18 / 22
18.独占(ブノワ視点)
しおりを挟む
この国の薬が当てにならないなら、アリシュラの特効薬を頼ればいい。
そう思った者たちは高額でもいいから薬を売って欲しいと頭を下げたが、聞き入れては貰えなかった。
アリシュラの国王はこの国を嫌悪しており、助ける義理も必要もないと言い切った。
他の国もそれに倣い、助けてくれという叫びを無視した。
亡命しようとした国民もいたが、以前よりも国境の警備が厳しく、入国を認められなかったらしい。
ナデ―ジュ王女の死から二ヶ月しないうちに、貴族、平民問わず大勢の死者が出た。
前だったら体力のある人間は死なずに済んだが、進化した病には打ち勝つことが出来なかった。
新しい特効薬だってまだ作れていない。
罹ったら最後。死ぬのを待つことしか出来ない文字通り死の病に、なす術がなかった。
一部の人間以外は。
「ぐぬぬ……薬は……薬はまだ出来ないのか!?」
今日も国王陛下は怒鳴り散らしている。
急かしたところで薬なんて出来ない。そんなことも分からないのか。
分からないだろうな。プレッシャーに耐え切れず、自ら命を絶った医官もいるのに。
城内でも、病を発症した人間が何人もいる。
使用人はそのまま城から追い出して、国王陛下が必要だと判断した人間には僅かに残っていたエステルたちの薬を飲ませてみた。
奴らはクロード王子のように熱を出して苦しんだが、一週間後には容態が安定した。
変異した病にも特効薬は有効だった。
その事実に、国王陛下もようやく自分が間違っていたと気付き始めたらしい。
エステルたちが作った薬の材料を調べろと言い出した。
そんなもの、この国は残されていない。
恐らく数ヶ月前、イヴァーノたちがやって来た際に持って行った手記。あそこに細かい精製方法が書かれていたのだと思う。
「私は……くそっ! 何故私がエステルたちを捕らえろと言った時、誰も止めようとしなかったのだ!!」
叫ぶ国王陛下に言葉を返す家臣は誰もいなかった。
俺も無言で俯いていた。
父上も母上も病で死んだ。特効薬は残りあと一人分しか残っていないので、使わせてもらえなかった。
たった一人残された俺が父上の仕事を引き継ぐことになった。
家族もナデ―ジュ王女ももういない。
何で俺は生きているのだろう……。
「へ、陛下、エレイナ様の容態ですが昨晩に比べて悪化しておりまして……やはり、薬を……」
「ならぬ! 最後の一本は私のためにとっておけ! 女はいくらでも替えが利くが、王はこの私だけなのだぞ!?」
エレイナ王妃陛下が病で苦しんでいるというのに、最後の特効薬を飲ませようとしない。
このままいけば王妃陛下も数日以内に死ぬ。
俺もいつ病に罹るか……そう思っていると、隣国アリシュラからの来訪者が登城したと報せが入った。
アリシュラから特効薬を貰える最後のチャンスかもしれない。
そう思い、皆が表情を硬くする。
国王陛下だけは「あ、あんな奴ら……!」と謁見を渋っていたが、大臣たちが必死に宥めた。
そして謁見の間にアリシュラ兵たちに囲まれながら、その客人は現れた。
黒いフードを被った不気味な人物。
「お久しぶりでございますね、国王陛下」
聞き覚えのある声。
俺も、国王陛下も、いやその場にいた全員が言葉を失った。
「随分と顔色が悪いようですが、いかがなさいましたか?」
顔を隠していたフードを外し、エステルはたおやかに微笑んだ。
そう思った者たちは高額でもいいから薬を売って欲しいと頭を下げたが、聞き入れては貰えなかった。
アリシュラの国王はこの国を嫌悪しており、助ける義理も必要もないと言い切った。
他の国もそれに倣い、助けてくれという叫びを無視した。
亡命しようとした国民もいたが、以前よりも国境の警備が厳しく、入国を認められなかったらしい。
ナデ―ジュ王女の死から二ヶ月しないうちに、貴族、平民問わず大勢の死者が出た。
前だったら体力のある人間は死なずに済んだが、進化した病には打ち勝つことが出来なかった。
新しい特効薬だってまだ作れていない。
罹ったら最後。死ぬのを待つことしか出来ない文字通り死の病に、なす術がなかった。
一部の人間以外は。
「ぐぬぬ……薬は……薬はまだ出来ないのか!?」
今日も国王陛下は怒鳴り散らしている。
急かしたところで薬なんて出来ない。そんなことも分からないのか。
分からないだろうな。プレッシャーに耐え切れず、自ら命を絶った医官もいるのに。
城内でも、病を発症した人間が何人もいる。
使用人はそのまま城から追い出して、国王陛下が必要だと判断した人間には僅かに残っていたエステルたちの薬を飲ませてみた。
奴らはクロード王子のように熱を出して苦しんだが、一週間後には容態が安定した。
変異した病にも特効薬は有効だった。
その事実に、国王陛下もようやく自分が間違っていたと気付き始めたらしい。
エステルたちが作った薬の材料を調べろと言い出した。
そんなもの、この国は残されていない。
恐らく数ヶ月前、イヴァーノたちがやって来た際に持って行った手記。あそこに細かい精製方法が書かれていたのだと思う。
「私は……くそっ! 何故私がエステルたちを捕らえろと言った時、誰も止めようとしなかったのだ!!」
叫ぶ国王陛下に言葉を返す家臣は誰もいなかった。
俺も無言で俯いていた。
父上も母上も病で死んだ。特効薬は残りあと一人分しか残っていないので、使わせてもらえなかった。
たった一人残された俺が父上の仕事を引き継ぐことになった。
家族もナデ―ジュ王女ももういない。
何で俺は生きているのだろう……。
「へ、陛下、エレイナ様の容態ですが昨晩に比べて悪化しておりまして……やはり、薬を……」
「ならぬ! 最後の一本は私のためにとっておけ! 女はいくらでも替えが利くが、王はこの私だけなのだぞ!?」
エレイナ王妃陛下が病で苦しんでいるというのに、最後の特効薬を飲ませようとしない。
このままいけば王妃陛下も数日以内に死ぬ。
俺もいつ病に罹るか……そう思っていると、隣国アリシュラからの来訪者が登城したと報せが入った。
アリシュラから特効薬を貰える最後のチャンスかもしれない。
そう思い、皆が表情を硬くする。
国王陛下だけは「あ、あんな奴ら……!」と謁見を渋っていたが、大臣たちが必死に宥めた。
そして謁見の間にアリシュラ兵たちに囲まれながら、その客人は現れた。
黒いフードを被った不気味な人物。
「お久しぶりでございますね、国王陛下」
聞き覚えのある声。
俺も、国王陛下も、いやその場にいた全員が言葉を失った。
「随分と顔色が悪いようですが、いかがなさいましたか?」
顔を隠していたフードを外し、エステルはたおやかに微笑んだ。
78
お気に入りに追加
3,665
あなたにおすすめの小説
婚約破棄をしてきた婚約者と私を嵌めた妹、そして助けてくれなかった人達に断罪を。
しげむろ ゆうき
恋愛
卒業パーティーで私は婚約者の第一王太子殿下に婚約破棄を言い渡される。
全て妹と、私を追い落としたい貴族に嵌められた所為である。
しかも、王妃も父親も助けてはくれない。
だから、私は……。
婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~
tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!!
壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは???
一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。
幼い頃に魔境に捨てたくせに、今更戻れと言われて戻るはずがないでしょ!
克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
ニルラル公爵の令嬢カチュアは、僅か3才の時に大魔境に捨てられた。ニルラル公爵を誑かした悪女、ビエンナの仕業だった。普通なら獣に喰われて死にはずなのだが、カチュアは大陸一の強国ミルバル皇国の次期聖女で、聖獣に護られ生きていた。一方の皇国では、次期聖女を見つけることができず、当代の聖女も役目の負担で病み衰え、次期聖女発見に皇国の存亡がかかっていた。
幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
【完結】私は側妃ですか? だったら婚約破棄します
hikari
恋愛
レガローグ王国の王太子、アンドリューに突如として「側妃にする」と言われたキャサリン。一緒にいたのはアトキンス男爵令嬢のイザベラだった。
キャサリンは婚約破棄を告げ、護衛のエドワードと侍女のエスターと共に実家へと帰る。そして、魔法使いに弟子入りする。
その後、モナール帝国がレガローグに侵攻する話が上がる。実はエドワードはモナール帝国のスパイだった。後に、エドワードはモナール帝国の第一皇子ヴァレンティンを紹介する。
※ざまあの回には★がついています。
妹を叩いた?事実ですがなにか?
基本二度寝
恋愛
王太子エリシオンにはクアンナという婚約者がいた。
冷たい瞳をした婚約者には愛らしい妹マゼンダがいる。
婚約者に向けるべき愛情をマゼンダに向けていた。
そんな愛らしいマゼンダが、物陰でひっそり泣いていた。
頬を押えて。
誰が!一体何が!?
口を閉ざしつづけたマゼンダが、打った相手をようやく口にして、エリシオンの怒りが頂点に達した。
あの女…!
※えろなし
※恋愛カテゴリーなのに恋愛させてないなと思って追加21/08/09
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
[完結]本当にバカね
シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。
この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。
貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。
入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。
私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる