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32.親子喧嘩(トール視点)
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ルミノー邸に馬車を向かわせる。
アデラも最近は忙しいみたいで、全然会いに来てくれていなかったんだよね。
玄関で応対してくれたメイド(美人!)にアデラと外出したいことを告げると、「アデラ様はただいま取り込み中でして……」と難色を示された。
その言葉に、僕は軽くイラッとした。
アデラにとっての一番はこの僕だ。
僕が一緒にお出かけしたいって言ったら、他の用事を無視してでもついてくるものでしょ。
早くアデラを連れてくるように今度は強めに言うと、メイドは焦った様子で「少々お待ちください」と屋敷の奥に消えて行った。
けど、このまま待ってやるつもりはないよ?
可愛いあの子の顔を早く見たいから、僕も屋敷の中に入る。
将来の夫なんだから、このくらい許されなきゃおかしいよね。
ルミノー邸には何度かお邪魔しているから、アデラの部屋がどこにあるかは覚えている。
こっちだったかなぁ……。
「そのくらい別にいいじゃない! お父様も心が狭いわね!」
ん? アデラの怒声が逆方向から聞こえてきた。
向こうはルミノー伯爵の執務室だったような。
様子を見に行こうとすると、メイドに止められたから睨んで黙らせる。
アデラが困っているかもしれないのに、僕が行かないわけにはいかないんだよ!
「お前の気持ちは分かるぞ、アデラ。ただその話は……」
「だって、うちが損するようなことでもないじゃない。なのに駄目だなんて、納得いかないわ」
「理由は先程も話しただろう……」
「その程度で気分を害するような方々じゃないわよ。お父様と違って心も広いんだから」
執務室の前までくると、アデラとルミノー伯爵の会話から部屋から漏れていた。
親子喧嘩ってわけでもなさそうだね。
アデラが一方的に怒っているみたいだ。
「それに何で勝手に謝りに行ってるのよ。余計なことしないで!」
「余計なこととは何だ! 贔屓にしたい店の従業員に平手打ちをしといて、謝罪の一つもしない? 矛盾しているぞ!」
「あれはあの女が私を侮辱したからよ! 酷いのよ? 私にゴミを見るような視線を向けて……」
「お前の思い込みに決まっている! それにお前のせいで彼女は深く傷付いたのだぞ。そのような視線を向けられても、文句を言える立場ではない!」
話はよく分からないけど、アデラはどこかの店の女のせいで嫌な思いをして、それでうっかりビンタしちゃったみたいだ。
だけどルミノー伯爵は、女の味方をしている。
こういう時は自分の娘を守るものなのにさ。
「お父様、酷い……実際にその様子をみていないからか、そんなことが言えるのよ……っ」
アデラの声が震え始める。
ルミノー伯爵に信じてもらえず泣いているんだろうな。
けど安心して。
僕はアデラの味方だよ!
執務室のドアを開けた僕は、声高らかに叫んだ。
「お義父様! いくら実の父親であっても、僕のアデラを泣かせるのは許しませんよ!」
「ト、トール様……!?」
アデラが驚愕で目を大きく見開いている。
助けにきたよ、僕の愛しい人!
アデラも最近は忙しいみたいで、全然会いに来てくれていなかったんだよね。
玄関で応対してくれたメイド(美人!)にアデラと外出したいことを告げると、「アデラ様はただいま取り込み中でして……」と難色を示された。
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アデラにとっての一番はこの僕だ。
僕が一緒にお出かけしたいって言ったら、他の用事を無視してでもついてくるものでしょ。
早くアデラを連れてくるように今度は強めに言うと、メイドは焦った様子で「少々お待ちください」と屋敷の奥に消えて行った。
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ん? アデラの怒声が逆方向から聞こえてきた。
向こうはルミノー伯爵の執務室だったような。
様子を見に行こうとすると、メイドに止められたから睨んで黙らせる。
アデラが困っているかもしれないのに、僕が行かないわけにはいかないんだよ!
「お前の気持ちは分かるぞ、アデラ。ただその話は……」
「だって、うちが損するようなことでもないじゃない。なのに駄目だなんて、納得いかないわ」
「理由は先程も話しただろう……」
「その程度で気分を害するような方々じゃないわよ。お父様と違って心も広いんだから」
執務室の前までくると、アデラとルミノー伯爵の会話から部屋から漏れていた。
親子喧嘩ってわけでもなさそうだね。
アデラが一方的に怒っているみたいだ。
「それに何で勝手に謝りに行ってるのよ。余計なことしないで!」
「余計なこととは何だ! 贔屓にしたい店の従業員に平手打ちをしといて、謝罪の一つもしない? 矛盾しているぞ!」
「あれはあの女が私を侮辱したからよ! 酷いのよ? 私にゴミを見るような視線を向けて……」
「お前の思い込みに決まっている! それにお前のせいで彼女は深く傷付いたのだぞ。そのような視線を向けられても、文句を言える立場ではない!」
話はよく分からないけど、アデラはどこかの店の女のせいで嫌な思いをして、それでうっかりビンタしちゃったみたいだ。
だけどルミノー伯爵は、女の味方をしている。
こういう時は自分の娘を守るものなのにさ。
「お父様、酷い……実際にその様子をみていないからか、そんなことが言えるのよ……っ」
アデラの声が震え始める。
ルミノー伯爵に信じてもらえず泣いているんだろうな。
けど安心して。
僕はアデラの味方だよ!
執務室のドアを開けた僕は、声高らかに叫んだ。
「お義父様! いくら実の父親であっても、僕のアデラを泣かせるのは許しませんよ!」
「ト、トール様……!?」
アデラが驚愕で目を大きく見開いている。
助けにきたよ、僕の愛しい人!
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