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39.兄とオブシディア

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「うっわ、うめぇ。うちのシェフのローストビーフより柔らかいし、ソースも味がいい」

 昼食がまだということだったので、お兄様にもサンドイッチを召し上がってもらうと感動していた。
 キャロットのポタージュも、美味しそうに食べ進めている。
 お兄様は、叔母様が料理上手だとご存知だったそう。
 叔母様が「お昼食べてく?」と聞く、嬉しそうに返事していた。

「にしても、びっくりしたわ。父上が『いい子そうだけど、ちょっと怖い』って言ってたからどんなもんかと思っていたら、普通に顔がいい男だもんな」

 お兄様がオブシディアさんを見ながら、意外そうに仰った。

「リザリア、こいつを使えば店にもっと客入るんじゃないか? 特に女性客」
「俺を使う?」
「店内で接客させるとか。工芸品作りに忙しいのなら、少しだけでもいいからさ」

 お兄様の提案に、私と叔母様は無言で互いの顔を見合った。
 実は叔母様もそれを思いついていた。
 だけど……。

「俺も工芸品作り終わって暇な時に、店の中で品物の補充はしてるぞ」
「あ、もうやってるのか。そりゃ悪かったわ」
「でも誰にも気づかれたことがない」
「……そこまでいくと、もう陰が薄いとかの次元越えて『無』だろ。もうちょい自分を目立たせる努力しろよ! 頭を虹色に染めるとか、背中に鳥の羽をワサワサつけるとか……」
「ングゥッ」

 想像したのか、叔母様がパンを喉に詰まらせた。オブシディアさんも微妙そうな顔をする。

「無駄だ。俺が周囲から認識されにくいのは、容姿の問題じゃないからな」
「よく分からんが、人に気づかれにくいって大変じゃないか?」
「魔力量が多い奴なら何とか俺に気づくことが出来るから、そこまで苦労はしてないぞ。それに今はリザリアがいるし」
「んん? リザリアって魔力空っぽなのに、お前が傍にいるのが分かるのか? それ矛盾しているんじゃ……?」

 ずっと私が疑問に思っていたことをお兄様が口にした。

「……それについては俺も分からない」
「分かれよ、自分のことなんだから。ま、それは後から考えるとして……叔母様、今晩って時間あったりするか?」
「オブシディアくんも今日作る分は終わってるから、店閉めた後はのんびりするつもりよ。明日は定休日だし」

 叔母様の答えを聞いたお兄様は、「だったら」と目を輝かせた。

「オブシディア借りていいか? 俺と遊べ!」
「私たちはいいですけれど……オブシディアさんはどうですか?」

 オブシディアさんに聞いてみると、何故か腕を組んで唸り出す。

「……シルヴァンっていい奴だろ?」
「自分で言うのもなんだが、俺滅茶苦茶いい奴だよ」
「だったら、駄目だな。いい奴で遊ぶのはしないようにしてるんだ」
「俺遊ぼうとすんな! 俺遊べ馬鹿!」

 結局オブシディアさんは、お兄様のチェスゲームに付き合わされることになってしまった。





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