86 / 96
86.時計塔
しおりを挟む
リーゼのプリズンブレイクを警戒していたら、まさかのブランシェが逃亡。まさに急展開……!!
兵士の報告を聞いたテオドールが眉間に眉を顰める。
「どういうことだ。あらかじめキューギスト家には書状を送り、ブランシェを見張っておくように指示を出していたはずだ」
「それが……外側から鍵をかけて彼女の部屋に閉じ込めていたということなんですが、窓からこっそり抜け出したそうなんです。ブランシェ嬢の部屋は三階だったんですが、カーテンや衣服を繋げて作ったロープでするするっと下に下りて行ったみたいで……」
流石は悪役令嬢、知恵が回る。しかし今この状況で逃げ出して、彼女を匿ってくれる人間はいるのだろうか。
「何としてでも見つけ出せ。彼女には聞くことがあまりにも多い」
「はい!」
「……ということだ。俺たちがここにいる理由がなくなった」
落胆と苛立ちが綯い交ぜになった表情でテオドールが私たちに言う。
何かこう……がっかり感がすごい。ついに真相究明か……! と思っていたら、重要参考人に逃げられてしまうとは。刑事ドラマの尺伸ばしじゃないんだぞ。
レイスも溜め息をついて、
「仕方ありませんね。ここは一旦帰るとしましょう」
「あ、レイス様。院長へのお土産を……」
目的を果たせなかったとしても、院長が欲していたカカオリキュールは買って帰らなければ。
「はい。忘れていませんよ。それにどうせなら、修道女の皆様にもお土産を用意しませんか?」
ナイス、レイス。みんなにはお礼も兼ねて、美味しくて珍しいお菓子を買って行こう。
と思っていると、テオドールに「待て」と止められた。
「買い物に行くなら、護衛に兵士を数人連れて行け。お前たちはどちらもブランシェに命を狙われていたんだ。彼女が野放しになっている以上、警戒しておいたほうがいい」
「それもそうですね。僕だけではリグレット様を守り切れると限らないですし」
「……お前は自分自身の心配もしろ」
「分かっています。さあ行きましょう、リグレット様」
う~~ん。本当に分かっているのかね、この男は……。
院長が欲していたカカオリキュールに、行列のできるお菓子屋のクッキーやキャンディ。
気がつけば結構な荷物になっていたのだけれど、それらはレイスが全部持ってくれた。護衛兵が「私どもが持ちます」と申し出ても、荷物を渡そうとしなかった。
「リグレット様にいいところを見せたいのです。なので僕に持たせてください」
本人が横にいる前で、そんな目論みを語るな語るな。
しかし私とレイスが並んで歩いているだけで、人々の注目を集めているこの状況。ボディーガードを引き連れた海外のセレブカップルにでもなったような気分だ。
「リグレット様、この辺まで来たのですからあそこに上ってみませんか?」
そう言ってレイスが見上げたのは、前方に聳え立つ時計塔だった。
ゲーム本編でも登場する展望スポット。リーゼが好感度の高いキャラと上り、街を見渡しながらイチャついていたなぁ……。
螺旋階段を上り切ると絶景が広がっており、こんなに綺麗な街並みだったのかと少し驚いた。ここからだと聖鐘祭の時に行った城もよく見える。
思わず見とれてしまっていると、レイスが東の方角を指差した。
「あの辺りですね。ナヴィア修道院があるのは」
「わぁ~、結構大きな山で……」
何か……あの辺から黒煙が上がっているのだが?
兵士の報告を聞いたテオドールが眉間に眉を顰める。
「どういうことだ。あらかじめキューギスト家には書状を送り、ブランシェを見張っておくように指示を出していたはずだ」
「それが……外側から鍵をかけて彼女の部屋に閉じ込めていたということなんですが、窓からこっそり抜け出したそうなんです。ブランシェ嬢の部屋は三階だったんですが、カーテンや衣服を繋げて作ったロープでするするっと下に下りて行ったみたいで……」
流石は悪役令嬢、知恵が回る。しかし今この状況で逃げ出して、彼女を匿ってくれる人間はいるのだろうか。
「何としてでも見つけ出せ。彼女には聞くことがあまりにも多い」
「はい!」
「……ということだ。俺たちがここにいる理由がなくなった」
落胆と苛立ちが綯い交ぜになった表情でテオドールが私たちに言う。
何かこう……がっかり感がすごい。ついに真相究明か……! と思っていたら、重要参考人に逃げられてしまうとは。刑事ドラマの尺伸ばしじゃないんだぞ。
レイスも溜め息をついて、
「仕方ありませんね。ここは一旦帰るとしましょう」
「あ、レイス様。院長へのお土産を……」
目的を果たせなかったとしても、院長が欲していたカカオリキュールは買って帰らなければ。
「はい。忘れていませんよ。それにどうせなら、修道女の皆様にもお土産を用意しませんか?」
ナイス、レイス。みんなにはお礼も兼ねて、美味しくて珍しいお菓子を買って行こう。
と思っていると、テオドールに「待て」と止められた。
「買い物に行くなら、護衛に兵士を数人連れて行け。お前たちはどちらもブランシェに命を狙われていたんだ。彼女が野放しになっている以上、警戒しておいたほうがいい」
「それもそうですね。僕だけではリグレット様を守り切れると限らないですし」
「……お前は自分自身の心配もしろ」
「分かっています。さあ行きましょう、リグレット様」
う~~ん。本当に分かっているのかね、この男は……。
院長が欲していたカカオリキュールに、行列のできるお菓子屋のクッキーやキャンディ。
気がつけば結構な荷物になっていたのだけれど、それらはレイスが全部持ってくれた。護衛兵が「私どもが持ちます」と申し出ても、荷物を渡そうとしなかった。
「リグレット様にいいところを見せたいのです。なので僕に持たせてください」
本人が横にいる前で、そんな目論みを語るな語るな。
しかし私とレイスが並んで歩いているだけで、人々の注目を集めているこの状況。ボディーガードを引き連れた海外のセレブカップルにでもなったような気分だ。
「リグレット様、この辺まで来たのですからあそこに上ってみませんか?」
そう言ってレイスが見上げたのは、前方に聳え立つ時計塔だった。
ゲーム本編でも登場する展望スポット。リーゼが好感度の高いキャラと上り、街を見渡しながらイチャついていたなぁ……。
螺旋階段を上り切ると絶景が広がっており、こんなに綺麗な街並みだったのかと少し驚いた。ここからだと聖鐘祭の時に行った城もよく見える。
思わず見とれてしまっていると、レイスが東の方角を指差した。
「あの辺りですね。ナヴィア修道院があるのは」
「わぁ~、結構大きな山で……」
何か……あの辺から黒煙が上がっているのだが?
61
お気に入りに追加
5,500
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる