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16.生贄(ブノワ視点)

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 ナデージュ王女が死んだことは、すぐに招待客にも伝わった。

 国王陛下と王妃陛下は蒼白の顔で控え室に駆け付け、絶命した娘に縋り付いた。

「ナデージュ……そんな……どうしてこのような日に……!」
「嘘でしょ、ナデージュ? ねえ、起きてちょうだい……」

 俺はその光景を黙って見詰めることしか出来なかった。
 ナデージュ王女は死の直前、俺に聞こうとしていた。
「何を飲ませたのか」と。

 どのような原理かは分からない。
 ただ一つはっきり言えることがある。
 特効薬がナデ―ジュ王女を死に追いやったのだ。

「貴様……ブノワァッ!! 何故私の娘は死んだ!? 答えろっ!!」

 目に涙を浮かべ、国王陛下が俺の胸倉を掴む。
 俺は自分が見たものを正直に言おうとしたが、すんでのところで留まった。

 俺がモーリスに特効薬を飲ませろと指示をした。
 そんなことを知ったら国王陛下はどうする?

 脳裏にエステルたち医官の顔が浮かぶ。
 この国の王を怒らせた者は殺される。
 大臣の息子であろうと例外ではない。

「ナ……ナデ―ジュ様は疫病が再発したようでした……」
「な、何だと!? それはまことか……!?」
「はい……そしてそこにいるモーリス医官長は、特効薬をナデ―ジュ様に無理矢理飲ませました……私の制止を振り切って……」

 俺が声を震わせながら語ると、モーリスの顔が恐怖に染まった。

「な、何を仰るのです、ブノワ様!! 薬を飲ませるよう命じたのは……!」
「俺はナデ―ジュ様の夫となる男だぞ! 効き目がないと分かった特効薬を飲ませると思うのか!?」

 モーリスの言葉に遮るように俺が言うと、ずっとこの部屋にいたメイドも硬い表情で頷いた。
 俺が薬を飲ませろと言った時、この女も「お願いします、モーリス様」とか言っていたからな。
 それがバレたら自分の身だって危ない。
 だからモーリスを犠牲にすることにした。

「そ、そうです。ブノワ様も私も止めようとしました。ですが、モーリス様は『今度こそ治るはずだ』と叫んで……」
「そんな……私は何も悪くない!」
「モーリス!! 貴様……よくもナデ―ジュを……娘を!!」

 モーリスは国王陛下に殴られ、王妃陛下からも平手打ちを喰らった。
 けれどもう痛みを感じる余裕もなくなったのか、無反応で目は虚ろになっていた。

 これから待ち受ける自分の未来を想像して気が狂ったのだろう。
 俺は同情しなかった。むしろ、酷い死に方をすればいいと思う。
 愛しいナデ―ジュを失った。その苦しみと悲しみで俺だって壊れてしまいそうだ。

 それに不安もある。
 特効薬で治したはずの病が再発し、再び特効薬を服用したらすぐに絶命した。

 あれは一体何だ?
 その疑問は解消されることなく、俺たちの国は暗黒時代を迎えることとなった。
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