上 下
22 / 22

22.悪女(???視点)

しおりを挟む
 今日もこの国、アリシュラは平和だ。
 大人たちは金を稼ぐために労働し、子供たちは笑顔で遊び回っている。
 けれど隣国では今も地獄が続いている。
 自分だけがこんな平穏な日々を送っていいのかと、ふとした時に考える。

「浮かない顔をされていらっしゃいますね」

 私にそう声をかけたのはエステルだった。
 再会した時に比べ、顔色もよくなったように見える。
 それは私にも言えることだろうが。

「……私たちの国のことを考えていた」

 あらゆる国に見捨てられた自国では、民同士の殺し合いが行われているという。
 病や内乱のせいで多くの死者が出たことにより、彼らは日常的な生活を送ることすら出来なくなった。
 特効薬だけではなく食糧の略奪も多発し、餓死者が増え始めている。

 父上は国内から脱出しようとしたが失敗し、死ぬ以上の苦しみを与えられているそうだ。
 母上や兄弟たちがどうなっているかは知らされていない。

「気に病むことはありません、クロード様。あなたには何の責任もないのですから」
「だが……」
「あの国が確実に破滅するようにトドメを刺したのは、この私です」

 エステルは淡々とした口調で語る。
 彼女の言う通りかもしれない。
 国に戻った時、大量の特効薬を用意していれば。王家が特効薬を独占していると噂を流して国民を扇動していなければ。
 このような取り返しのつかない事態は避けられただろう。

 だがエステルを責めるつもりはない。
 エステルには復讐する権利がある。
 そうすることを私だって望んでいた。

 父上や城の者が地獄の苦しみを味わっているのは自業自得だ。
 エステルを救おうとした私にすら妙な薬を飲ませ、正気を奪った。
 イヴァーノ殿が中和剤を飲ませ、深夜にこっそり逃がしてくれなかったら私はあのまま殺されていただろう。

「クロード様はお優しいですね。いえ、イヴァーノ様を初めとした皆様がこんな私に優しく接してくれる」
「当然だ。皆、あなたのことを……」
「私はとんでもない悪女です。本当はたった一人だけ苦しませればそれでよかったのに、大勢の人間を巻き込んでしまったのですから」
「……父上のことか?」

 私の問いかけにエステルは首を横に振った。

「処刑については仕方のないことだと思っています。クロード様が生死を彷徨ったのは、私たちの薬が原因ですから」
「それは違う。薬を使えと強要した父上が……」
「私はブノワ様が許せなかった」

 ブノワ。エステルの処刑後、すぐにナデ―ジュと婚約した男だ。

「ブノワ様に罵られた時も、処刑を言い渡された時も、私は酷くショックを受けましたがそれでもあの人を憎むことは出来ませんでした。愛していましたからね。遺書にもそう残しました。けれど……」

 エステルの双眸に一瞬だけ憎悪の炎が灯ったのを、私は見逃さなかった。

「ナデ―ジュ王女殿下と婚約したという知らせを聞いた時、あの人を地獄に落とそうと決めました。二人を祝福する国民たちも」
「エステル……」
「嫉妬で国を滅ぼした。悪女以外の何者でもないでしょう?」

 エステルは笑っている。
 イヴァーノ殿に救われ、この国にやって来てからというものの、私は笑っていない時のエステルを見ていない。

「こんなことなら、あの時私は死んでしまった方がよかったのかもしれせんね」

 空虚な声で言葉を紡ぎ、エステルは一層口角を吊り上げた。
しおりを挟む
感想 91

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(91件)

わわわ
2021.11.23 わわわ

エステルの最期は悲惨すぎたので、いくら後でざまぁされても・・・と、しばらく拝読していなかったのですが、実は生きてるを期待して久しぶりに拝見したらエステルが生きていてよかったです。本当良かった、これで安心して読ませていただけます。

解除
やなぎ
2021.11.22 やなぎ

エステル、バリキャリで顔もいいのに、男の趣味だけ悪かったんですね。

解除
セリ
2021.11.22 セリ

木箱に1本づつかwww
国民は、王家に踊らされてたにしろ、当事者の王子が処刑を止めるようにと現れたにも関わらず、処刑楽しんでたし、ま、良いよねw

解除

あなたにおすすめの小説

婚約破棄をしてきた婚約者と私を嵌めた妹、そして助けてくれなかった人達に断罪を。

しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーで私は婚約者の第一王太子殿下に婚約破棄を言い渡される。 全て妹と、私を追い落としたい貴族に嵌められた所為である。 しかも、王妃も父親も助けてはくれない。 だから、私は……。

精霊の愛し子が濡れ衣を着せられ、婚約破棄された結果

あーもんど
恋愛
「アリス!私は真実の愛に目覚めたんだ!君との婚約を白紙に戻して欲しい!」 ある日の朝、突然家に押し掛けてきた婚約者───ノア・アレクサンダー公爵令息に婚約解消を申し込まれたアリス・ベネット伯爵令嬢。 婚約解消に同意したアリスだったが、ノアに『解消理由をそちらに非があるように偽装して欲しい』と頼まれる。 当然ながら、アリスはそれを拒否。 他に女を作って、婚約解消を申し込まれただけでも屈辱なのに、そのうえ解消理由を偽装するなど有り得ない。 『そこをなんとか······』と食い下がるノアをアリスは叱咤し、屋敷から追い出した。 その数日後、アカデミーの卒業パーティーへ出席したアリスはノアと再会する。 彼の隣には想い人と思われる女性の姿が·····。 『まだ正式に婚約解消した訳でもないのに、他の女とパーティーに出席するだなんて·····』と呆れ返るアリスに、ノアは大声で叫んだ。 「アリス・ベネット伯爵令嬢!君との婚約を破棄させてもらう!婚約者が居ながら、他の男と寝た君とは結婚出来ない!」 濡れ衣を着せられたアリスはノアを冷めた目で見つめる。 ······もう我慢の限界です。この男にはほとほと愛想が尽きました。 復讐を誓ったアリスは────精霊王の名を呼んだ。 ※本作を読んでご気分を害される可能性がありますので、閲覧注意です(詳しくは感想欄の方をご参照してください) ※息抜き作品です。クオリティはそこまで高くありません。 ※本作のざまぁは物理です。社会的制裁などは特にありません。 ※hotランキング一位ありがとうございます(2020/12/01)

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

隣国へ留学中だった婚約者が真実の愛の君を連れて帰ってきました

れもん・檸檬・レモン?
恋愛
隣国へ留学中だった王太子殿下が帰ってきた 留学中に出会った『真実の愛』で結ばれた恋人を連れて なんでも隣国の王太子に婚約破棄された可哀想な公爵令嬢なんだそうだ

過去に戻った筈の王

基本二度寝
恋愛
王太子は後悔した。 婚約者に婚約破棄を突きつけ、子爵令嬢と結ばれた。 しかし、甘い恋人の時間は終わる。 子爵令嬢は妃という重圧に耐えられなかった。 彼女だったなら、こうはならなかった。 婚約者と結婚し、子爵令嬢を側妃にしていれば。 後悔の日々だった。

婚約者が義妹を優先するので私も義兄を優先した結果

京佳
恋愛
私の婚約者は私よりも可愛い義妹を大事にする。いつも約束はドタキャンされパーティーのエスコートも義妹を優先する。私はブチ切れお前がその気ならコッチにも考えがある!と義兄にベッタリする事にした。「ずっとお前を愛してた!」義兄は大喜びして私を溺愛し始める。そして私は夜会で婚約者に婚約破棄を告げられたのだけど何故か彼の義妹が顔真っ赤にして怒り出す。 ちんちくりん婚約者&義妹。美形長身モデル体型の義兄。ざまぁ。溺愛ハピエン。ゆるゆる設定。

幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。

妹が私の婚約者と結婚しちゃったもんだから、懲らしめたいの。いいでしょ?

百谷シカ
恋愛
「すまない、シビル。お前が目覚めるとは思わなかったんだ」 あのあと私は、一命を取り留めてから3週間寝ていたらしいのよ。 で、起きたらびっくり。妹のマーシアが私の婚約者と結婚してたの。 そんな話ある? 「我がフォレット家はもう結婚しかないんだ。わかってくれ、シビル」 たしかにうちは没落間近の田舎貴族よ。 あなたもウェイン伯爵令嬢だって打ち明けたら微妙な顔したわよね? でも、だからって、国のために頑張った私を死んだ事にして結婚する? 「君の妹と、君の婚約者がね」 「そう。薄情でしょう?」 「ああ、由々しき事態だ。私になにをしてほしい?」 「ソーンダイク伯領を落として欲しいの」 イヴォン伯爵令息モーリス・ヨーク。 あのとき私が助けてあげたその命、ぜひ私のために燃やしてちょうだい。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。