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34.元家族
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「リグレット嬢、この方々は?」
レイスがどこかわざとらしく私に尋ねた。
「……私の家族です」
「何言ってんのよ、あんたみたいな不細工、私たちの家族じゃないわ!」
「そうよ。それと修道院にいるはずのあんたが、どうしてレイス様と一緒にいるのか説明しなさい!」
目を吊り上げ、私を問い質す姉二人の気持ちはよく理解できる。
今まで見下していた妹が公爵家の人間と行動しているのだ。平静ではいられないのだろう。
苦い表情をしている両親と一緒にいたところを見るに、恐らくはまだ婚約者もいない状態だ。
両親は娘たちの美貌なら「侯爵クラス以上の貴族と結婚できる!」と鼻息を荒くし、本人たちもそれを信じていたが現実はそう甘くはない。
たかが美人なだけで、上級貴族が男爵家に振り向いてくれると思ったら大違いだ。それに多くの貴族がいる場で実の妹に詰問するような女なんて、誰が嫁にしたいと思うか。
「それはリグレット嬢が僕の大切な友人だからですよ」
私を庇うようにレイスがそう答えると、家族たちはあからさまに安堵の表情を見せた。
婚約者、と言われるとでも思っていたのだろうか。現在の私は修道女なのだが。
そして、父親がとんでもないことを言い出した。
「では今度、グライン邸を訪れてもよろしいでしょうか?」
「訪れても……? どなたがですか?」
「勿論、私たちの娘たちです。どちらもこのように大変見目がよく、以前からレイス様とじっくりお話してみたいと言っていたのです」
この親父、リグレットと婚約しているわけじゃないと知るや否や……。
姉たちも私を押しのけて、レイスの両隣に立った。力が強かったせいで私は床に尻餅をついたわけだが、当然無視。
「私、レイス様とこうしてお近づきになれるなんて夢みたいです!」
「これからよろしくお願いしますね、レイス様!」
意識して作った甘ったるい声で誘惑しようとしている姿を見て、思わず苦笑い。
絶好のチャンスとばかりに頑張っているなぁと感心していると、
「ああ、失礼しました。リグレット嬢のことについて訂正を」
姉たちの間からするりと抜け出して、レイスが起き上がろうとする私に手を差し伸べる。
「彼女は今はまだ僕の大切な友人です。……この意味、分かりますよね?」
私をまっすぐ見詰めながらの言葉に、家族全員が息を詰まらせたのが分かった。
「へ、へぇ~、確かにリグレットって性格悪いですもんねぇ。ずっとお友達を続けるのは疲れるでしょう?」
「おい、よせ……!」
姉の一人が諦めきれず、そんなことを言って父親に制止の言葉をかけられた。
が、時既に遅し。レイスは口元を吊り上げながら、青ざめている家族を見回した。
「こんな簡単なことも分からないようなら、親しくするのは難しいですね。ご自分と同じレベルの男性を探していただけますか?」
「は、はい……」
姉その1脱落。
「それに妹を突き飛ばしておいて謝りもしない人とは関わりたくありません」
「う……っ」
姉その2も脱落。
しかしレイスはまだ気が済まないのか、父親にも矛先を向けた。
「そもそも、何故リグレット嬢と仲良くしているというだけで、あなたのお嬢様方がうちの屋敷を訪れていいと思われたのでしょう?」
「リ、リグレットは家族の一員です。つまり、私たちとグライン公爵家が親密な仲になったも同然で……」
「おや、先程お嬢様方のどちらかが仰ったと思いますが。『私たちの家族じゃない』と」
「あれはリグレットへの嫉妬で、つい頭に血が上ってしまっただけです!」
「でしたら、その時に娘を諌めようとしなかったのはどうしてでしょうね?」
何を言っても無駄と悟ったのか、父親もついには黙り込んでしまった。
すると、これまで沈黙していた母親がレイスを憎らしげに睨みつけた。
「あ……あなた、公爵の息子だからって調子に乗るんじゃ──」
だが、母親は気づいたらしい。自分たちが注目の的になっていることを。
ある者は冷ややかな表情で、またある者は見世物を楽しむような笑みを浮かべて視線を向けていた。ひそひそと内緒話をしているグループもある。
こんな大勢がいる前で、公爵家の人間に失礼な態度を取ったのだ。当然の反応だろう。
魚のように口をパクパク開閉を繰り返す母親に、笑みを深くしたレイスが言い放つ。
「僕も父上も、リグレット嬢のことは気に入っているんです。もしまた彼女にちょっかいをかけるのなら……」
「も、申し訳ありませんでした。二度とこのようなことはいたしませんので……!」
レイスが言い終わらないうちに、父親が固まっている姉たちの手を引いてホールから逃げ去っていく。母親もそれに続く。
姉たちは余程怖かったのか、目に涙を浮かべていた。
レイスがどこかわざとらしく私に尋ねた。
「……私の家族です」
「何言ってんのよ、あんたみたいな不細工、私たちの家族じゃないわ!」
「そうよ。それと修道院にいるはずのあんたが、どうしてレイス様と一緒にいるのか説明しなさい!」
目を吊り上げ、私を問い質す姉二人の気持ちはよく理解できる。
今まで見下していた妹が公爵家の人間と行動しているのだ。平静ではいられないのだろう。
苦い表情をしている両親と一緒にいたところを見るに、恐らくはまだ婚約者もいない状態だ。
両親は娘たちの美貌なら「侯爵クラス以上の貴族と結婚できる!」と鼻息を荒くし、本人たちもそれを信じていたが現実はそう甘くはない。
たかが美人なだけで、上級貴族が男爵家に振り向いてくれると思ったら大違いだ。それに多くの貴族がいる場で実の妹に詰問するような女なんて、誰が嫁にしたいと思うか。
「それはリグレット嬢が僕の大切な友人だからですよ」
私を庇うようにレイスがそう答えると、家族たちはあからさまに安堵の表情を見せた。
婚約者、と言われるとでも思っていたのだろうか。現在の私は修道女なのだが。
そして、父親がとんでもないことを言い出した。
「では今度、グライン邸を訪れてもよろしいでしょうか?」
「訪れても……? どなたがですか?」
「勿論、私たちの娘たちです。どちらもこのように大変見目がよく、以前からレイス様とじっくりお話してみたいと言っていたのです」
この親父、リグレットと婚約しているわけじゃないと知るや否や……。
姉たちも私を押しのけて、レイスの両隣に立った。力が強かったせいで私は床に尻餅をついたわけだが、当然無視。
「私、レイス様とこうしてお近づきになれるなんて夢みたいです!」
「これからよろしくお願いしますね、レイス様!」
意識して作った甘ったるい声で誘惑しようとしている姿を見て、思わず苦笑い。
絶好のチャンスとばかりに頑張っているなぁと感心していると、
「ああ、失礼しました。リグレット嬢のことについて訂正を」
姉たちの間からするりと抜け出して、レイスが起き上がろうとする私に手を差し伸べる。
「彼女は今はまだ僕の大切な友人です。……この意味、分かりますよね?」
私をまっすぐ見詰めながらの言葉に、家族全員が息を詰まらせたのが分かった。
「へ、へぇ~、確かにリグレットって性格悪いですもんねぇ。ずっとお友達を続けるのは疲れるでしょう?」
「おい、よせ……!」
姉の一人が諦めきれず、そんなことを言って父親に制止の言葉をかけられた。
が、時既に遅し。レイスは口元を吊り上げながら、青ざめている家族を見回した。
「こんな簡単なことも分からないようなら、親しくするのは難しいですね。ご自分と同じレベルの男性を探していただけますか?」
「は、はい……」
姉その1脱落。
「それに妹を突き飛ばしておいて謝りもしない人とは関わりたくありません」
「う……っ」
姉その2も脱落。
しかしレイスはまだ気が済まないのか、父親にも矛先を向けた。
「そもそも、何故リグレット嬢と仲良くしているというだけで、あなたのお嬢様方がうちの屋敷を訪れていいと思われたのでしょう?」
「リ、リグレットは家族の一員です。つまり、私たちとグライン公爵家が親密な仲になったも同然で……」
「おや、先程お嬢様方のどちらかが仰ったと思いますが。『私たちの家族じゃない』と」
「あれはリグレットへの嫉妬で、つい頭に血が上ってしまっただけです!」
「でしたら、その時に娘を諌めようとしなかったのはどうしてでしょうね?」
何を言っても無駄と悟ったのか、父親もついには黙り込んでしまった。
すると、これまで沈黙していた母親がレイスを憎らしげに睨みつけた。
「あ……あなた、公爵の息子だからって調子に乗るんじゃ──」
だが、母親は気づいたらしい。自分たちが注目の的になっていることを。
ある者は冷ややかな表情で、またある者は見世物を楽しむような笑みを浮かべて視線を向けていた。ひそひそと内緒話をしているグループもある。
こんな大勢がいる前で、公爵家の人間に失礼な態度を取ったのだ。当然の反応だろう。
魚のように口をパクパク開閉を繰り返す母親に、笑みを深くしたレイスが言い放つ。
「僕も父上も、リグレット嬢のことは気に入っているんです。もしまた彼女にちょっかいをかけるのなら……」
「も、申し訳ありませんでした。二度とこのようなことはいたしませんので……!」
レイスが言い終わらないうちに、父親が固まっている姉たちの手を引いてホールから逃げ去っていく。母親もそれに続く。
姉たちは余程怖かったのか、目に涙を浮かべていた。
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