29 / 30
王命
しおりを挟む
「あ、あの……レナルド殿下? 何故私の妻の手を握っているのですか……?」
自分はいったい何を見ているのだろうか。ダミアンが声を震わせながら尋ねると、レナルドは照れ臭そうに笑った。
「アリシア様に求婚しておりました。あなたとの離婚が決定したと、オデット様から書状が送られてきましたので」
そう答えながら見たのは、いつの間にかダミアンの後ろに立っていたオデットだった。
「母上、これはどういうことですか!?」
「あなたも薄々察しているのではなくて? アリシアはあなたと離婚後、レナルドと婚約することになっているのよ」
「「はぁ!?」」
ダミアンとポーラはほぼ同時に、素っ頓狂な声を上げた。
アリシアとレナルドの結婚。それはつまり、アリシアが王太子妃になることを意味している。
自分たちの計画が思わず形で潰れてしまい、二人は唇を震わせていた。
「み……認められない! こんな結婚認められるはずがない!」
ダミアンはアリシアを指差して力強く叫んだ。
「僕は君との離婚をまだ認めたわけじゃないぞ! それなのに他の男と懇意の仲になるなんて、これは立派な浮気だ! 貴族たちだって黙っていないからな!!」
「そ……そうよ! どんな手を使ってレナルド様を誑かしたかは知らないけど、国王と王妃が許すと思ってるの!? ふざけんなじゃないわよ、このクズ女!」
ポーラも一緒になって口汚く罵倒するが、アリシアは王太子と手を取り合ったまま、にっこりと微笑んだ。しかし目は笑ってはいない。
「浮気? クズ女? どの口がどのようなことを仰るのかしら」
「確かに私は不貞行為を働いた! だからといって、君も同じことをしてお咎めなしというわけには……」
「あら、そんなことを仰られましても、私たちの婚約は王命ですもの」
「王命……?」
王族の結婚で王命が発令されるなんて聞いたことがない。国王からの言葉を、大げさに捉えているだけではないのか。
そんなダミアンの思考を見透かしたように、オデットは息子に一枚の羊皮紙を差し出した。
「バ、バカな……」
ダミアンとの離婚が確定次第、アリシアはレナルドと速やかに婚約を結ぶことを命じる。要約すると、そのような文章が綴られていた。下部には国王だけではなく、宰相や法務大臣の署名も記入されている。
「何よ、これ? 国ぐるみで浮気を認めるつもりなの? だったら……」
上手く取り入ることが出来れば、自分もレナルドの愛人くらいのポジションにつけるかもしれない。
ポーラはニヤリと笑みを浮かべ、レナルドへ駆け寄ろうとしたが、
「ちょっと、何すんのよ!?」
「殿下に近付くな、無礼者め!」
「うるさい! 私はレナルド様に用があるのよ! レナルド様はきっと私の魅力に気付いてくれるはずだわ!」
即座に護衛兵たちによって取り押さえられ、部屋の外へと連れ出されていく。その際、ポーラは媚びを売るような甘えた声でレナルドを呼び続けていたが、本人から冷ややかな視線を向けられ、押し黙ってしまった。
「そんな……どうしてどいつもこいつも、僕からアリシアを奪おうとするんだ……」
ダミアンはポーラには一切目もくれず、呆然とした表情で羊皮紙を見詰めていた。その様子を見ていたオデットは、呆れたように深く溜め息をつく。
「あなたのことだもの。あらゆる姑息な手を使って、アリシアを取り戻そうとするに決まっているわ。それを防ぐために、陛下は王命を発令なさったのよ」
「し、しかし……僕はアリシアを愛して……」
「あなたの言葉を信用することは出来ませんわ」
アリシアは清々しい笑みを浮かべ、ダミアンの虚言を一刀両断した。
自分はいったい何を見ているのだろうか。ダミアンが声を震わせながら尋ねると、レナルドは照れ臭そうに笑った。
「アリシア様に求婚しておりました。あなたとの離婚が決定したと、オデット様から書状が送られてきましたので」
そう答えながら見たのは、いつの間にかダミアンの後ろに立っていたオデットだった。
「母上、これはどういうことですか!?」
「あなたも薄々察しているのではなくて? アリシアはあなたと離婚後、レナルドと婚約することになっているのよ」
「「はぁ!?」」
ダミアンとポーラはほぼ同時に、素っ頓狂な声を上げた。
アリシアとレナルドの結婚。それはつまり、アリシアが王太子妃になることを意味している。
自分たちの計画が思わず形で潰れてしまい、二人は唇を震わせていた。
「み……認められない! こんな結婚認められるはずがない!」
ダミアンはアリシアを指差して力強く叫んだ。
「僕は君との離婚をまだ認めたわけじゃないぞ! それなのに他の男と懇意の仲になるなんて、これは立派な浮気だ! 貴族たちだって黙っていないからな!!」
「そ……そうよ! どんな手を使ってレナルド様を誑かしたかは知らないけど、国王と王妃が許すと思ってるの!? ふざけんなじゃないわよ、このクズ女!」
ポーラも一緒になって口汚く罵倒するが、アリシアは王太子と手を取り合ったまま、にっこりと微笑んだ。しかし目は笑ってはいない。
「浮気? クズ女? どの口がどのようなことを仰るのかしら」
「確かに私は不貞行為を働いた! だからといって、君も同じことをしてお咎めなしというわけには……」
「あら、そんなことを仰られましても、私たちの婚約は王命ですもの」
「王命……?」
王族の結婚で王命が発令されるなんて聞いたことがない。国王からの言葉を、大げさに捉えているだけではないのか。
そんなダミアンの思考を見透かしたように、オデットは息子に一枚の羊皮紙を差し出した。
「バ、バカな……」
ダミアンとの離婚が確定次第、アリシアはレナルドと速やかに婚約を結ぶことを命じる。要約すると、そのような文章が綴られていた。下部には国王だけではなく、宰相や法務大臣の署名も記入されている。
「何よ、これ? 国ぐるみで浮気を認めるつもりなの? だったら……」
上手く取り入ることが出来れば、自分もレナルドの愛人くらいのポジションにつけるかもしれない。
ポーラはニヤリと笑みを浮かべ、レナルドへ駆け寄ろうとしたが、
「ちょっと、何すんのよ!?」
「殿下に近付くな、無礼者め!」
「うるさい! 私はレナルド様に用があるのよ! レナルド様はきっと私の魅力に気付いてくれるはずだわ!」
即座に護衛兵たちによって取り押さえられ、部屋の外へと連れ出されていく。その際、ポーラは媚びを売るような甘えた声でレナルドを呼び続けていたが、本人から冷ややかな視線を向けられ、押し黙ってしまった。
「そんな……どうしてどいつもこいつも、僕からアリシアを奪おうとするんだ……」
ダミアンはポーラには一切目もくれず、呆然とした表情で羊皮紙を見詰めていた。その様子を見ていたオデットは、呆れたように深く溜め息をつく。
「あなたのことだもの。あらゆる姑息な手を使って、アリシアを取り戻そうとするに決まっているわ。それを防ぐために、陛下は王命を発令なさったのよ」
「し、しかし……僕はアリシアを愛して……」
「あなたの言葉を信用することは出来ませんわ」
アリシアは清々しい笑みを浮かべ、ダミアンの虚言を一刀両断した。
1,911
お気に入りに追加
5,572
あなたにおすすめの小説
誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。
salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。
6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。
*なろう・pixivにも掲載しています。
愛想を尽かした女と尽かされた男
火野村志紀
恋愛
※全16話となります。
「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」
【完結】ドアマットに気付かない系夫の謝罪は死んだ妻には届かない
堀 和三盆
恋愛
一年にわたる長期出張から戻ると、愛する妻のシェルタが帰らぬ人になっていた。流行病に罹ったらしく、感染を避けるためにと火葬をされて骨になった妻は墓の下。
信じられなかった。
母を責め使用人を責めて暴れ回って、僕は自らの身に降りかかった突然の不幸を嘆いた。まだ、結婚して3年もたっていないというのに……。
そんな中。僕は遺品の整理中に隠すようにして仕舞われていた妻の日記帳を見つけてしまう。愛する妻が最後に何を考えていたのかを知る手段になるかもしれない。そんな軽い気持ちで日記を開いて戦慄した。
日記には妻がこの家に嫁いでから病に倒れるまでの――母や使用人からの壮絶な嫌がらせの数々が綴られていたのだ。
【完結】愛されていた。手遅れな程に・・・
月白ヤトヒコ
恋愛
婚約してから長年彼女に酷い態度を取り続けていた。
けれどある日、婚約者の魅力に気付いてから、俺は心を入れ替えた。
謝罪をし、婚約者への態度を改めると誓った。そんな俺に婚約者は怒るでもなく、
「ああ……こんな日が来るだなんてっ……」
謝罪を受け入れた後、涙を浮かべて喜んでくれた。
それからは婚約者を溺愛し、順調に交際を重ね――――
昨日、式を挙げた。
なのに・・・妻は昨夜。夫婦の寝室に来なかった。
初夜をすっぽかした妻の許へ向かうと、
「王太子殿下と寝所を共にするだなんておぞましい」
という声が聞こえた。
やはり、妻は婚約者時代のことを許してはいなかったのだと思ったが・・・
「殿下のことを愛していますわ」と言った口で、「殿下と夫婦になるのは無理です」と言う。
なぜだと問い質す俺に、彼女は笑顔で答えてとどめを刺した。
愛されていた。手遅れな程に・・・という、後悔する王太子の話。
シリアス……に見せ掛けて、後半は多分コメディー。
設定はふわっと。
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました
お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。
その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる