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【三年後編】不幸の手紙

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「ふんふふーんっ♪」
「レイフェルさん、最近ご機嫌ですね」
「ふふふーん、ふんふーんっ♪」
「鼻唄も段々リズミカルになってきて……」
「オゥイェェェ~! イェアアアア!!」
「ただのヤバい人になってる!! 店の外にも聞こえるんでやめてください!!」
「モガガッ」

 く、苦しいっ! 息が出来なくて死ぬ死ぬっ!
 命の危険に晒され、私は口と鼻を塞ぐティアの手をべりっと引き剥がした。

「す、すみません。あんまりにもうるさかったのでつい……」

 ティアが申し訳なさそうに謝ってくるけど、口だけじゃなくて鼻も塞ぐのは完全に殺しにかかってるんだよ。だけど浮かれに浮かれまくって、奇声を上げていた自覚はあるので文句は言えない。
 突き刺さるような視線を感じて窓の方をチラリと見ると、村人たちが珍獣を見るような眼差しで店内を覗いていた。私と目が合った途端、すぐに退散したけど。

「で、何かいいことあったんですか?」
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました! あ、でもやっぱり恥ずかしいから、また今度で……」
「そこで焦らさないでくださいよ! 気になるじゃないですか!」
「う、うん」

 両目をかっ開いたティアに詰め寄られて、私はコクコクと頷いた。そうだよね。こんな大事なこと、いつまでも弟子に黙っているわけにもいかないものね。

「実は私……」
「はい」

 私が覚悟を決めて表情を引き締めると、つられたようにティアも緊張感を帯びた表情で姿勢を正す。
 さあ、驚くがよい! そして祝福して!

「何と! アルさんとの! 結婚式の日取りが! 決定しました!!」
「あ、知ってます」
「ええええええっ!?」

 逆ドッキリをかまされたみたいになっとる!
 アルさんの二人だけの秘密だったはずなのに、知ってたってどういうことじゃい!

「この前、レイフェルさんがいない時にアルさんが店に来たんですけど、終始顔が真っ赤で明らかに挙動がおかしかったから、『どうしたんですか?』って聞いたらすんごい早口で話してくれましたよ」
「アルさぁぁぁんっ!!」

 情報源がまさかの恋人でした。ティアも「これ、聞いちゃいけないやつだったのでは?」と思い、私が言うまで黙っておくことにしたらしい。何か気を遣わせちゃってごめん……
 だけど、アルさんもそのくらい浮かれてたってことなのかな。私の前では、聡明なイケメンを装っていたのに……そう考えると、ちょっと可愛い。

「結婚式の当日に婚姻届も提出するって言ってましたよ」
「アルさん……そんなことまで……?」

 ティアを完全に私の身内と見なして、何でもかんでも喋っていたようだ。まあ、間違ってはいないか。
 両親と妹のルージェ、そしてレオル伯爵家のアーロンは今でも鉱山でせっせと働いている。労働などに耐え切れなくなったルージェやアーロンが脱走して、私の前に姿を現したこともいい思い出だ。いや、よくないか。働け。

「…………」
「レイフェルさん?」
「あ、ううん。うちの両親にも結婚しますって、一応知らせておいた方がいいのかなって……」

 私がそう言うと、ティアはオブラートなしで胃薬を飲んだような顔をした。

「別に知らせなくてもよくないですか? 嫉妬のあまり全員で脱走して村に押しかけてくるかもしれませんよ」
「うっ……」

 前科が二度もあるので、ぐうの音も出ない。
 特にルージェが心配。以前まで問題行動が多かったって聞いたことがあるし。
 だけど、たまに送られてくる手紙を読み限りでは更生しているっぽいから、四人の良心を信じたい気持ちもある。

「でもまあ、流石に三度目の脱走はないですよね!」

 私の葛藤を見透かしたように、ティアが軽く笑って言う。

「そ、そうだよね! あれ以来、脱走防止用の柵も雷の魔石製のものに変えたそうだし!」

 と、その時、店の扉をドンドンと叩く音が聞こえた。村の人たちだったら、ノックをせずに入ってくるはずだ。私は「はーい」と返事をしながら、扉を開けた。

「ニャウ!」

 来訪者はクラリスだった。鳴き声は可愛いのに、相変わらずデカい。村の田畑を荒らす害獣を退治してくれる我が村の番猫なのだが、初めてこの村を訪れた旅商人は大抵ビビりまくる。

「あれ? クラリス、手紙届けに来てくれたの?」

 クラリスは一通の封筒を口に咥えていて、私が尋ねるとコクンと頷いた。散歩中に郵便配達員と出会い、預かって来たのだろう。

「ありがとう。はい、ご褒美の干し肉ですよ~」
「ウニャウニャ」

 干し肉をゲットしたクラリスが、軽やかな足取りで店から出て行く。それを見送ってから、手紙の送り主を確認して私は「ギャッ」と悲鳴を上げた。

「どうしました、レイフェルさん! 不幸の手紙ですか!?」
「そ、そうじゃないけど、これ……」

 私は震える手で差出人の欄を指差した。
 カラスター(元)男爵家withアーロンが働かされている鉱山の現場監督からの手紙だった。

「不幸の手紙じゃないですか!!」

 否定出来ない!!
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