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54.有能すぎた事務員(トール視点)
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おかしいとは思ったんだよね。
うちの魔導工芸品店って、実はそんなに有名でもなかったんだよ。
元魔法使いとか、魔物が怖くて魔法使いになれなかったような奴らを適当に集めて開いたのが始まり。
そんなことだから、売り物の質も中の中程度。
所詮はお貴族様の戯れって馬鹿にされていた。
それがある時期を境に、品質が上がって少しずつ客足が増えていった。
その噂を聞きつけた王宮からも注文が入るようになって、フィリヌ魔導店は一目置かれる存在に大変身。
他の職人に比べてそこそこ程度の実力だったハーライトも、一流の職人って言われるようになった。
で、その時期っていうのがリザリアが勤め始めてから少し経った頃。
「た、確かにリザリアは他の事務員とは明らかに違いました」
「彼女がいた当時は深く考えていませんでしたが……」
責任者たちも思い当たる節があるようで、ぽつりぽつりと口を開く。
「水の精霊石は何故か上質なものを避けて仕入れていましたし、『風の囁き』に使用する香料にも妙なこだわりがありました」
「残業代もどんなに少額であっても未払いは絶対にあってはならないと、何度も給料計算していたそうです」
「全従業員の予定をしっかり聞いた上で、勤務時間を設定していましたね。普通は店側が設定した勤務時間に従業員が合わせるものなのに」
「誰かが体調を崩したり身内が倒れた時に早退しても、他の従業員でカバーできる勤務時間の組み方だった……」
次々と発覚していくリザリアの有能さに震えが止まらない責任者ズ。
僕は早い段階で気づいていたよ?
だから将来僕の仕事を手伝ってもらえると信じて、リザリアと結婚したんだもんね。
でもここまでとは思わなかった。
だってたった一人いるかいないかで、こんなに変わるだなんて考えないじゃん。
「ぐぬ、ぐぬぬ……!」
父上が悔しそうに変な鳴き声を発している。
「侯爵様、現在リザリアはディンデール家の店で働いているそうですね。そしてその店は、かつてのフィリヌ魔導店のように、いえそれ以上に繁盛しているとか……」
「ぐぬぬぬぬっ!!」
癇癪を起こした子供のように机を掌でバンバン叩く父上。ああはなりたくない。
「しかも『精霊の隠れ家』で販売されている品物は、かつてリザリアが考案したものもいくつかあります」
「ですが我々は当時、『需要があるかも分からない新商品の開発に割く時間はない』と無視してしまっていました……」
「ぐああああっ!!」
父上は自分の頭を思い切り掻き毟った後、ぼさぼさの頭で責任者たちに宣言した。
「……リザリアをフィリヌ魔導店に連れ戻す」
「し、しかしどのように? リザリアは『精霊の隠れ家』で……」
「貴様ら、リザリアに頭を下げろ」
「「「「……は?」」」」
父上の言葉に執務室の空気が凍りつく。
僕も口をぽかんと開けてしまった。
うちの魔導工芸品店って、実はそんなに有名でもなかったんだよ。
元魔法使いとか、魔物が怖くて魔法使いになれなかったような奴らを適当に集めて開いたのが始まり。
そんなことだから、売り物の質も中の中程度。
所詮はお貴族様の戯れって馬鹿にされていた。
それがある時期を境に、品質が上がって少しずつ客足が増えていった。
その噂を聞きつけた王宮からも注文が入るようになって、フィリヌ魔導店は一目置かれる存在に大変身。
他の職人に比べてそこそこ程度の実力だったハーライトも、一流の職人って言われるようになった。
で、その時期っていうのがリザリアが勤め始めてから少し経った頃。
「た、確かにリザリアは他の事務員とは明らかに違いました」
「彼女がいた当時は深く考えていませんでしたが……」
責任者たちも思い当たる節があるようで、ぽつりぽつりと口を開く。
「水の精霊石は何故か上質なものを避けて仕入れていましたし、『風の囁き』に使用する香料にも妙なこだわりがありました」
「残業代もどんなに少額であっても未払いは絶対にあってはならないと、何度も給料計算していたそうです」
「全従業員の予定をしっかり聞いた上で、勤務時間を設定していましたね。普通は店側が設定した勤務時間に従業員が合わせるものなのに」
「誰かが体調を崩したり身内が倒れた時に早退しても、他の従業員でカバーできる勤務時間の組み方だった……」
次々と発覚していくリザリアの有能さに震えが止まらない責任者ズ。
僕は早い段階で気づいていたよ?
だから将来僕の仕事を手伝ってもらえると信じて、リザリアと結婚したんだもんね。
でもここまでとは思わなかった。
だってたった一人いるかいないかで、こんなに変わるだなんて考えないじゃん。
「ぐぬ、ぐぬぬ……!」
父上が悔しそうに変な鳴き声を発している。
「侯爵様、現在リザリアはディンデール家の店で働いているそうですね。そしてその店は、かつてのフィリヌ魔導店のように、いえそれ以上に繁盛しているとか……」
「ぐぬぬぬぬっ!!」
癇癪を起こした子供のように机を掌でバンバン叩く父上。ああはなりたくない。
「しかも『精霊の隠れ家』で販売されている品物は、かつてリザリアが考案したものもいくつかあります」
「ですが我々は当時、『需要があるかも分からない新商品の開発に割く時間はない』と無視してしまっていました……」
「ぐああああっ!!」
父上は自分の頭を思い切り掻き毟った後、ぼさぼさの頭で責任者たちに宣言した。
「……リザリアをフィリヌ魔導店に連れ戻す」
「し、しかしどのように? リザリアは『精霊の隠れ家』で……」
「貴様ら、リザリアに頭を下げろ」
「「「「……は?」」」」
父上の言葉に執務室の空気が凍りつく。
僕も口をぽかんと開けてしまった。
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