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12.問題(ブノワ視点)

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「いいか、このことは誰も明かすな」
「ですがブノワ様、イヴァーノたちは恐らく勘付いている様子でした」

 そんなの俺も分かっている。
 奴らはモーリスに気付かせるために、わざとクロード王子のことを聞いたのだろう。

「あいつらは所詮他国の人間だ。陛下の早とちりでエステルたちが殺されたと騒いでも、大きな問題にはならないはずだ」
「な、なるほど、そうですな……」

 ただ問題はクロード王子だ。
 あの人が余計なことを言い触らしたら、他にも勘付く奴が出てくるかもしれない。

 どうにかしないとな……。
 頭を悩ませていると、医官の一人が「あの、ブノワ様……」とおどおどしながら俺の名を呼んだ。

「ブノワ様は、エステル様の薬に効能があったことを知られたくないのですか……?」

 怯えと、俺に対する疑心が混じった目で問われ、俺は答えに迷った。
 けれどすぐに、この医官が納得しそうな理由を思い付く。

「俺もエステルの汚名を晴らしたいとは思っている。だが彼女たちを罪人とし、処刑を決めたのは陛下だ。全てを公表してしまえば、王族に対する信用は失墜する。民からの信用を失った国は滅ぶ。そうだろう?」
「そうだったんですね……ブノワ様はこの国の将来のために……」

 誤解していた自分を恥じるように、医官は強く目を瞑った。
 上手く騙されてくれてよかった。
 俺としては、あの物事を深く考えようとしない王が平民にどう思われようが知ったことじゃない。
 国が大きく傾いた時は、ナデ―ジュ王女を連れてどこかの国に逃げればいいだけの話だ。
 いざという時に備えて、貯蓄もあると父上が言っていた。

 俺が心配しているのは、俺自身の将来だ。
 もし真実が露見すれば、俺は恋人を信じてやらなかった男という目で見られるようになる。
 当然、ナデ―ジュ王女との婚約もなかったことにされてしまう。

 俺は哀れな元婚約者という立ち位置を守り続けなければならない。

「それにお前たちだって、彼女たちの特効薬を否定していたじゃないか。国民から無能集団と罵られるぞ」
「ぐ……」

 図星だったのか、モーリスは苦悶の表情を浮かべた。
 国王陛下も大概だが、民だって救いようのない馬鹿ばかりだと俺は思う。
 あいつらは罵倒することが出来れば、それが誰だっていいようなクズ連中だ。
 今はモーリスたちを称賛しているが、本当のことを知ったら容赦なく叩くに決まっている。

「いいか? この国を、自分たちを守るためにはエステルは悪女のままでいてもらわないと困る」
「……ブノワ様の言う通りですね。ですが、クロード王子殿下が騒ぎを大きくすれば……」

 モーリスもクロード王子の存在を危惧していたようだ。
 眉間の皺を指で揉みながら嘆息するモーリスに、俺は小声で問いかけをする。

「だったらいっそのこと、クロード王子なんていなくなった方がいいと思わないか?」

 モーリスは愕然とした表情を浮かべていたが、やがてゆっくりと頷いて見せた。


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