68 / 96
68.青玉の馬
しおりを挟む
あまりのショックで再起不能になりかけていた村長は顔を上げると、ジンを見て目を大きく見開いた。
「お前……まさかジン坊か? おお、随分と大きくなって……」
「いいから青玉の馬はどこにある!?」
「うががががが」
ジンに揺さぶられて村長の口からブルドーザーみたいな声が出ている。ご老体の寿命が縮まってしまう。
見兼ねた村人が二人を引き剥がしたけれど、ジンはなおも村長に飛びかかろうとする。
「翼がないのに空を駆けることのできる青玉の馬……それがあれば、あの魔物の間合いに入れるし彼女を取り返せるかもしれない!」
「だがな、ジン坊。あれは古の魔導具だ。今まで誰も使いこなすことが出来なかった……」
「でも何もしないよりはマシだろうが!」
ジンの言う通りだ。少しでも可能性があるなら、それに賭けてみるしかないだろう。
村人たちからも「村長……」と求めるような声が上がる。それで村長も腹を括ったのか、深く溜め息をつく。
「そうだな……今はそれしかない。青玉の馬をここへ運んでくる。何人かついて来てくれるか?」
村長の呼びかけに数人の村人がついていく。
それを見たジュリアンはジンや護衛兵たちへ「みんな!」と声をかけた。
「僕たちの役目は、青玉の馬が来るまでの時間稼ぎだ。魔物の攻撃から民家や人々を守ろう」
「殿下、あんたは逃げていろ。ここは俺たちだけでいい」
「いいや、ジン。あの魔物にとって、遠距離への攻撃ができる僕は邪魔な存在だ。だから魔物は僕を優先的に狙うだろう。そうすれば周囲への攻撃も多少減るはずだよ」
「それはそうかもしれないが……」
「ジン、僕を守るということは、民たちを守ることにも繋がる。……よろしく頼む」
ジュリアン王太子、覚醒。これにはジンも頷くしかなかった。
ここまでまっすぐな性格だったろうか。アントワネット、いやアリスとの再会が彼を変えたのかもしれない。リーゼ? どっか行った。
「行くぞ、ジュリアン王太子と共にエレナック村を守るぞー!!」
「「「おお!!」」」
護衛兵もやる気に溢れている。何か熱い展開になってきた……。
バザーに参加していた修道女たちも避難の誘導や、怪我人の手当てを手伝っている。その中には当然ナヴィア修道院のみんなも。
私もそれに加わっていると、村長たちが戻って来た。
「待たせたな皆の者、これが村の地下に保管されていた青玉の馬だ!」
台車に載せられた『それ』が広場に運ばれてくる。
が、『それ』を見た皆の表情は困惑に変わった。
「な、何だそれは。本当に『馬』なのか……?」
「こんなものどうやって使えと!?」
「確かに翼はない。だが、これは動物の脚というより車輪にようではないか?」
青玉の馬のご登場にざわつく広場。
持って来いと言っていたジンも、背後に宇宙が浮かんでいるような真顔をしている。
無理もなかった。何せどこからどう見ても馬の形をしていない。
青く塗装された鉄のボディ。
どんなに険しい荒野でも駆け抜けることが出来るであろう黒いタイヤ。
握りがいのありそうな太いハンドル。
まるでバイクのような……いや、バイク。どこからどう見てもバイクだった。
突然登場したモダンな乗り物に世界観がこわれる! 筑前煮に突然ホワイトソースをぶっ込まれたようなこの気持ち。
しかもどうでもいいことだけれど、よほど保管状態が良かったのかピッカピカ。新品かよ。
「……どうやったら動くんだ?」
ぼそっとジンが一言。言い出しっぺはお前だろ! 村長以外こんなの来ると思わなかったから、仕方ないとは思うけれど。
「鉄で出来ているようだけど……魔力を注入して動かすのかな」
「それらしき場所はない。ん? この部分に何かを差し込むのか……?」
ジュリアンとジンの会話を聞きながら、私はバイクのある部分を凝視していた。
タンクのところに『Regret0502』と品名らしきものがゴシック体で書いてある。どう見てもリグレットって読めるし、0502ってリグレットの誕生日なのだが。
え? リグレットって実はバイクの妖精だったの? と混乱しつつ、先程ベルと間違えて作ってしまった鍵を見る。
キーヘッドの部分に小さな字で『Regret0502』と刻まれていた。
疾風が私を呼んでいる……?
「お前……まさかジン坊か? おお、随分と大きくなって……」
「いいから青玉の馬はどこにある!?」
「うががががが」
ジンに揺さぶられて村長の口からブルドーザーみたいな声が出ている。ご老体の寿命が縮まってしまう。
見兼ねた村人が二人を引き剥がしたけれど、ジンはなおも村長に飛びかかろうとする。
「翼がないのに空を駆けることのできる青玉の馬……それがあれば、あの魔物の間合いに入れるし彼女を取り返せるかもしれない!」
「だがな、ジン坊。あれは古の魔導具だ。今まで誰も使いこなすことが出来なかった……」
「でも何もしないよりはマシだろうが!」
ジンの言う通りだ。少しでも可能性があるなら、それに賭けてみるしかないだろう。
村人たちからも「村長……」と求めるような声が上がる。それで村長も腹を括ったのか、深く溜め息をつく。
「そうだな……今はそれしかない。青玉の馬をここへ運んでくる。何人かついて来てくれるか?」
村長の呼びかけに数人の村人がついていく。
それを見たジュリアンはジンや護衛兵たちへ「みんな!」と声をかけた。
「僕たちの役目は、青玉の馬が来るまでの時間稼ぎだ。魔物の攻撃から民家や人々を守ろう」
「殿下、あんたは逃げていろ。ここは俺たちだけでいい」
「いいや、ジン。あの魔物にとって、遠距離への攻撃ができる僕は邪魔な存在だ。だから魔物は僕を優先的に狙うだろう。そうすれば周囲への攻撃も多少減るはずだよ」
「それはそうかもしれないが……」
「ジン、僕を守るということは、民たちを守ることにも繋がる。……よろしく頼む」
ジュリアン王太子、覚醒。これにはジンも頷くしかなかった。
ここまでまっすぐな性格だったろうか。アントワネット、いやアリスとの再会が彼を変えたのかもしれない。リーゼ? どっか行った。
「行くぞ、ジュリアン王太子と共にエレナック村を守るぞー!!」
「「「おお!!」」」
護衛兵もやる気に溢れている。何か熱い展開になってきた……。
バザーに参加していた修道女たちも避難の誘導や、怪我人の手当てを手伝っている。その中には当然ナヴィア修道院のみんなも。
私もそれに加わっていると、村長たちが戻って来た。
「待たせたな皆の者、これが村の地下に保管されていた青玉の馬だ!」
台車に載せられた『それ』が広場に運ばれてくる。
が、『それ』を見た皆の表情は困惑に変わった。
「な、何だそれは。本当に『馬』なのか……?」
「こんなものどうやって使えと!?」
「確かに翼はない。だが、これは動物の脚というより車輪にようではないか?」
青玉の馬のご登場にざわつく広場。
持って来いと言っていたジンも、背後に宇宙が浮かんでいるような真顔をしている。
無理もなかった。何せどこからどう見ても馬の形をしていない。
青く塗装された鉄のボディ。
どんなに険しい荒野でも駆け抜けることが出来るであろう黒いタイヤ。
握りがいのありそうな太いハンドル。
まるでバイクのような……いや、バイク。どこからどう見てもバイクだった。
突然登場したモダンな乗り物に世界観がこわれる! 筑前煮に突然ホワイトソースをぶっ込まれたようなこの気持ち。
しかもどうでもいいことだけれど、よほど保管状態が良かったのかピッカピカ。新品かよ。
「……どうやったら動くんだ?」
ぼそっとジンが一言。言い出しっぺはお前だろ! 村長以外こんなの来ると思わなかったから、仕方ないとは思うけれど。
「鉄で出来ているようだけど……魔力を注入して動かすのかな」
「それらしき場所はない。ん? この部分に何かを差し込むのか……?」
ジュリアンとジンの会話を聞きながら、私はバイクのある部分を凝視していた。
タンクのところに『Regret0502』と品名らしきものがゴシック体で書いてある。どう見てもリグレットって読めるし、0502ってリグレットの誕生日なのだが。
え? リグレットって実はバイクの妖精だったの? と混乱しつつ、先程ベルと間違えて作ってしまった鍵を見る。
キーヘッドの部分に小さな字で『Regret0502』と刻まれていた。
疾風が私を呼んでいる……?
75
お気に入りに追加
5,500
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
あなたには彼女がお似合いです
風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。
妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。
でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。
ずっとあなたが好きでした。
あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。
でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。
公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう?
あなたのために婚約を破棄します。
だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。
たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに――
※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる