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4.やってられません
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「ラピス、これはどういうことだ!!」
「マーロア公爵様がうちを訴えるそうじゃないの!」
朝から怒り狂う両親。
テーブルの上には数枚にも亘る書状。
差出人はマーロア公爵家専属の弁護士。
内容はお母様の仰る通り、このツィトー男爵家……いいえ、この私を相手取って裁判を起こし、慰謝料を請求するというもの。
しかも今回の婚約破棄の原因は私にあると、はっきりと書かれていました。
まさか本当に裁判を起こすなんて……。焦りよりも呆れが大きく、私は平静を保つことが出来ました。
ですが両親はそうもいきません。
「お前……せっかく公爵家に嫁げるはずだったのに、何てことをしてくれたんだ!」
「リネオご令息は既に新たな婚約者を用意している!? これじゃあ、もう復縁は無理じゃない……!」
二人とも多大なショックを受けていますが、一応昨夜のうちに婚約破棄の件は伝えていました。
リネオ様がエヴァリア様に心変わりしたことも。
婚約破棄に関しては私も了承したことも。
慰謝料を不当に請求される可能性があることも。
マーロア公爵のご令息に限ってそんな馬鹿な話は有り得ない。面白い冗談だとまともに取り合ってくれませんでした。
ですが、こうして書状が届き、真実だと知って大慌てしています。
ただ二人に私を気遣う様子はこれっぽっちもありません。気持ちは分かります。公爵家に嫁いだとなれば、ツィトー家の評判も上がりますし、公爵家からの援助も貰えたことでしょう。
コネを利用して爵位の格上げも夢ではなかったのです。
まあ、夢で終わってしまったわけですが。
「お父様、お母様昨日もお話したと思いますが、改めて聞いてください。私はリネオ様との婚約破棄は快く応じますが、慰謝料の件については……」
「お前が払いたくないと駄々を捏ねても無駄だ!」
お父様が毛髪が薄くなった頭を乱暴に掻き毟りながら叫びます。
確かに弁護士は、ツィトー家に慰謝料を請求出来るとリネオ様に仰っていたようです。けれど、こんな身勝手な主張がまかり通るとは思えないのですけれど……。
「いいか、お前が思っている以上にマーロア家の存在というのは大きい。裁判官の中にはマーロア家との付き合いがある者もいるのだ」
「……つまり、マーロア公爵との関係を壊したくないがために、彼らは公平な裁判を行わない。そう仰りたいのですね?」
「マーロア家に有利な判決を下すと言っているのだ。そのような言い方をするな!」
意味は同じですよ。
自らの保身や利益を優先して、白であっても黒と判断する。司法の腐敗を感じさせます。
最初から弁護士と裁判官が手を組んでいる可能性すら考えられますね。
ですが、私も動かないわけにはいきません。マーロア家との癒着がない弁護士を今から探さなければ。
私がそう思っていると、お母様が妙なことを仰いました。
「ねえラピス。あんた、リネオ様の愛人になっちゃいなさいよ」
「どうしてそんな話になるのです……」
「だ、だってそれなら向こうにお金を払う必要はないじゃない。それに今回の婚約破棄だってあんたのせいなんだし……」
「そうだな。お前が将来妻になる者としての振る舞いを出来ていなかったせいで、リネオ様はエヴァリア嬢に縋るしかなかったんだ。ああ、可哀想にな……」
「ええ! 仕事のことばかりの婚約者だなんて楽しくも何ともないわ!」
リネオ様が外で遊び惚けている間、私が公爵様から押し付けられていた公務をこなしていることは何度も話していたはずです。なのに、これでは私が好き好んで仕事に没頭し、リネオ様を放っておいたようではありませんか。
「ふむ、そう考えると愛人というのはかなりいい話かもしれん。リネオご令息のことはエヴァリア嬢に任せて、その他の雑用はお前がこなせばいい」
「でもリネオ様もエヴァリア様だけじゃ飽きてしまうでしょうから、夜に求められた時は断っちゃった駄目よ? 分かった?」
二人は何を仰っているのでしょうか。両親の言葉を理解出来ない私の方がおかしいのかもしれません。
ここで私が「分かりました。リネオ様の愛人になります」と言えば、丸く収まるのでしょう。
高位貴族の愛人というポジションはさほど悪いものではありません。
公式の場に出席出来ないデメリットはありますが、得られるものも多いのですから。
ですが婚約破棄された娘に愛人になれと言い出す実の両親に、私の心は冷めていきます。しかもリネオ様の浮気の原因が私にあると責め立てます。
何もかもがどうでもいい。
ぶつんっと私の中で切れてはいけないものが切れてしまいました。
「マーロア公爵様がうちを訴えるそうじゃないの!」
朝から怒り狂う両親。
テーブルの上には数枚にも亘る書状。
差出人はマーロア公爵家専属の弁護士。
内容はお母様の仰る通り、このツィトー男爵家……いいえ、この私を相手取って裁判を起こし、慰謝料を請求するというもの。
しかも今回の婚約破棄の原因は私にあると、はっきりと書かれていました。
まさか本当に裁判を起こすなんて……。焦りよりも呆れが大きく、私は平静を保つことが出来ました。
ですが両親はそうもいきません。
「お前……せっかく公爵家に嫁げるはずだったのに、何てことをしてくれたんだ!」
「リネオご令息は既に新たな婚約者を用意している!? これじゃあ、もう復縁は無理じゃない……!」
二人とも多大なショックを受けていますが、一応昨夜のうちに婚約破棄の件は伝えていました。
リネオ様がエヴァリア様に心変わりしたことも。
婚約破棄に関しては私も了承したことも。
慰謝料を不当に請求される可能性があることも。
マーロア公爵のご令息に限ってそんな馬鹿な話は有り得ない。面白い冗談だとまともに取り合ってくれませんでした。
ですが、こうして書状が届き、真実だと知って大慌てしています。
ただ二人に私を気遣う様子はこれっぽっちもありません。気持ちは分かります。公爵家に嫁いだとなれば、ツィトー家の評判も上がりますし、公爵家からの援助も貰えたことでしょう。
コネを利用して爵位の格上げも夢ではなかったのです。
まあ、夢で終わってしまったわけですが。
「お父様、お母様昨日もお話したと思いますが、改めて聞いてください。私はリネオ様との婚約破棄は快く応じますが、慰謝料の件については……」
「お前が払いたくないと駄々を捏ねても無駄だ!」
お父様が毛髪が薄くなった頭を乱暴に掻き毟りながら叫びます。
確かに弁護士は、ツィトー家に慰謝料を請求出来るとリネオ様に仰っていたようです。けれど、こんな身勝手な主張がまかり通るとは思えないのですけれど……。
「いいか、お前が思っている以上にマーロア家の存在というのは大きい。裁判官の中にはマーロア家との付き合いがある者もいるのだ」
「……つまり、マーロア公爵との関係を壊したくないがために、彼らは公平な裁判を行わない。そう仰りたいのですね?」
「マーロア家に有利な判決を下すと言っているのだ。そのような言い方をするな!」
意味は同じですよ。
自らの保身や利益を優先して、白であっても黒と判断する。司法の腐敗を感じさせます。
最初から弁護士と裁判官が手を組んでいる可能性すら考えられますね。
ですが、私も動かないわけにはいきません。マーロア家との癒着がない弁護士を今から探さなければ。
私がそう思っていると、お母様が妙なことを仰いました。
「ねえラピス。あんた、リネオ様の愛人になっちゃいなさいよ」
「どうしてそんな話になるのです……」
「だ、だってそれなら向こうにお金を払う必要はないじゃない。それに今回の婚約破棄だってあんたのせいなんだし……」
「そうだな。お前が将来妻になる者としての振る舞いを出来ていなかったせいで、リネオ様はエヴァリア嬢に縋るしかなかったんだ。ああ、可哀想にな……」
「ええ! 仕事のことばかりの婚約者だなんて楽しくも何ともないわ!」
リネオ様が外で遊び惚けている間、私が公爵様から押し付けられていた公務をこなしていることは何度も話していたはずです。なのに、これでは私が好き好んで仕事に没頭し、リネオ様を放っておいたようではありませんか。
「ふむ、そう考えると愛人というのはかなりいい話かもしれん。リネオご令息のことはエヴァリア嬢に任せて、その他の雑用はお前がこなせばいい」
「でもリネオ様もエヴァリア様だけじゃ飽きてしまうでしょうから、夜に求められた時は断っちゃった駄目よ? 分かった?」
二人は何を仰っているのでしょうか。両親の言葉を理解出来ない私の方がおかしいのかもしれません。
ここで私が「分かりました。リネオ様の愛人になります」と言えば、丸く収まるのでしょう。
高位貴族の愛人というポジションはさほど悪いものではありません。
公式の場に出席出来ないデメリットはありますが、得られるものも多いのですから。
ですが婚約破棄された娘に愛人になれと言い出す実の両親に、私の心は冷めていきます。しかもリネオ様の浮気の原因が私にあると責め立てます。
何もかもがどうでもいい。
ぶつんっと私の中で切れてはいけないものが切れてしまいました。
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