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30.ソール家②
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セレスタンが儀式に参加するために、二週間家を空ける。
毎年のことながら寂しさはあるけれど、思う存分アンリエッタを虐められるチャンスだと私はほくそ笑んだ。
そして元神官であり医者でもある夫も嫁いびりさせることを思いついた。
だから出発前のセレスタンにアンリエッタの触診を提案すれば、可愛くて素直な息子は快く了承してくれた。
これで何をされても、どんな目に遭わされてもアンリエッタはきっと文句を言えない……。
誤算はアンリエッタが屋敷から逃げ出したこと。
あんな時に、嵐の神の封印が解けそうになるなんて……。
アンリエッタの体には虐待の痕が今も残っているはず。
それが世間に知られたら、私たちの立場は非常に危ういものとなる。一刻も早く連れ戻しかった。
よりにもよって火の神の神官長に拾われたと知った時は、目の前が暗くなった。
けれど幸いなことにシャーラ神官長はアンリエッタを気に入っていた。あの娘を手元に置けるのなら、特に揉め事を起こすつもりはないらしい。
それを知った私と夫は引き下がろうとしていたのに、セレスタンが言うことを聞いてくれなかった。
何としてでも囚われの身であるアンリエッタを取り戻すと、鼻息を荒くする息子に頭を抱えた。
どうすればあの子を諦めさせよう。そう悩んでいると、一つの情報が入ってきた。
アンリエッタは、郊外にあるシャーラ神官長の別荘で楽しく過ごしているらしい。
そんな妻の姿を見たらセレスタンもショックを受けて、アンリエッタへの想いが薄れるかもしれないと閃いた。
早速そのことを夫に話すと、彼も「それは名案だ」と賛同してくれたのだけれど。
「どうせならそれを上手く利用しないか?」
「どういうこと?」
「カロリーヌにセレスタンを別荘まで案内させるんだ。あの娘がアンリエッタの居場所を突き止めたことにしてな」
カロリーヌ。
雨の神の神官で、密かにセレスタンに想いを寄せていると噂されていた娘。本人は隠しているようだったけれど。
アンリエッタに似て温厚な性格らしいので、セレスタンも彼女となら再婚を考えるかもしれない。息子が確実にカロリーヌを気に入るよう講じた策は、見事成功した。
二人は結婚して、可愛い孫も産まれた。
私が名づけた『ラウル』は、嵐の神の最初の神官とされる人の名前。
カロリーヌよりも育児経験のある私が面倒を見たほうが、ラウルちゃんがまともに育つはず。
それに成長したラウルちゃんが私を母親だと認識してくれれば……とさえ思っていた。
けれどセレスタンがラウルちゃんを捨てたせいで、そんな望みも消えたけれど。
ラウルちゃんが見つからなかった時のために、二人目を作るように提案した。なのにセレスタンはそれを拒否して、カロリーヌを屋敷から追い出してしまった。
しかもラウルちゃんの捜索まで打ち切らせて……。
だったら早くまた再婚を……と焦る私と夫を他所に、セレスタンは酒に逃げるようになった。
あんなにアンリエッタに執着していた息子だ。
すぐにシャーラ神官長の別荘へ乗り込もうとして──死にそうな顔で帰ってきた。
別荘は取り壊されて更地になっていた。
老朽化が原因らしい。なので火の神の神殿に向かえば、そこでアンリエッタは既に使用人を辞めて、この国を去ったと告げられた。
現在どうしているかまでは教えてもらえなかったらしい。
以来、セレスタンは酒以外に何の興味も示さなくなった。
私たちに対しても暴言を吐き、時には暴力を振るうこともある。酒を無理矢理没収しようとした夫は殴られて、鼻の骨を折った。
こんな澱んだ日々、いつまで続くのだろう。
絶望しながらセレスタンの部屋を出て、気晴らしに庭園でも散歩しようとしていた時だった。
メイドが慌てた様子で私に話しかけた。
「お、奥様、警察の方がいらっしゃいました」
「警察ですって?」
もしかしたらラウルちゃんが見つかった? 捜索は打ち切られたけれど、何かあればうちに報告が来るはず。
私はすぐさま玄関に向かった。するとそこには数人の警官。みんな険しい顔つきをしていて、嫌な予感がした。
「あの、今日はどのようなご用件でしょうか? もしかしたら私の孫が……」
「いいえ、あなたの息子さんのことで来ました」
「え?」
「嵐の神の神官セレスタン。彼に逮捕状が出ています」
警官はそう言って、私に令状を見せつけた。
毎年のことながら寂しさはあるけれど、思う存分アンリエッタを虐められるチャンスだと私はほくそ笑んだ。
そして元神官であり医者でもある夫も嫁いびりさせることを思いついた。
だから出発前のセレスタンにアンリエッタの触診を提案すれば、可愛くて素直な息子は快く了承してくれた。
これで何をされても、どんな目に遭わされてもアンリエッタはきっと文句を言えない……。
誤算はアンリエッタが屋敷から逃げ出したこと。
あんな時に、嵐の神の封印が解けそうになるなんて……。
アンリエッタの体には虐待の痕が今も残っているはず。
それが世間に知られたら、私たちの立場は非常に危ういものとなる。一刻も早く連れ戻しかった。
よりにもよって火の神の神官長に拾われたと知った時は、目の前が暗くなった。
けれど幸いなことにシャーラ神官長はアンリエッタを気に入っていた。あの娘を手元に置けるのなら、特に揉め事を起こすつもりはないらしい。
それを知った私と夫は引き下がろうとしていたのに、セレスタンが言うことを聞いてくれなかった。
何としてでも囚われの身であるアンリエッタを取り戻すと、鼻息を荒くする息子に頭を抱えた。
どうすればあの子を諦めさせよう。そう悩んでいると、一つの情報が入ってきた。
アンリエッタは、郊外にあるシャーラ神官長の別荘で楽しく過ごしているらしい。
そんな妻の姿を見たらセレスタンもショックを受けて、アンリエッタへの想いが薄れるかもしれないと閃いた。
早速そのことを夫に話すと、彼も「それは名案だ」と賛同してくれたのだけれど。
「どうせならそれを上手く利用しないか?」
「どういうこと?」
「カロリーヌにセレスタンを別荘まで案内させるんだ。あの娘がアンリエッタの居場所を突き止めたことにしてな」
カロリーヌ。
雨の神の神官で、密かにセレスタンに想いを寄せていると噂されていた娘。本人は隠しているようだったけれど。
アンリエッタに似て温厚な性格らしいので、セレスタンも彼女となら再婚を考えるかもしれない。息子が確実にカロリーヌを気に入るよう講じた策は、見事成功した。
二人は結婚して、可愛い孫も産まれた。
私が名づけた『ラウル』は、嵐の神の最初の神官とされる人の名前。
カロリーヌよりも育児経験のある私が面倒を見たほうが、ラウルちゃんがまともに育つはず。
それに成長したラウルちゃんが私を母親だと認識してくれれば……とさえ思っていた。
けれどセレスタンがラウルちゃんを捨てたせいで、そんな望みも消えたけれど。
ラウルちゃんが見つからなかった時のために、二人目を作るように提案した。なのにセレスタンはそれを拒否して、カロリーヌを屋敷から追い出してしまった。
しかもラウルちゃんの捜索まで打ち切らせて……。
だったら早くまた再婚を……と焦る私と夫を他所に、セレスタンは酒に逃げるようになった。
あんなにアンリエッタに執着していた息子だ。
すぐにシャーラ神官長の別荘へ乗り込もうとして──死にそうな顔で帰ってきた。
別荘は取り壊されて更地になっていた。
老朽化が原因らしい。なので火の神の神殿に向かえば、そこでアンリエッタは既に使用人を辞めて、この国を去ったと告げられた。
現在どうしているかまでは教えてもらえなかったらしい。
以来、セレスタンは酒以外に何の興味も示さなくなった。
私たちに対しても暴言を吐き、時には暴力を振るうこともある。酒を無理矢理没収しようとした夫は殴られて、鼻の骨を折った。
こんな澱んだ日々、いつまで続くのだろう。
絶望しながらセレスタンの部屋を出て、気晴らしに庭園でも散歩しようとしていた時だった。
メイドが慌てた様子で私に話しかけた。
「お、奥様、警察の方がいらっしゃいました」
「警察ですって?」
もしかしたらラウルちゃんが見つかった? 捜索は打ち切られたけれど、何かあればうちに報告が来るはず。
私はすぐさま玄関に向かった。するとそこには数人の警官。みんな険しい顔つきをしていて、嫌な予感がした。
「あの、今日はどのようなご用件でしょうか? もしかしたら私の孫が……」
「いいえ、あなたの息子さんのことで来ました」
「え?」
「嵐の神の神官セレスタン。彼に逮捕状が出ています」
警官はそう言って、私に令状を見せつけた。
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