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70.謝罪(アデラ視点)
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『精霊の隠れ家』にはこの前と同じように、大勢の兵士も連れて行った。
おかげで無駄に目立って仕方がない。
通行人が路地裏に入っていく私たちを物珍しそうに眺めていた。
「先日は大変失礼致しました。数々の非礼、改めてお詫び申し上げます」
王子はリザリアとミレーユという女に頭を下げながら謝罪の言葉を口にした。
癪だけど私も謝るしかない。お父様が同行させた配下の男が、厳しい眼差しで私を見ているのだし。
「……私も失礼致しました」
私が謝ると、リザリアは驚いたように目を見開いた。
けれどすぐに困ったような顔をして、
「こちらこそ、先日はせっかくのお話を詳しく聞かずにお断りしてしまい、申し訳ありませんでした」
とミレーユと一緒に頭を下げてきた。
あんたたちが王子の話を突っぱねたせいで……と文句の一つも言いたかったけど、流石に我慢する。
謝ることも謝ったし、これでもう帰っていいでしょ? と思っていると、「あ、お待ちください」とミレーユに引き留められた。
「今日はミルクレープを作ってみました。よろしければ召し上がってください」
こんなに美味しいミルクレープを食べるのは、生まれて初めてだった。
クレープとクリームの間に塗られている酸味のあるジャムのおかげで、全然くどくない。
パティシエでもないのにこんなものが作れるなんて、このミレーユとかいう女何者?
「先日いただいた桃のケーキも絶品でしたが、このミルクレープも素晴らしい……」
王子も感動しながら食べ進めている。
その様子を見て、ミレーユはほっとしたように微笑んだ。
「お褒めいただき、恐縮です。ルシロワール殿下はミルクレープがお好きだと耳にしたので、ご用意致しました」
「私の好きなものをわざわざ……?」
「はい。前回のお詫びも兼ねまして」
リザリアも黒い魔法使い様も、この女の作るお菓子を食べているなんて正直羨ましすぎる。
魔導工芸品店の経営なんてやっていないで、パティシエにでもなって店を開けばいいのに……。
勿体ないと思っていると、真面目な顔をしたリザリアが話を切り出した。
「では前回ご提案してくださった契約の件について、詳しいお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
結局契約は受けるつもりでいるみたい。ただし、その前にしっかりと話を聞いてから、というのが『精霊の隠れ家』側が出した条件だった。
「は、はい。まずは主な購入品についてですが……」
王子が緊張した表情で説明を始める。
私は話の内容がよく理解できないから、王子の隣でお茶を飲んでいるだけだけれど。
店のドアを何度も叩くのが聞こえたのは、三十分くらい経った頃。
リザリアが王子に断りを入れて、応対しに行った。
今日は誰も来る予定じゃなかったみたいで、不思議そうな顔をしながら。
「……ふう」
リザリアが席を外すと、王子は深く溜め息をついた。
よく見れば暑くもないのに、額に汗が浮かんでいる。
何で? と首を傾げていると、
「……もしかすると、殿下は他人とお話しされるのが苦手なのではありませんか?」
ミレーユは心配そうに眉を下げながら王子に聞いた。
おかげで無駄に目立って仕方がない。
通行人が路地裏に入っていく私たちを物珍しそうに眺めていた。
「先日は大変失礼致しました。数々の非礼、改めてお詫び申し上げます」
王子はリザリアとミレーユという女に頭を下げながら謝罪の言葉を口にした。
癪だけど私も謝るしかない。お父様が同行させた配下の男が、厳しい眼差しで私を見ているのだし。
「……私も失礼致しました」
私が謝ると、リザリアは驚いたように目を見開いた。
けれどすぐに困ったような顔をして、
「こちらこそ、先日はせっかくのお話を詳しく聞かずにお断りしてしまい、申し訳ありませんでした」
とミレーユと一緒に頭を下げてきた。
あんたたちが王子の話を突っぱねたせいで……と文句の一つも言いたかったけど、流石に我慢する。
謝ることも謝ったし、これでもう帰っていいでしょ? と思っていると、「あ、お待ちください」とミレーユに引き留められた。
「今日はミルクレープを作ってみました。よろしければ召し上がってください」
こんなに美味しいミルクレープを食べるのは、生まれて初めてだった。
クレープとクリームの間に塗られている酸味のあるジャムのおかげで、全然くどくない。
パティシエでもないのにこんなものが作れるなんて、このミレーユとかいう女何者?
「先日いただいた桃のケーキも絶品でしたが、このミルクレープも素晴らしい……」
王子も感動しながら食べ進めている。
その様子を見て、ミレーユはほっとしたように微笑んだ。
「お褒めいただき、恐縮です。ルシロワール殿下はミルクレープがお好きだと耳にしたので、ご用意致しました」
「私の好きなものをわざわざ……?」
「はい。前回のお詫びも兼ねまして」
リザリアも黒い魔法使い様も、この女の作るお菓子を食べているなんて正直羨ましすぎる。
魔導工芸品店の経営なんてやっていないで、パティシエにでもなって店を開けばいいのに……。
勿体ないと思っていると、真面目な顔をしたリザリアが話を切り出した。
「では前回ご提案してくださった契約の件について、詳しいお話を伺ってもよろしいでしょうか?」
結局契約は受けるつもりでいるみたい。ただし、その前にしっかりと話を聞いてから、というのが『精霊の隠れ家』側が出した条件だった。
「は、はい。まずは主な購入品についてですが……」
王子が緊張した表情で説明を始める。
私は話の内容がよく理解できないから、王子の隣でお茶を飲んでいるだけだけれど。
店のドアを何度も叩くのが聞こえたのは、三十分くらい経った頃。
リザリアが王子に断りを入れて、応対しに行った。
今日は誰も来る予定じゃなかったみたいで、不思議そうな顔をしながら。
「……ふう」
リザリアが席を外すと、王子は深く溜め息をついた。
よく見れば暑くもないのに、額に汗が浮かんでいる。
何で? と首を傾げていると、
「……もしかすると、殿下は他人とお話しされるのが苦手なのではありませんか?」
ミレーユは心配そうに眉を下げながら王子に聞いた。
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