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5.執行(ブノワ視点)

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 醜い化物のような姿となったエステルの処刑は、予定通り執行された。
 首に縄をかけられると激しく抵抗し、執行官たちに殴る蹴るの暴行を受けていたが。
 縄で首を吊るされ、数分ほどもがき苦しんだ後エステルは絶命した。
 死体から滴り落ちる液体は奴の体液だろうか。
 民衆は鼻を摘まみながらゲラゲラと笑っていた。

 原因不明、治療法もない病が流行するこのご時世、罪人の処刑は一種の娯楽だ。
 悪人が苦しむ姿を見て愉しむ。
 自分がそいつに何かされたわけでもないくせに、勝手に怒って、そいつが断罪される瞬間を待っている。
 綺麗なものより汚いものを好むのが、人間の本質なんだよな。

 エステルの死体が下ろされる頃には、皆満足げな表情で去って行った。



「やっとエステルが死んだのですね! ああ、これで一安心です!」

 ナデ―ジュ王女に報告すると、彼女は頬を薔薇色に染めて喜んだ。
 万が一処刑が中止になる恐れは最後まであった。
 クロード王子が色々騒いでいたしな。

 だがエステルはちゃんと死んでくれた!
 新しい医官も皆優秀だと聞く。
 困ることは何一つない。

「よし、では一週間後に私たちの婚約を発表しましょう」
「本当は今すぐ私とブノワ様は愛し合っていると公表したいのですけれど……」
「楽しみは後にとっておきましょう。ね?」
「ええ、ブノワ様」

 ナデ―ジュ王女と微笑み合う。するとそこへ一人の文官が現れた。

「ブノワ様、お時間よろしいでしょうか?」
「……何か?」

 咄嗟に王女から離れようとはせず、このままの状態で問いかける。
 ここで慌てて距離を取ると、かえって怪しまれてしまう。

「実は……エステルの遺書が見つかりました」

 文官の言葉に俺は言葉が出なかった。



 エステルの遺書は紙ではなく、牢屋の壁に血文字で書かれたものだった。
 蝋燭の一本も置かれていない牢の中は薄暗く、見張りの兵も気付かなかったようだ。
 あの女が残した最後の言葉なんて興味なかったし、これからナデージュ王女とおやつのケーキを食べる予定もある。
 エステルの婚約者だったという理由だけで、ここに連れて来られた。
 ああ、やってられるか。糞便と血の臭いの残る牢屋から一刻も早く立ち去りたい。

「こちらです……」

 文官が蝋燭で壁を照らす。
 変色した血で短い言葉が残されていた。

『私はあなたを恨みません』とだけ。
 この『あなた』が誰を指しているのだろう。
 もしかしたら俺のことか?
 別に恨まれようと知ったこっちゃないんだがな。

 俺は両手で顔を覆い、悲しむ振りをしてから牢屋を出た。
 その一週間後、俺はナデージュ王女との婚約を発表。
 国王陛下と王妃陛下からも認められた。
 俺はエステルの婚約者だったが、エステルの処刑を密かに支持していたからな。
 そういう姿勢を陛下たちに気に入られたのだ。

 これで晴れて俺も王族の仲間入りだな……。
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