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9.僕の好きな人(トール視点)

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「ねえ見て、トール様。このネックレスお義母様がくれたのよ」

 そう言ってアデラが見せてくれたのは、大粒のダイヤを使ったペンダントだった。
 ちょっと派手なデザインだけど、不思議と似合ってしまうのは、アデラが宝石に負けないくらいキラキラしているからだろう。

「うん、とっても素敵だよ」
「ふふ、トール様ならそう言ってくれると思っていたわ」

 僕の前で無邪気に微笑む姿をずっと見ていたい。
 そう思う一方で、僕は罪悪感に駆られて素直に笑うことができずにいた。
 すぐにそのことに気づいたアデラに顔を覗き込まれる。

「どうしたの、トール様。元気がないわ」
「えーと……申し訳ないと思ってさ。酷いことをしたなぁって」

 アデラには本当に辛い思いをさせてしまった。
 僕がリザリアなんかと結婚したばっかりに。

 昔から僕とアデラは一緒だった。
 ルミノー伯爵に連れられて、よく屋敷に遊びに来てくれたアデラ。
 誰よりも可愛くて、僕にくっついてばかりのアデラと結婚したいなぁと思っていた。
 でもアデラからそういう話をされたことがないから、脈なしだと思っていつしか諦めてしまった。

 そんなある日、僕は父上が経営している店で働くリザリアに出会った。
 長い黒髪に、物静かそうな雰囲気。
 アデラには到底及ばないけどそこそこ可愛くて、何より賢そうだった。

 実際リザリアは優秀な事務員だった。
 店の売上や従業員の給料計算だけじゃなく、精霊石や原材料の発注や、注文内容の管理、従業員の勤務時間の調整などを彼女が殆どやっていた。

 こういう人と結婚すれば、将来家督を継いだ僕の仕事を手伝ってくれるに違いない!
 そう思って、リザリアを口説き落として両親も説得した。
 ディンデール家も巻き込んで、どうにか結婚できた。
 これで僕の将来も安泰……と思っていた時だ。
 涙ぐむアデラから「あなたのことを愛してるの。他の人のところに行かないで」と言われたのは。

 そしてずっと僕のことが好きで、けれど言い出せずにいたら僕がリザリアと結婚してしまったと告白してくれた。

『今更こんなことを言ってごめんね。迷惑でしょ……?』
『そんな……そんなことないよ! 勇気を出して告白してくれてありがとう、アデラ。僕も君を愛してるよ……』
『本当に……?』
『君に嘘なんてつかないよ』

 僕が本当に好きなのはアデラなんだ。
 結婚するなら、アデラの方がいいに決まっている。
 確かにリザリアもいいけど、あっちは僕が文句を言わないと仕事ばかりで二人きりになってくれないし。

 僕はリザリアと夫婦になってしまったけど、そんなの離婚すれば済む話だ。
 でもアデラと結婚したいから別れますって言ったら、僕が怒られる。
 両親に反対されたのに、無理に押し切る形で結婚したわけだし……。

 というわけでリザリアを悪者にすることにした。
 リザリアは何も悪くないけど、僕だってアデラと幸せになりたいんだ。
 大丈夫、君なら多分再婚できるよっ!
 それがいつになるかは分からないけど。
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