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2.私が払う側ですか!?

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 どこからか聞こえる鳥の鳴き声。見上げた空の青いこと。
 このまま二人を置いてどこかに行きたい気分です。サンドイッチでも作って、花畑でピクニックなんかいいかもしれませんね。どうせ私は婚約者ではなくなりますし。

 リネオ様への未練?
 そんなの存在していませんよ。強がりとかではなく、他の令嬢に取られて悔しいという感情はありません。
 リネオ様が私に不満を感じていたのは知っています。二人きりになっても、私から振る話題は公務のことばかり。
 正式に夫婦となる前の夜の営みは禁止されていますから、ベッドを共にしたこともまだでした。
 以前強引に寝室に引き摺り込まれそうになった時も、強く拒絶しています。リネオ様は暗黙の了解で皆ベッドの上で仲良くしていると仰っていましたが、公爵令息とあろう御方が性欲に負けたなんて言い触らされたくないでしょう?

 ちなみに公爵様はリネオ様ではなく、私にばかり公務を任せていました。それらは私だけでこなせるものが殆どでしたが、リネオ様に報告、相談しなければ案件も多いです。
 なので会話の内容も、自然に堅苦しくなっていったのは自覚しています。
 いつかリネオ様が私に愛想を尽かすのではと予想していました。

 ですが、元はと言えばリネオ様がご自分で公務をやらないのが原因です。家督を継いだら遊べなくなると外出ばかり。

 公爵様もリネオ様を叱るどころか、「今は楽しませてやってくれ」と甘いことを言う始末。そして私に「これも妻の務め」と仰って、公務をさせるようになったのです。私も断るわけにはいかないので、言う通りにしていましたが……。
 公爵夫人様? 私と二人きりになった時に、「頭がいい女は性格が悪そうな顔をしているのね」と仰っていました。

 ですから、婚約破棄になって安堵している私がいます。
 うちの両親は黙っていないでしょうが、マーロア公爵家に振り回されるのはもう嫌でした。
 なので手放してもらって良かっ……。

「ああ、そうだ! 婚約破棄するんだ。その慰謝料の話だけど……」
「そうですね。後で請求させていただきます」
「え?」
「え? ……ってえ?」

 どうしてそんな綺麗な目で私を見るのですか……。ろくでもないことを言い出す予感しかしません。
 まさか払いたくないと仰る気でしょうか。こうして浮気相手がいると明かした上での婚約破棄です。誰がどう見ても非はリネオ様にあるのですが。

「慰謝料は君が払うべきだろう、ラピス」

 ……今のは幻聴でしょうか。

「リ、リネオ様。仰っている意味がよく分からないのですが……」
「仕方ないなぁ。もっと分かりやすく言ってあげるよ」

 やれやれ……と言いたげな顔でリネオ様が鼻を鳴らします。
 その姿を恋する乙女の眼差しで見詰めるエヴァリア様。二人の様子を見て痛み出すこめかみを押さえる私。

「僕がエヴァリアに惹かれたのは、ラピスが将来の妻として僕に尽くす努力をおこたったからだよ。僕は君を選んでしまったことを後悔して精神を病んだし、婚約破棄のそもそもの原因は君なんだから、慰謝料払うのは君の家じゃん!」

 私だってあなたのような人と婚約したことを物凄く後悔しています!!

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