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7.ミレーユ
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ウキウキした足取りのお母様に私もついていく。
一人くらい辞めたのならよくあることだけど、全員とは。
そんなに勤務内容が過酷なのかしらと疑問に思う。
応接間に向かうと、この世の闇を全て背負ったかのような表情の女性がソファーの上で膝を抱えていた。
顔は青白く、目は窪んで真っ黒な隈が目立つ。
身なりを整える気力もないようで、お母様と同じマロンブラウンの髪は乱れに乱れきっていた。
初めて見る叔母様の姿にぎょっとする私とは対照的に、お母様はあまり動じていなかった。
「思ったより可哀想な顔をしているわね。どうしたの?」
お母様に声をかけられると、ミレーユ叔母様はびくっと肩を震わせた。
ゆっくりとこちらを見て、くしゃりと顔を歪めてお母様に抱き着いた。
「お姉ちゃん助けて~~!!」
「私に助けられたらね」
「ちょ……ちょっと妹が泣いているんだから、もう少し温かい言葉をくれない!?」
お母様は無邪気だけれど、妙に冷めている部分があると、お兄様から聞いたことがある。
素っ気ない姉の言葉に叔母様は肩を落としつつ、私に視線を向けた。
「こちらのお嬢さんは……?」
「リザリアよ。ほら、フィリヌ家に嫁ぐためにうちの養子になった子」
「あ、あなたがリザリア……」
叔母様は大きく目を見開き、体を震わせた。
もしかしたら私のことを以前から知っているのだろうか。
次の言葉を待っていると、叔母様はソファーから立ち上がって私に駆け寄った。
一体何事? と身構える私の両手を掴み、鬼気迫る表情でこう尋ねる。
「あなたってフィリヌ魔導店で働いていたのよね?」
「え、ええ……」
「ハーライトって男知ってる?」
「確か……以前フィリヌ魔導店にいた職人ですね」
一番腕のいい職人で、独立を目指して半年前に店を去ってしまった人だ。
近々隣町で店をオープンするって噂で聞いたけれど……。
魔石を鷲掴みにして笑う豪快な男性だったと思い返していると、叔母様は酸っぱいものを食べたような顔をした。
「そのハーライトって奴が、うちの職人を全員引き抜いたのよ」
怨嗟に満ちた声音で告げられ、私は引っかかりを覚えた。
いくらハーライトさんが一流の職人と言えども、他の店から職人を一斉に持って行くことができるものなのか、と。
何故なら彼は、腕はいいのだけれど粗暴な性格のせいで悪い意味でも有名だった。
スカウトされたからって、みんな着いて行くほど人望があったとは思えない。
その謎は叔母様の口から語られた。
「あいつ、フィリヌ侯爵家から資金を山ほど出してもらって職人を買収したのよ。職人だけじゃない、事務員もみーんなあっちに持って行かれちゃった」
「大変ねぇ」
「大変なんてものじゃないわよ。これじゃ店を開くどころの話じゃないもん」
叔母様は苛立った様子で溜め息をついて、もう一度ソファーに腰を下ろした。
一方、話を聞かされた私は寒くもないのに脚の震えが止まらず、今にも座り込んでしまいそうな状態だった。
とても嫌な予感がする。
間違っていて欲しいと祈りながら、叔母様に質問した。
「あの……引き抜きがあったのはいつ頃のお話ですか?」
私の問いかけに叔母様は暫し考えてから、
「そうね、二週間前からだったかな……」
その答えを聞いた私は耐え切れなくなり、その場に座り込んだ。
驚いた叔母様が「リザリア!?」と呼ばれるけれど、彼女の顔を直視できない。
トール様の浮気が発覚したのも約二週間前。
そのことと叔母様の件が関係しているとしたら。
だって、フィリヌ侯爵夫妻は私のせいで息子が浮気したと考えている。
その飛び火が叔母様にかかってしまった可能性は充分にあり得る。
きっと私のせいだ。
叔母様に大変な迷惑をかけてしまった。
「申し訳ありません、ミレーユ叔母様……!」
罪悪感に押し潰されそうになりながら謝罪すると、お母様が私の傍にしゃがんで優しく背中を撫でてくれた。
「大丈夫。あなたのせいじゃないわよ」
その優しい言葉が今の私には少し痛い。
一人くらい辞めたのならよくあることだけど、全員とは。
そんなに勤務内容が過酷なのかしらと疑問に思う。
応接間に向かうと、この世の闇を全て背負ったかのような表情の女性がソファーの上で膝を抱えていた。
顔は青白く、目は窪んで真っ黒な隈が目立つ。
身なりを整える気力もないようで、お母様と同じマロンブラウンの髪は乱れに乱れきっていた。
初めて見る叔母様の姿にぎょっとする私とは対照的に、お母様はあまり動じていなかった。
「思ったより可哀想な顔をしているわね。どうしたの?」
お母様に声をかけられると、ミレーユ叔母様はびくっと肩を震わせた。
ゆっくりとこちらを見て、くしゃりと顔を歪めてお母様に抱き着いた。
「お姉ちゃん助けて~~!!」
「私に助けられたらね」
「ちょ……ちょっと妹が泣いているんだから、もう少し温かい言葉をくれない!?」
お母様は無邪気だけれど、妙に冷めている部分があると、お兄様から聞いたことがある。
素っ気ない姉の言葉に叔母様は肩を落としつつ、私に視線を向けた。
「こちらのお嬢さんは……?」
「リザリアよ。ほら、フィリヌ家に嫁ぐためにうちの養子になった子」
「あ、あなたがリザリア……」
叔母様は大きく目を見開き、体を震わせた。
もしかしたら私のことを以前から知っているのだろうか。
次の言葉を待っていると、叔母様はソファーから立ち上がって私に駆け寄った。
一体何事? と身構える私の両手を掴み、鬼気迫る表情でこう尋ねる。
「あなたってフィリヌ魔導店で働いていたのよね?」
「え、ええ……」
「ハーライトって男知ってる?」
「確か……以前フィリヌ魔導店にいた職人ですね」
一番腕のいい職人で、独立を目指して半年前に店を去ってしまった人だ。
近々隣町で店をオープンするって噂で聞いたけれど……。
魔石を鷲掴みにして笑う豪快な男性だったと思い返していると、叔母様は酸っぱいものを食べたような顔をした。
「そのハーライトって奴が、うちの職人を全員引き抜いたのよ」
怨嗟に満ちた声音で告げられ、私は引っかかりを覚えた。
いくらハーライトさんが一流の職人と言えども、他の店から職人を一斉に持って行くことができるものなのか、と。
何故なら彼は、腕はいいのだけれど粗暴な性格のせいで悪い意味でも有名だった。
スカウトされたからって、みんな着いて行くほど人望があったとは思えない。
その謎は叔母様の口から語られた。
「あいつ、フィリヌ侯爵家から資金を山ほど出してもらって職人を買収したのよ。職人だけじゃない、事務員もみーんなあっちに持って行かれちゃった」
「大変ねぇ」
「大変なんてものじゃないわよ。これじゃ店を開くどころの話じゃないもん」
叔母様は苛立った様子で溜め息をついて、もう一度ソファーに腰を下ろした。
一方、話を聞かされた私は寒くもないのに脚の震えが止まらず、今にも座り込んでしまいそうな状態だった。
とても嫌な予感がする。
間違っていて欲しいと祈りながら、叔母様に質問した。
「あの……引き抜きがあったのはいつ頃のお話ですか?」
私の問いかけに叔母様は暫し考えてから、
「そうね、二週間前からだったかな……」
その答えを聞いた私は耐え切れなくなり、その場に座り込んだ。
驚いた叔母様が「リザリア!?」と呼ばれるけれど、彼女の顔を直視できない。
トール様の浮気が発覚したのも約二週間前。
そのことと叔母様の件が関係しているとしたら。
だって、フィリヌ侯爵夫妻は私のせいで息子が浮気したと考えている。
その飛び火が叔母様にかかってしまった可能性は充分にあり得る。
きっと私のせいだ。
叔母様に大変な迷惑をかけてしまった。
「申し訳ありません、ミレーユ叔母様……!」
罪悪感に押し潰されそうになりながら謝罪すると、お母様が私の傍にしゃがんで優しく背中を撫でてくれた。
「大丈夫。あなたのせいじゃないわよ」
その優しい言葉が今の私には少し痛い。
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