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58.お手伝いさん

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 初めて作ったレーズンは爆速で消えた。修道院ではお菓子なんて滅多に食べられないので、皆我先にと手を伸ばしたのだ。

「お、美味しい~! すっごく甘いんだけど、これ砂糖も蜜も入っていないんですか?」
「ねっとりもっちりしていて、噛めば噛むほど味が出ますね。瑞々しさはありませんが、その分甘みが強くなってる!」
「薄い色の方はサラダの具に合いそうだわ。ああ、これでワインを飲んだら美味しいんだろうな……」

 評判もまずまず。アントワネットには他の修道女より多めにレーズンが配られて、それを噛み締めるように食べている。

「甘くて美味しいですね……私の魔法がこんな風に役立つ時が来るなんて思いませんでした」
「ありがとうございます、アントワネット様。あなたのおかげで手早くレーズンを作ることができました」
「え、は、はい……」

 感謝の気持ちをたくさん込めてお礼を言うと、アントワネットは恥ずかしそうに頬を染めた。
 天日干しで作るといっても、湿気だとか雨だとか色々とリスクがあるので成功するかは分からなかったのだ。その問題をアントワネットが全部吹っ飛ばしてくれた。
 レーズンだけではない。林檎とか野菜でもドライ食品が作れるのではと考えていると、

「あら~、これ本当に葡萄だけの甘みなの? 美味しすぎて感動しちゃうわねぇ」

 院長がレーズンを食べていた。いつから祈りの場にいたのだろう。ぬらりひょん(ナヴィア修道院のすがた)か。
 すると院長からこんな提案をされた。

「ねぇ、これをたくさん作ってバザーに出品するのはどうかしら? 珍しい食べ物で興味を持ってくれるだろうし、一口食べたら皆虜になると思うわ」

 確かにまだドライフルーツが誕生していない現状で、レーズンをナヴィア修道院の名物として出せるのは結構な強みかも。さっき誰かが言っていたけれど、マスカットタイプの方はワインのつまみにうってつけだし。巨峰タイプは焼き菓子の具にも使える。
 元は貴族令嬢だった修道女の舌を唸らせるのだ。ちょっと哀れな見た目なのを気にしないでもらえれば売れそうだ。

 ただまあ、どんなことにも必ず問題があるものでして、

「アントワネット一人でバザーに出す分を全て作ってもらうのは、大変だと思います」
「リグレット様、私のことは大丈夫ですので……」
「だーめーでーす! 魔法って使いすぎると、疲労が溜まると聞いたことがありますし」

 アントワネットだけにそんな重荷を背負わせるわけにはいかない。
 せめて、もう一人くらい魔法が使える人がいればいいのだけれど。私がそう考えていると、院長が何かを思いついたのか、明るい笑みを浮かべた。

「そうねぇ。だったらお手伝いさんを連れて来ましょう!」
「お、お手伝いさん……?」
「ええ。火属性と風属性の魔法を使える人が欲しいのよね? 一人心当たりがいるわ」

 それは心強い。
 もしかしたら院長が元々いた修道院から応援を連れて来るのかなぁと思いつつ、私は空になった皿を片づけていた。


 その一週間後。
 院長の言っていた『お手伝いさん』がナヴィア修道院に来訪した。

「シスターリグレットには大きな借りがあるからな。俺にできることはいくらでも協力しよう」

 すっごいやる気満々なテオドール。

「僕は兄上の送り迎え担当です」

 すっごい楽しそうなレイス。

 院長、どうしてこんな大物に協力を要請しちゃったのだ。そして何で二人ともノリノリで引き受けちゃったのだ。


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