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王命

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「あ、あの……レナルド殿下? 何故私の妻の手を握っているのですか……?」

 自分はいったい何を見ているのだろうか。ダミアンが声を震わせながら尋ねると、レナルドは照れ臭そうに笑った。

「アリシア様に求婚しておりました。あなたとの離婚が決定したと、オデット様から書状が送られてきましたので」

 そう答えながら見たのは、いつの間にかダミアンの後ろに立っていたオデットだった。

「母上、これはどういうことですか!?」
「あなたも薄々察しているのではなくて? アリシアはあなたと離婚後、レナルドと婚約することになっているのよ」
「「はぁ!?」」

 ダミアンとポーラはほぼ同時に、素っ頓狂な声を上げた。
 アリシアとレナルドの結婚。それはつまり、アリシアが王太子妃になることを意味している。
 自分たちの計画が思わず形で潰れてしまい、二人は唇を震わせていた。

「み……認められない! こんな結婚認められるはずがない!」

 ダミアンはアリシアを指差して力強く叫んだ。

「僕は君との離婚をまだ認めたわけじゃないぞ! それなのに他の男と懇意の仲になるなんて、これは立派な浮気だ! 貴族たちだって黙っていないからな!!」
「そ……そうよ! どんな手を使ってレナルド様を誑かしたかは知らないけど、国王と王妃が許すと思ってるの!? ふざけんなじゃないわよ、このクズ女!」

 ポーラも一緒になって口汚く罵倒するが、アリシアは王太子と手を取り合ったまま、にっこりと微笑んだ。しかし目は笑ってはいない。

「浮気? クズ女? どの口がどのようなことを仰るのかしら」
「確かに私は不貞行為を働いた! だからといって、君も同じことをしてお咎めなしというわけには……」
「あら、そんなことを仰られましても、私たちの婚約は王命ですもの」
「王命……?」

 王族の結婚で王命が発令されるなんて聞いたことがない。国王からの言葉を、大げさに捉えているだけではないのか。
 そんなダミアンの思考を見透かしたように、オデットは息子に一枚の羊皮紙を差し出した。

「バ、バカな……」

 ダミアンとの離婚が確定次第、アリシアはレナルドと速やかに婚約を結ぶことを命じる。要約すると、そのような文章が綴られていた。下部には国王だけではなく、宰相や法務大臣の署名も記入されている。

「何よ、これ? 国ぐるみで浮気を認めるつもりなの? だったら……」

 上手く取り入ることが出来れば、自分もレナルドの愛人くらいのポジションにつけるかもしれない。
 ポーラはニヤリと笑みを浮かべ、レナルドへ駆け寄ろうとしたが、

「ちょっと、何すんのよ!?」
「殿下に近付くな、無礼者め!」
「うるさい! 私はレナルド様に用があるのよ! レナルド様はきっと私の魅力に気付いてくれるはずだわ!」

 即座に護衛兵たちによって取り押さえられ、部屋の外へと連れ出されていく。その際、ポーラは媚びを売るような甘えた声でレナルドを呼び続けていたが、本人から冷ややかな視線を向けられ、押し黙ってしまった。

「そんな……どうしてどいつもこいつも、僕からアリシアを奪おうとするんだ……」

 ダミアンはポーラには一切目もくれず、呆然とした表情で羊皮紙を見詰めていた。その様子を見ていたオデットは、呆れたように深く溜め息をつく。

「あなたのことだもの。あらゆる姑息な手を使って、アリシアを取り戻そうとするに決まっているわ。それを防ぐために、陛下は王命を発令なさったのよ」
「し、しかし……僕はアリシアを愛して……」
「あなたの言葉を信用することは出来ませんわ」

 アリシアは清々しい笑みを浮かべ、ダミアンの虚言を一刀両断した。

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