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24.水の精霊石
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「水に美味いだの不味いだのってあるのか?」
首を傾げるオブシディアさんを叔母様がキツく睨みつける。
「あーるーの! たかが水だからって甘くみちゃいけないの!」
「お、おう……」
こだわりの強さを見せつける叔母様に、オブシディアさんが引いている。
二人のやり取りを眺めつつ、私は『満ちる水杯』の縁を擦って水を出した。
グラスに鼻を近づけてみるけれど、生臭さや金属の匂いはしない。
次は味。一口飲んでみて、慎重に味を確かめる。
ひんやり冷たく、特におかしなところはない普通の水。……と思っていると、ほんの僅かにえぐみがある。
叔母様が気づいたのはこれだったようだ。
「これは飲用水としてはちょっと売れませんね」
「そうなのか。悪い、水の味とか全然気にしてなかった」
「オブシディアさんが悪いわけではありません。水の味は、精霊石の質に左右されるのですよ」
質がよければ美味しい水が生み出せるわけでもない。
もちろん悪くても駄目。美味しくないどころか、健康にも関わることがある。
『満ちる水杯』作りで一番大事なのは、ちょうどいいバランスの精霊石を選ぶこと。
私は木箱に詰まった水の精霊石の中から一つ取り出すと、オブシディアさんに渡した。
「今度はこの石でグラスを作ってみてください」
「何か違いでもあるのか? さっきと変わらないように見えるけど」
「作ってみてのお楽しみです」
そう答えて、もう一度オブシディアさんに『満ちる水杯』を作ってもらう。
「はいどうぞ、叔母様。味見してみてください」
「ええ……」
水を湧かせたグラスを叔母様に差し出す。
叔母様は緊張した表情で水を一口飲んでから、
「美味しい! さっきのとは全然違うわ!」
嬉しそうに残りを一気に飲み干した。
私も水の味を確かめてみるけれど、えぐみがなくて飲みやすい。
オブシディアさんはそれぞれのグラスで出した水を飲み比べ、味の違いが分からないのか微妙な顔をしている。
「これ、同じ水じゃないのか?」
「確かに本当に少しだけの違いなので、気づかない人もいるでしょうね。私も意識して飲まないと分からなかったかもしれません……」
「だったら、普通に売ってもいいだろ」
「駄目です! 小さな妥協が大きな損失に繋がるのですから!」
私がそう叫ぶと、オブシディアさんは無言で何度も頷いた。ついでに叔母様も頷く。
それにしても……。
「叔母様、よく水のえぐみに気づきましたね」
「そう? 結構分かりやすかったと思うけど……」
そんなにはっきり感じるえぐみだったろうか。
もしかして私って味覚音痴なのかも、と落ち込んでいると叔母様が「あ」と時計を見て声を漏らした。
「そろそろお昼ご飯の時間ね。リザリアとオブシディアくんもお腹空いているんじゃない?」
「そうですね……私、この辺りはあまり詳しくないのですけれど、どこかいいお店をご存知ですか?」
「私も外で食事することって少ないからさっぱり。……ということで、簡単なものでいいなら私が作ってあげる!」
「叔母様が……ですか?」
期待より不安の方が大きい。
この人をキッチンに立たせていいのかと息を呑む。
「よせよ、ミレーユ。無理すんな」
オブシディアさんも止めている。
だけど叔母様は「叔母さんに任せなさーい!」と工房から出て行ってしまった。
私たちに手料理を振る舞いたくて仕方ない模様。
「まあ、キッチンが炎上したら俺が消すから心配すんなよ」
「……ありがとうございます」
流石にそんな大惨事にはならないと思うけれど。
……私たちにできるのは、ただ祈ることのみ。
首を傾げるオブシディアさんを叔母様がキツく睨みつける。
「あーるーの! たかが水だからって甘くみちゃいけないの!」
「お、おう……」
こだわりの強さを見せつける叔母様に、オブシディアさんが引いている。
二人のやり取りを眺めつつ、私は『満ちる水杯』の縁を擦って水を出した。
グラスに鼻を近づけてみるけれど、生臭さや金属の匂いはしない。
次は味。一口飲んでみて、慎重に味を確かめる。
ひんやり冷たく、特におかしなところはない普通の水。……と思っていると、ほんの僅かにえぐみがある。
叔母様が気づいたのはこれだったようだ。
「これは飲用水としてはちょっと売れませんね」
「そうなのか。悪い、水の味とか全然気にしてなかった」
「オブシディアさんが悪いわけではありません。水の味は、精霊石の質に左右されるのですよ」
質がよければ美味しい水が生み出せるわけでもない。
もちろん悪くても駄目。美味しくないどころか、健康にも関わることがある。
『満ちる水杯』作りで一番大事なのは、ちょうどいいバランスの精霊石を選ぶこと。
私は木箱に詰まった水の精霊石の中から一つ取り出すと、オブシディアさんに渡した。
「今度はこの石でグラスを作ってみてください」
「何か違いでもあるのか? さっきと変わらないように見えるけど」
「作ってみてのお楽しみです」
そう答えて、もう一度オブシディアさんに『満ちる水杯』を作ってもらう。
「はいどうぞ、叔母様。味見してみてください」
「ええ……」
水を湧かせたグラスを叔母様に差し出す。
叔母様は緊張した表情で水を一口飲んでから、
「美味しい! さっきのとは全然違うわ!」
嬉しそうに残りを一気に飲み干した。
私も水の味を確かめてみるけれど、えぐみがなくて飲みやすい。
オブシディアさんはそれぞれのグラスで出した水を飲み比べ、味の違いが分からないのか微妙な顔をしている。
「これ、同じ水じゃないのか?」
「確かに本当に少しだけの違いなので、気づかない人もいるでしょうね。私も意識して飲まないと分からなかったかもしれません……」
「だったら、普通に売ってもいいだろ」
「駄目です! 小さな妥協が大きな損失に繋がるのですから!」
私がそう叫ぶと、オブシディアさんは無言で何度も頷いた。ついでに叔母様も頷く。
それにしても……。
「叔母様、よく水のえぐみに気づきましたね」
「そう? 結構分かりやすかったと思うけど……」
そんなにはっきり感じるえぐみだったろうか。
もしかして私って味覚音痴なのかも、と落ち込んでいると叔母様が「あ」と時計を見て声を漏らした。
「そろそろお昼ご飯の時間ね。リザリアとオブシディアくんもお腹空いているんじゃない?」
「そうですね……私、この辺りはあまり詳しくないのですけれど、どこかいいお店をご存知ですか?」
「私も外で食事することって少ないからさっぱり。……ということで、簡単なものでいいなら私が作ってあげる!」
「叔母様が……ですか?」
期待より不安の方が大きい。
この人をキッチンに立たせていいのかと息を呑む。
「よせよ、ミレーユ。無理すんな」
オブシディアさんも止めている。
だけど叔母様は「叔母さんに任せなさーい!」と工房から出て行ってしまった。
私たちに手料理を振る舞いたくて仕方ない模様。
「まあ、キッチンが炎上したら俺が消すから心配すんなよ」
「……ありがとうございます」
流石にそんな大惨事にはならないと思うけれど。
……私たちにできるのは、ただ祈ることのみ。
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