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6.招待状
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結婚して一年後。レイラが子を宿したことが分かり、ロイジェ公爵家で夜会が開かれることになった。
招待する客は、我が家と親交の深い者たち。その中にはもちろん、王族も含まれている。
「何を考えているのですか、クリストフ様!」
ソファーで寛いでいると、レイラが顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。
「ど、どうした? 何かあったのか?」
「どうしたもこうしたも……これはいったいどういうことです!?」
レイラが私に見せつけたのは、夜会の招待状だ。準備を済ませて、後は貴族専門の郵便社に配達を任せる予定だった。
「勝手に執務室から持ち出したのか? どうしたんだ、君らしくもない」
「いいから私の質問にお答えください! 何故……何故、彼女も招こうとされているのですか!?」
確かに宛名の欄には、レスター男爵子息夫人と記載されている。
「お、落ち着くんだ、レイラ。あまり騒ぎすぎると、体に障るぞ」
「落ち着いてなどいられません! 披露宴の時もそうでしたが、元婚約者を招待するなんて……」
「アンリのことは、心配しなくてもいい。あれからもう一年も経っているんだ。催しに参加しても、彼女を悪く言う者などいないさ」
「少しは私の気持ちもご理解してください!」
声を張り上げて叫ぶ。その目には、光るものが浮かんでいた。
これほどまでに取り乱す妻を見るのは初めてで、私は口を開いたまま呆然とする。
「どうしてそんなに怒っているんだ。別に君が責められるわけでもないのに……」
「……クリストフ様のお心には、まだアンリ様への気持ちが残っています。私はそのことがどうしても許せません」
「彼女はかつての婚約者だ。今も情が残っているのは仕方がないだろう」
「そんなの嫌です! クリストフ様は私だけを見てください! あの方のことなんて忘れて……!」
「しかし……」
「それにアンリ嬢は、レスター男爵子息と新しい人生を歩もうとしています。もうあなたへの気持ちは、残っていません」
「そんなことはないさ。何年ともにいたと思っているんだ」
私が間を置かずに反論すると、レイラは呆れたように溜め息をつく。
「ですがこの一年、あなたに接触しようとなさらなかったではありませんか」
「……自分の夫に気を遣っているだけじゃないのか?」
「どうして断言できるのですか?」
「アンリが嫁いだのは、レスター男爵家だ。今のところは礼儀正しく振舞っているようだが、本当は逃げ出したいに決まっている」
「…………」
「君だって先日言っていただろう。『私のせいで、アンリ嬢は泥船に乗ることになった』と」
私がそう言った途端、レイラの顔が真っ赤に染まる。
高位貴族ばかりを集めた茶会で、夫人たちと談笑しているのを偶然立ち聞きしてしまったのだ。
「そ、それは……」
「アンリがああなってしまったのが自分の責任と感じているのなら、もう少し彼女に対して寛大な心を持つんだ」
卑怯な物言いなのは自覚している。けれどレイラには光魔法を持つ者らしく、誰に対しても聖母のような優しさを持って欲しい。
「心配しなくても、私が愛しているのは君一人だ。アンリに言い寄られても、その事実が揺らぐことはない」
力なく項垂れるレイラの体を抱き寄せる。
まだ平たいままの腹部。これが次第に膨らんでいくのかと思うと、心が躍る。
「……信じてもよろしいのですね?」
「君が選んだ男を信じてくれ」
レイラはこくりと頷き、瞼を閉じて僅かに上を向いた。
私も目を瞑ると、桃色の唇に自分のものを重ねる。
そして一か月後。予定通り夜会が開かれた。
招待する客は、我が家と親交の深い者たち。その中にはもちろん、王族も含まれている。
「何を考えているのですか、クリストフ様!」
ソファーで寛いでいると、レイラが顔を真っ赤にして詰め寄ってきた。
「ど、どうした? 何かあったのか?」
「どうしたもこうしたも……これはいったいどういうことです!?」
レイラが私に見せつけたのは、夜会の招待状だ。準備を済ませて、後は貴族専門の郵便社に配達を任せる予定だった。
「勝手に執務室から持ち出したのか? どうしたんだ、君らしくもない」
「いいから私の質問にお答えください! 何故……何故、彼女も招こうとされているのですか!?」
確かに宛名の欄には、レスター男爵子息夫人と記載されている。
「お、落ち着くんだ、レイラ。あまり騒ぎすぎると、体に障るぞ」
「落ち着いてなどいられません! 披露宴の時もそうでしたが、元婚約者を招待するなんて……」
「アンリのことは、心配しなくてもいい。あれからもう一年も経っているんだ。催しに参加しても、彼女を悪く言う者などいないさ」
「少しは私の気持ちもご理解してください!」
声を張り上げて叫ぶ。その目には、光るものが浮かんでいた。
これほどまでに取り乱す妻を見るのは初めてで、私は口を開いたまま呆然とする。
「どうしてそんなに怒っているんだ。別に君が責められるわけでもないのに……」
「……クリストフ様のお心には、まだアンリ様への気持ちが残っています。私はそのことがどうしても許せません」
「彼女はかつての婚約者だ。今も情が残っているのは仕方がないだろう」
「そんなの嫌です! クリストフ様は私だけを見てください! あの方のことなんて忘れて……!」
「しかし……」
「それにアンリ嬢は、レスター男爵子息と新しい人生を歩もうとしています。もうあなたへの気持ちは、残っていません」
「そんなことはないさ。何年ともにいたと思っているんだ」
私が間を置かずに反論すると、レイラは呆れたように溜め息をつく。
「ですがこの一年、あなたに接触しようとなさらなかったではありませんか」
「……自分の夫に気を遣っているだけじゃないのか?」
「どうして断言できるのですか?」
「アンリが嫁いだのは、レスター男爵家だ。今のところは礼儀正しく振舞っているようだが、本当は逃げ出したいに決まっている」
「…………」
「君だって先日言っていただろう。『私のせいで、アンリ嬢は泥船に乗ることになった』と」
私がそう言った途端、レイラの顔が真っ赤に染まる。
高位貴族ばかりを集めた茶会で、夫人たちと談笑しているのを偶然立ち聞きしてしまったのだ。
「そ、それは……」
「アンリがああなってしまったのが自分の責任と感じているのなら、もう少し彼女に対して寛大な心を持つんだ」
卑怯な物言いなのは自覚している。けれどレイラには光魔法を持つ者らしく、誰に対しても聖母のような優しさを持って欲しい。
「心配しなくても、私が愛しているのは君一人だ。アンリに言い寄られても、その事実が揺らぐことはない」
力なく項垂れるレイラの体を抱き寄せる。
まだ平たいままの腹部。これが次第に膨らんでいくのかと思うと、心が躍る。
「……信じてもよろしいのですね?」
「君が選んだ男を信じてくれ」
レイラはこくりと頷き、瞼を閉じて僅かに上を向いた。
私も目を瞑ると、桃色の唇に自分のものを重ねる。
そして一か月後。予定通り夜会が開かれた。
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