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20.診察
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私はすぐに別荘から連れ出された。ラナン家お抱えの診察所に向かうらしい。
馬車にはシャーラ様も一緒に乗り込んでいた。
「火の神の元神官の医者がいるの。他国で何年も医学を学んだ名医よ。その人に診てもらいましょう」
「シャ、シャーラ様……私一人で大丈夫ですので……」
「真っ青な顔のあなたを放っておけると思う? 喋るとお腹に響くと思うから黙ってなさい」
私の体に何が起きているのだろう。こんな痛みは初めてで、痛くて苦しいという気持ちだけじゃなくて、恐怖も感じていた。子供を作りにくい体質かもしれないと、前に言われたことがあるけれど……。
何かに縋りつきたくて、無意識のうちにシャーラ様の手を強く握り締めてしまった。慌てて離そうとするけれど、笑顔のシャーラ様に握り返される。
「大丈夫だからね。何も怖くない。花の神と火の神があなたを守護してくれているわ」
二柱の神様が守護してくれるなら、シャーラ様の言う通り大丈夫かも。自分に何度もそう言い聞かせているうちに、診療所に到着した。シャーラ様と馬車の御者に支えられながら中に入ると、白衣を着た老齢の女性が迎えてくれた。この人がシャーラ様の仰っていた元神官の医者みたい。
「こんにちは、シャーラ神官長。……そちらのお嬢さんは?」
「私のメイドよ。急にお腹の下辺りが痛くなったそうなの。診てあげてちょうだい」
「ええ。今はちょうど他に患者もいませんので、すぐに診察できます。さあ、こちらへどうぞ」
穏やかな声に促されながら診察室に向かう。シャーラ様と御者はここまで。
先生は診察用の寝台でぐったりと横たわる私に聴診器を当てたり、下腹部に手を当てて何かを確かめているようだった。それから瞼の裏の色を確かめたり、注射で血を抜いていた。
そのあと、「これで少しは楽になるはずです」と何かの薬液を点滴される。すると先生の言っていた通り、天敵が終わる頃には痛みも大分楽になっていた。
ほお……と安堵の溜め息が漏れる。ぼんやりと外を眺めていると、シャーラ様が診察室に入って来た。
「アンリエッタ、まだ痛む?」
「いえ……先生のおかげで楽になりました」
私がそう答えると、シャーラ様は嬉しそうに笑った。けれどすぐに表情を曇らせて、先生へ視線を向けた。
「すぐに処置ができたってことは、痛みの原因を突き止められたのよね?」
「はい……アンリエッタ様のような症状に苦しむ患者を何人も見てきましたから」
先生は私を見下ろすと、心配そうに目を伏せた。
もしかしたら私は重い病気に罹っている……? 恐怖がぶり返していると、先生は私を安心させるように「心配しないでください。投薬治療でよくなりますからね」と言ってくれた。
さっき血を抜いたのは検査のため。その結果が分かるのは一週間後ということで、また来て欲しいと言われた。子宮に問題があったようだけれど、その原因を調べるためらしい。
それまでの間に服用する薬も渡された。代金は私の給金から引いて欲しいと言ったものの、シャーラ様に「このくらいうちで払うに決まってるでしょ」と断られてしまった。
先生にお礼を言ってから診療所を出る。来た時と違って、一人で歩けるようになっていた。
「さあ、早く帰りましょう。ミリルたちとっても心配していたから」
「は……」
はい、と返事をしようとした時だった。
「アンリエッタか……?」
聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。
まさかと思って振り向くと、視線の先にいたのはセレスタンだった。
そして彼の隣には見覚えのあるネックレスを着けた女性がいた。
馬車にはシャーラ様も一緒に乗り込んでいた。
「火の神の元神官の医者がいるの。他国で何年も医学を学んだ名医よ。その人に診てもらいましょう」
「シャ、シャーラ様……私一人で大丈夫ですので……」
「真っ青な顔のあなたを放っておけると思う? 喋るとお腹に響くと思うから黙ってなさい」
私の体に何が起きているのだろう。こんな痛みは初めてで、痛くて苦しいという気持ちだけじゃなくて、恐怖も感じていた。子供を作りにくい体質かもしれないと、前に言われたことがあるけれど……。
何かに縋りつきたくて、無意識のうちにシャーラ様の手を強く握り締めてしまった。慌てて離そうとするけれど、笑顔のシャーラ様に握り返される。
「大丈夫だからね。何も怖くない。花の神と火の神があなたを守護してくれているわ」
二柱の神様が守護してくれるなら、シャーラ様の言う通り大丈夫かも。自分に何度もそう言い聞かせているうちに、診療所に到着した。シャーラ様と馬車の御者に支えられながら中に入ると、白衣を着た老齢の女性が迎えてくれた。この人がシャーラ様の仰っていた元神官の医者みたい。
「こんにちは、シャーラ神官長。……そちらのお嬢さんは?」
「私のメイドよ。急にお腹の下辺りが痛くなったそうなの。診てあげてちょうだい」
「ええ。今はちょうど他に患者もいませんので、すぐに診察できます。さあ、こちらへどうぞ」
穏やかな声に促されながら診察室に向かう。シャーラ様と御者はここまで。
先生は診察用の寝台でぐったりと横たわる私に聴診器を当てたり、下腹部に手を当てて何かを確かめているようだった。それから瞼の裏の色を確かめたり、注射で血を抜いていた。
そのあと、「これで少しは楽になるはずです」と何かの薬液を点滴される。すると先生の言っていた通り、天敵が終わる頃には痛みも大分楽になっていた。
ほお……と安堵の溜め息が漏れる。ぼんやりと外を眺めていると、シャーラ様が診察室に入って来た。
「アンリエッタ、まだ痛む?」
「いえ……先生のおかげで楽になりました」
私がそう答えると、シャーラ様は嬉しそうに笑った。けれどすぐに表情を曇らせて、先生へ視線を向けた。
「すぐに処置ができたってことは、痛みの原因を突き止められたのよね?」
「はい……アンリエッタ様のような症状に苦しむ患者を何人も見てきましたから」
先生は私を見下ろすと、心配そうに目を伏せた。
もしかしたら私は重い病気に罹っている……? 恐怖がぶり返していると、先生は私を安心させるように「心配しないでください。投薬治療でよくなりますからね」と言ってくれた。
さっき血を抜いたのは検査のため。その結果が分かるのは一週間後ということで、また来て欲しいと言われた。子宮に問題があったようだけれど、その原因を調べるためらしい。
それまでの間に服用する薬も渡された。代金は私の給金から引いて欲しいと言ったものの、シャーラ様に「このくらいうちで払うに決まってるでしょ」と断られてしまった。
先生にお礼を言ってから診療所を出る。来た時と違って、一人で歩けるようになっていた。
「さあ、早く帰りましょう。ミリルたちとっても心配していたから」
「は……」
はい、と返事をしようとした時だった。
「アンリエッタか……?」
聞き覚えのある声が私の名前を呼んだ。
まさかと思って振り向くと、視線の先にいたのはセレスタンだった。
そして彼の隣には見覚えのあるネックレスを着けた女性がいた。
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