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51.献身

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 私とオーナーが困惑していると、オブシディアさんは実際に見せるので何味でもいいからジュースを持って来て欲しいと仰った。
 オーナーは大慌てでメロンジュースを用意するついでに、元魔法使いの従業員も呼び出した。
 その人も「ジュースで精霊石を!?」と驚きを隠せない模様。

 そもそも、人工的に精霊石を作り出すなんて聞いたことがない。
 開発、研究は現在進行形で行われているのだけれど、魔力量の調整がとても難しいらしい。
 ……もし本当に精霊石が精製できてしまったら、テイクアウト用のジュース云々どころじゃなくなりそう。
 私たちが固唾を飲んで見守るなか、オブシディアさんは淡い緑色のジュースが注がれたグラスに手を翳した。
 途端ジュースだけがふよふよと宙を浮かび、勢いよく自転を始める。
 液体だったそれは次第に変質していき──。

「こんなもんだろ」

 固体へと姿を変えたそれは、私の掌に着地した。
 メロンジュースの色をしていること以外は、煌めきも感触もよく知る水の精霊石そのもの。
 オブシディアさんは呆然とする私たちに得意げな顔をすることもなく、淡々と説明をする。

「精霊石と言っても水から作ったわけじゃないから、これを水杯に加工しても普通のに比べて水の排出量は少ないだろうな。コップ一杯分が限界……精霊石を作ったのとほぼ同じ量だって考えていいと思う」
「ファ……」

 バタンと音を立てて卒倒したのは従業員だった。私たち三人の中で一番魔法について造詣が深い彼には、衝撃的な光景だったのだろう。
 一方、オーナーは夢が叶いそうな予感に目を輝かせていた。

「いける……いけますよ、オブシディア様! テイクアウト化が現実的になってきましたよぉ……!」
「そうか。よかったな」

 オブシディアさんはあっさりとした口調で返すと、猫のように上体を前に突き出して背伸びをした。



 その後、目を覚ました従業員は何度もジュースの精霊石化に挑戦したけれど、中々上手くいかない。
 オブシディアさんに魔力調整のアドバイスを貰っても、一瞬だけ固体にするのがやっと。
 それに水以外での精霊石で『満ちる水杯』を作って味に問題はないのかとか、飲み終わった後のグラスの処理など課題もある。
 だけどこれが上手くいけばテイクアウト用のジュースが販売できると、『虹色の果樹園』は大盛り上がり。
 私たちもできるだけ協力すると約束してから、店を後にした。

「ありがとうございます、オブシディアさん。お休み中に魔法を使ってもらって。従業員の方にも細かい説明まで……」
「俺は楽しかったぞ。人間にああやって教える機会なんてあんまりないしな」

 確かに従業員に魔力について指導しているオブシディアさんは、どこか楽しそうだった。

「それにワクワクした顔で俺たちを眺めてるリザが見られた」
「そ、そうですか?」
「とっても可愛かった」

 私をそう褒める声は、低くてどこか甘みを帯びている。
 聞いている側の頬が熱くなるのも仕方ないと思う。
 深呼吸を繰り返して平静に戻ろうとしていると、

「俺はさ、リザの笑ったり喜んだりしてる顔を見るの好きだぜ」
「オブシディアさん……」
「ミレーユもシルヴァンもいい奴で好きだけど、リザは特別だ。お前のためなら何だってしてやろうと思う」

 少しだけ首を傾げて笑顔で私の顔を覗き込む。
 私を見詰める彼の瞳に私は見惚れてしまう。
 誰かに尽くしたり、頼られることはたくさんあったけれど、ここまで私に尽くそうとしてくれる人は初めてだった。




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