男女の双子を出産した。「ディオン」と名付けられた男児はジェルマンそっくりで、「マドレーヌ」と名付けられた女児はアネットによく似ていた。
※ 全5話完結予定
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる
kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。
いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。
実はこれは二回目人生だ。
回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。
彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。
そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。
その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯
そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。
※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。
※ 設定ゆるゆるです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる