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83.撃退
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私が振り向くと、レイスは微笑んでいたが目が笑っていなかった。アントワネットといい、不機嫌な時ほど笑みを保とうとするタイプが一番怖い。
「こんなところでお会いするとは奇遇ですね、イレネー様。今さらリグレット様にどのようなご用件でしょう?」
「あ、いや……」
「残念でしたね、リグレット様を上手く味方につけることができなくて。聖女にしがみつけば、先の見えない現状を打開できるかもしれなかったというのに」
「ひ、人聞きの悪いことを言わないでもらいたい。俺はただ自らの罪を償うために……」
「知っていますよ。もしこの修道院の監督官になることが決まれば、すぐにその記事を書いてもらうよう新聞社に依頼していたことを」
なるほど、宣伝する準備も万端だったというわけか。それも無駄に終わりそうだけれど。
レイスに指摘されたイレネーの顔が羞恥心からか、どんどん赤くなっていく。個別ルートでリーゼに告白された時より真っ赤じゃないか……。
と、急に笑い出して、
「それの何が悪い。社交界から孤立した俺が生き残るための手段なんて限られているんだ。お前だって自分の評判のために、リグレットに引っついているだけじゃないか」
「そう見えますか?」
「それ以外に理由なんてあると思うか? ……だがお前も俺と同じで、こいつの本性を見抜けなかった愚か者だ」
そう言ってイレネーは私を思い切り指差した。
「こいつはリグレットであってリグレットじゃない。聖女と偽ってこのナヴィア修道院を牛耳ろうとしている魔物だ!」
「魔物でもいいじゃないですか」
あっさりと言葉を返したレイスに、私とイレネーがほぼ同時に「えっ」と声を上げていた。こんな場面で元婚約者とのコンビネーションを披露したくなかった。
呆然とする私たちを交互に見てから、レイスは再び口を開いた。
「仮にリグレット様の正体が魔物だったとして、何の問題があるのです。彼女と関わって不幸になった人間のほうが少ないくらいですよ。その内の一人であるあなたには、納得できない話かもしれませんが」
「リグレットに惚れて物事をまともに考えられなくなったのか!? 魔物を庇えば、お前だってこの国にいられなくなるかもしれな……」
「はい。その時はリグレット様と一緒に逃げようと思います」
ニッコリと微笑んで私の手を掴む。先ほどイレネーに握られた時より力が緩く、振りほどく気になれなかった。
イレネーはその様子を見ていたかと思うとわなわな震え出して、
「こ、国王に言いつけてやる! リグレットが聖女の皮を被った魔物で、お前や修道女たちもその手先だということをな!」
威勢のいいことを言ってイレネーが面会室を飛び出す。イレネーと会うのは、これが最後のような予感がする。まあ何だ、頑張れ。
ようやく過ぎ去った嵐のあと、気恥ずかしさを感じつつレイスの顔を見ると穏やかに微笑まれた。で、すぐに真面目な表情に切り替わった。
「リグレット様と個人的にお話したいことは色々とありますけれど、それよりも先にお伝えしたいことがあります」
「はい……?」
「先日、エレナック村で魔物の封印を解き、あなたを殺そうとしたリーゼという少女についてです」
「何かあったんですか?」
まさかプリズンブレイクしたんじゃないだろうな。あの闘牛のことだから有り得るぞ……。
「ブランシェ嬢が彼女に手紙を何通も送っていたことが分かりました」
!?
「こんなところでお会いするとは奇遇ですね、イレネー様。今さらリグレット様にどのようなご用件でしょう?」
「あ、いや……」
「残念でしたね、リグレット様を上手く味方につけることができなくて。聖女にしがみつけば、先の見えない現状を打開できるかもしれなかったというのに」
「ひ、人聞きの悪いことを言わないでもらいたい。俺はただ自らの罪を償うために……」
「知っていますよ。もしこの修道院の監督官になることが決まれば、すぐにその記事を書いてもらうよう新聞社に依頼していたことを」
なるほど、宣伝する準備も万端だったというわけか。それも無駄に終わりそうだけれど。
レイスに指摘されたイレネーの顔が羞恥心からか、どんどん赤くなっていく。個別ルートでリーゼに告白された時より真っ赤じゃないか……。
と、急に笑い出して、
「それの何が悪い。社交界から孤立した俺が生き残るための手段なんて限られているんだ。お前だって自分の評判のために、リグレットに引っついているだけじゃないか」
「そう見えますか?」
「それ以外に理由なんてあると思うか? ……だがお前も俺と同じで、こいつの本性を見抜けなかった愚か者だ」
そう言ってイレネーは私を思い切り指差した。
「こいつはリグレットであってリグレットじゃない。聖女と偽ってこのナヴィア修道院を牛耳ろうとしている魔物だ!」
「魔物でもいいじゃないですか」
あっさりと言葉を返したレイスに、私とイレネーがほぼ同時に「えっ」と声を上げていた。こんな場面で元婚約者とのコンビネーションを披露したくなかった。
呆然とする私たちを交互に見てから、レイスは再び口を開いた。
「仮にリグレット様の正体が魔物だったとして、何の問題があるのです。彼女と関わって不幸になった人間のほうが少ないくらいですよ。その内の一人であるあなたには、納得できない話かもしれませんが」
「リグレットに惚れて物事をまともに考えられなくなったのか!? 魔物を庇えば、お前だってこの国にいられなくなるかもしれな……」
「はい。その時はリグレット様と一緒に逃げようと思います」
ニッコリと微笑んで私の手を掴む。先ほどイレネーに握られた時より力が緩く、振りほどく気になれなかった。
イレネーはその様子を見ていたかと思うとわなわな震え出して、
「こ、国王に言いつけてやる! リグレットが聖女の皮を被った魔物で、お前や修道女たちもその手先だということをな!」
威勢のいいことを言ってイレネーが面会室を飛び出す。イレネーと会うのは、これが最後のような予感がする。まあ何だ、頑張れ。
ようやく過ぎ去った嵐のあと、気恥ずかしさを感じつつレイスの顔を見ると穏やかに微笑まれた。で、すぐに真面目な表情に切り替わった。
「リグレット様と個人的にお話したいことは色々とありますけれど、それよりも先にお伝えしたいことがあります」
「はい……?」
「先日、エレナック村で魔物の封印を解き、あなたを殺そうとしたリーゼという少女についてです」
「何かあったんですか?」
まさかプリズンブレイクしたんじゃないだろうな。あの闘牛のことだから有り得るぞ……。
「ブランシェ嬢が彼女に手紙を何通も送っていたことが分かりました」
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