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68.予想外(アデラ視点)

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 私が『精霊の隠れ家』のことを教えてあげると、予想通り王子は食いついてきたわ。
 だからここぞばかりに、あの店の良さをアピールしてやった。
 あ、黒い魔法使い様のことをものすごーく喋りたかったけど、そこは我慢した。
 私が他の男に夢中だって知られたら、王子を口説くことが難しくなるもの。

 王子も以前から『精霊の隠れ家』のことは知っていて、候補には入れていたみたい。
 で、私の話を聞いてますます興味を持ってくれた。

 やっぱり、リザリアの話題を出したのが決め手だったかしらね。
 私としてはとても不本意だったけど、使えるものは何でも使おうと思って「フィリヌ魔導店を名店にした凄腕事務員がそこで働いている」って言えば、王子は目の色を変えた。


 これで私は王子と結びつきができたし、後は『精霊の隠れ家』が王宮と契約を結べば……なんて思っていたら、ここで事件発生。
 リザリアと変なおばさんが契約の話を蹴ったの!

 何考えてるの、あいつら。
 王宮との契約よ? 最初に手紙を送らなかっただとか、私を頼った王子も悪いだとか色々と難癖つけちゃって!
 あのね、こっちは王族なの。
 それに対してあっちは人気店と言っても、開店してから半年も経っていない小さな店。
 王子からは『向こうに話を通していてください』って言われていたけど、アポイントなんて必要ないでしょうが。
 おまけに王子を落ち込ませて。あんたたち、不敬罪で牢屋送りか極刑になるわよ!

 だけどここは怒っていないで、しおらしい態度を見せておいた方がいいかも。
 王子の頼みを無視した最低な女って思われたら嫌だし。
 私は帰りの馬車の中で、声を震わせて何度も謝った。

「ご、ごめんなさい、ルシロワール様。私が甘く考えていたせいで、こんなことになってしまいまして……」
「いえ、あまりご自分を責めないでください。アデラ嬢に全てを任せて、契約を結ぶことだけを考えていた私が悪いのですから」
「ぐすっ……ルシロワール様はお優しいのですね」

 この王子は人がよすぎるから、こっちから謝ればすぐに折れてくれるって分かっていたけどね。
 ホッと安心したから、お礼に今度は私が王子を慰めてあげることにした。

「私のような女でも許してくださるなんて……やっぱりルシロワール様は王の器です!」
「そ、そうでしょうか?」
「ええ! そんなルシロワール様をこれからも支えてまいります!」
「……はい。ありがとうございます」

 まだ心の傷が癒えていないみたいで、王子は寂しそうに笑った。
 やっぱりあいつら不敬罪よ、不敬罪。
 私の未来の旦那様が悲しんでいるじゃない。
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