9 / 16
9.魔法師
しおりを挟む
レイラに宿った子は、少しずつ成長している。
私たちの両親は大いに喜び、早くも出産後の計画を立てている。
時を同じくして、アンリの懐妊も判明した。
新聞の一面を飾っていたのだ。
その記事を読んだレイラは、何故か安心したように深く溜め息をついていた。
「よかった。アンリ様はレスター男爵と良好な仲を築けているようですね」
「……ああ」
シリルは先日、レスター家の爵位を継いだ。
それを祝う夜会には、マルス殿下を始め多くの貴族が出席した。
その中には、魔法師たちも多く含まれていたという。
シリルが目指しているのは、魔法要らずの生活。
それは魔法師の仕事を奪うようなものだ。
てっきり恨まれると思っていたので意外だった。
執事にそんな話をすると、苦笑いをされた。
「逆でございますよ。魔法師はレスター男爵に感謝しているのです」
「何故だ。職を失うことになるのだぞ」
「男爵が目標としているのは、正確に言えば魔法ではなく魔法師に頼りすぎない暮らしです。我が国は、あらゆる面で魔法に依存しているのが現状です。そのため、魔法師への負担も大きい……魔法が使えると分かれば、その力に見合った仕事に就かされることが当たり前になっています」
「そ、それの何が悪いというのだ。皆の役に立てて、彼らも本望だろうに」
私の問いかけに、執事は呆れたように笑いながら、首を横に振る。
「職業の選択権がない。それは、以前から彼らの大きな悩みでした。火魔法が使えれば、女性であっても強制的に鉄鋼工場で働くことになる。魔法を使わない仕事がしたいのに、土壌浄化の仕事を任される。他の従業員よりも仕事量が多いのに、給料はさして変わらない……そのような不満を抱えていた彼らにとって、レスター男爵や彼の考えに賛同している貴族は救世主のような存在でしょうね」
「魔法が使えない者たちからすれば、贅沢な悩みではないか。少しは魔法師であることに誇りを持ってもらわなければ……」
「クリストフ様のような考え方の貴族も、少なくはありません。なので、そのような貴族が管轄する領地からは、魔法師が抜け出しつつあります」
「何……?」
「もちろん、ロイジェ領も例外ではありません。優秀な魔法師のうち、三分の一ほどが他の領地に移住しております」
な、何だ、三分の一くらいか。まだ半分以上いるじゃないか……
安堵の溜め息をつく私は、まだこの時は事の重大さに気づいていなかった。
私たちの両親は大いに喜び、早くも出産後の計画を立てている。
時を同じくして、アンリの懐妊も判明した。
新聞の一面を飾っていたのだ。
その記事を読んだレイラは、何故か安心したように深く溜め息をついていた。
「よかった。アンリ様はレスター男爵と良好な仲を築けているようですね」
「……ああ」
シリルは先日、レスター家の爵位を継いだ。
それを祝う夜会には、マルス殿下を始め多くの貴族が出席した。
その中には、魔法師たちも多く含まれていたという。
シリルが目指しているのは、魔法要らずの生活。
それは魔法師の仕事を奪うようなものだ。
てっきり恨まれると思っていたので意外だった。
執事にそんな話をすると、苦笑いをされた。
「逆でございますよ。魔法師はレスター男爵に感謝しているのです」
「何故だ。職を失うことになるのだぞ」
「男爵が目標としているのは、正確に言えば魔法ではなく魔法師に頼りすぎない暮らしです。我が国は、あらゆる面で魔法に依存しているのが現状です。そのため、魔法師への負担も大きい……魔法が使えると分かれば、その力に見合った仕事に就かされることが当たり前になっています」
「そ、それの何が悪いというのだ。皆の役に立てて、彼らも本望だろうに」
私の問いかけに、執事は呆れたように笑いながら、首を横に振る。
「職業の選択権がない。それは、以前から彼らの大きな悩みでした。火魔法が使えれば、女性であっても強制的に鉄鋼工場で働くことになる。魔法を使わない仕事がしたいのに、土壌浄化の仕事を任される。他の従業員よりも仕事量が多いのに、給料はさして変わらない……そのような不満を抱えていた彼らにとって、レスター男爵や彼の考えに賛同している貴族は救世主のような存在でしょうね」
「魔法が使えない者たちからすれば、贅沢な悩みではないか。少しは魔法師であることに誇りを持ってもらわなければ……」
「クリストフ様のような考え方の貴族も、少なくはありません。なので、そのような貴族が管轄する領地からは、魔法師が抜け出しつつあります」
「何……?」
「もちろん、ロイジェ領も例外ではありません。優秀な魔法師のうち、三分の一ほどが他の領地に移住しております」
な、何だ、三分の一くらいか。まだ半分以上いるじゃないか……
安堵の溜め息をつく私は、まだこの時は事の重大さに気づいていなかった。
99
お気に入りに追加
1,295
あなたにおすすめの小説
令嬢が婚約破棄をした数年後、ひとつの和平が成立しました。
夢草 蝶
恋愛
公爵の妹・フューシャの目の前に、婚約者の恋人が現れ、フューシャは婚約破棄を決意する。
そして、婚約破棄をして一週間も経たないうちに、とある人物が突撃してきた。
婚約破棄を申し込まれたので、ちょっと仕返ししてみることにしました。
夢草 蝶
恋愛
婚約破棄を申し込まれた令嬢・サトレア。
しかし、その理由とその時の婚約者の物言いに腹が立ったので、ちょっと仕返ししてみることにした。
私を「ウザイ」と言った婚約者。ならば、婚約破棄しましょう。
夢草 蝶
恋愛
子爵令嬢のエレインにはライという婚約者がいる。
しかし、ライからは疎んじられ、その取り巻きの少女たちからは嫌がらせを受ける日々。
心がすり減っていくエレインは、ある日思った。
──もう、いいのではないでしょうか。
とうとう限界を迎えたエレインは、とある決心をする。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた
迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」
待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。
「え……あの、どうし……て?」
あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。
彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。
ーーーーーーーーーーーーー
侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。
吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。
自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。
だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。
婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。
※基本的にゆるふわ設定です。
※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます
※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。
※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。
※※しれっと短編から長編に変更しました。(だって絶対終わらないと思ったから!)
妹と婚約者を交換したので、私は屋敷を出ていきます。後のこと? 知りません!
夢草 蝶
恋愛
伯爵令嬢・ジゼルは婚約者であるロウと共に伯爵家を守っていく筈だった。
しかし、周囲から溺愛されている妹・リーファの一言で婚約者を交換することに。
翌日、ジゼルは新たな婚約者・オウルの屋敷へ引っ越すことに。
妹が公爵夫人になりたいようなので、譲ることにします。
夢草 蝶
恋愛
シスターナが帰宅すると、婚約者と妹のキスシーンに遭遇した。
どうやら、妹はシスターナが公爵夫人になることが気に入らないらしい。
すると、シスターナは快く妹に婚約者の座を譲ると言って──
本編とおまけの二話構成の予定です。
比べないでください
わらびもち
恋愛
「ビクトリアはこうだった」
「ビクトリアならそんなことは言わない」
前の婚約者、ビクトリア様と比べて私のことを否定する王太子殿下。
もう、うんざりです。
そんなにビクトリア様がいいなら私と婚約解消なさってください――――……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる