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 絶望するリュカに、王妃は最後の慈悲を与えた。

「次の期末試験の結果で首位……いいえ、せめて十位以内に入りなさい。そうすれば、もう少し考えてあげましょう」

 リュカは縋るような眼差しをしながら、その提案を受け入れた。
 リュカに遠慮しなくなり、首位の座を独占するようになったブリュエットにはまず勝てないと確信されている。
 それは屈辱的だったが、悔しさを感じている場合ではない。
 十位以内に入らなければ、王位継承権を奪われてしまうのだ。

(だ、大丈夫だ。十位なんて楽勝に決まっている)

 首位を除けば九つ枠がある。
 決して不可能ではないはずだ。
 だが万が一ということもある。
 慢心など一切捨てて全力で挑まなければと、リュカは自室に戻り、教科書を一晩中読み漁った。

 何点以内であればいいなどと、甘い考えも捨てる。
 満点を狙うつもりで考えるのだ。

(俺はいつも一位だったんだ。いつも通りにやれば……)

 いや『いつも通り』というわけにはいかない。
 何故ならリュカがどういった問題に弱いのか、的確に見抜いてアドバイスしてくれたブリュエットがいないのだ。

 だが、今からでも頭を下げれば或いは……と、都合のいい願望を抱く。
 何せリュカが王太子ではなくなれぱ彼女も困る。
 そう考える一方で、困るのなら何故王妃に相談をしていたのかと疑問も浮かぶ。

(側妃とはいえ、夫は国王だぞ。その座をやすやすと放棄できるものなのか……?)

 ……それに彼女に教えを乞うには、やはりプライドが邪魔をする。

 だったらエーヴだ。
 今の彼女はとても頼りになる存在となった。
 国王を補佐する正妃に相応しい女性へと、成長を遂げている。
 無垢で無知なエーヴでなくなってしまったのは残念だが、彼女が勤勉家となったのは、今この時だったのかもしれない。



「エーヴはいるか!」

 エーヴに与えられた私室に行くと、彼女はちょうど妃教育の最中だった。
 王太子とはいえ、ノックもなしに入室したことに家庭教師は眉を顰める。

「何の御用ですか、殿下。見ての通りエーヴ嬢は勉強中なのですけれど」
「そんなもの後でいくらでもできるだろ! おいエーヴ!」

 リュカに名前を呼ばれると、エーヴはきょとんとした表情をしてから「どうなさいました?」と柔らかな口調で尋ねた。

「俺に期末試験でどういった問題が出てくるのかを教えろ! お前ならある程度予想がついているはずだ!」
「殿下……」

 家庭教師の呆れを含んだ視線が突き刺さるが、これにどう思われようが関係ない。
 エーヴの両手を強く握り締め、

「頼む……!」

 搾り取ったような声で懇願すると、エーヴは淑女らしく上品に微笑んだ。

「リュカ殿下。申し訳ありませんが、お断りさせていただきます」

 そう告げながら、自分の手をやんわりと引き剥がす婚約者にリュカは絶句した。
 
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