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24.メロディにとって(後)
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「大丈夫ですか、メロディ!」
「うわぁぁぁん、どこに行っていたのですかメロディ~!」
隠し部屋を見つけて、そこにいた修道女たちに薬を飲まされたところまでは覚えている。
どうやら眠り薬の類いだったらしい。目覚めると最初に視界に映り込んだのは、アントワネットとクラリスの泣き顔だった。
しかも自分の部屋にいた。
「……私はどうしてここに?」
「アデーレ院長たちに監禁されていたと聞きました。お怪我はありませんか?」
「いえ……」
「よかったです……! ずっと姿が見えないから心配していたんですよ!?」
一度は見捨てようとした二人にここまで心配させてしまった。
罪悪感と歓喜で息を詰まらせるメロディだったが、アントワネットの言葉に目を見開く。
「私がここにいるということは、アデーレ院長は……」
「あの方は、私にとって院長と呼べる方ではなかったようでした。先輩方も……」
「……そうですか」
どうやら噂は真実だったようだ。現在は公爵や兵士たちが駆けつけ、大きな騒ぎとなっているらしい。
これで閉院は避けられるだろうか。そう思いながらベッドから起き上がろうとすると、
「リグレット様には後でたくさんお礼言わないといけませんね! メロディ様が助かったのもあの人のおかげなのですから」
「どういうことですか、クラリス」
「祈りの間にあった避難室? に閉じ込められていたメロディ様を助けたのは、レイス子息とリグレット様だったんです」
「……! リグレット様は今どちらに?」
「えーと一人にさせて欲しいとおっしゃって、今は祈りの間に……」
居ても立っても居られない。
メロディはまだふらつく体に鞭を打って部屋を飛び出した。
向かう先は勿論、祈りの間。
するとクラリスの言う通り、そこにはリグレットの姿がいた。
朝焼けの光がたった一つしかない窓から入り込み、うすぼんやりと彼女を照らす。
彼女は何かをぶつぶつと呟いていた。
「ギューロース……ネギシオタン……ジョーミノ……」
聞いたことのない単語ばかりだ。
けれど、何故かどれも美しい響きをしているように思えるのは、彼女の声音によるものか。
「……リグレット様」
「えっ、あっ、メロディ様。もう起きていて大丈夫ですか?」
「ええ。こうして元気に動けるくらいです」
「だったらよかった」
不思議な単語を呟き続けるリグレットの横顔はひどく儚げだったのに、メロディに気づくとまるで太陽のように明るく微笑む。その二面性に困惑しつつ、メロディも笑みを零す。
「リグレット様。アデーレ院長に捕まってしまった私を助けてくださり、ありがとうございました」
「礼ならレイス子息に言ってください。あの方のおかげで、そこに入ることができたのですから」
「……?」
リグレットが指差したのは隠し部屋の入口……なのだが、地下へ続く階段を隠す壁が消失していた。リグレットたちはどのように壁を取り払ったのだろう。
確かレイスも魔法を使えると聞いていたが──、
「ああ、それとメロディ様。こちらお返ししますね」
リグレットに託していたペンダントを差し出される。もう戻ることのできない家の紋章が刻まされたそれを受け取ると、彼女の体温でほんのりと温かくなっていた。
「……ずっとあなたが持っていてもよかったのですけれど。この石は質のいいルビーですので、いつかここから出た時に売れば結構な値になりますよ」
「いえいえ、これはメロディ様が持っていてください! 大事なものだからこそ、私に預けたのでしょう?」
「……そうですね」
修道院に入る直前、たった一人だけメロディとの別れを惜しんだ祖母がこっそり持たせてくれたもの。
当時は貴族の証であるこれを手放してしまいたくて、けれどいつか売り飛ばすためだけに持ち続けていた。
けれどアントワネットたちと出会い、貴族への嫌悪も薄れて、ようやく祖母の思いも素直に受け入れられた。
だから万が一という時、アデーレ院長に奪われるのを恐れて、守るために手放した。
そして今はメロディの掌で、黎明の光を浴びて輝いている。
「うわぁぁぁん、どこに行っていたのですかメロディ~!」
隠し部屋を見つけて、そこにいた修道女たちに薬を飲まされたところまでは覚えている。
どうやら眠り薬の類いだったらしい。目覚めると最初に視界に映り込んだのは、アントワネットとクラリスの泣き顔だった。
しかも自分の部屋にいた。
「……私はどうしてここに?」
「アデーレ院長たちに監禁されていたと聞きました。お怪我はありませんか?」
「いえ……」
「よかったです……! ずっと姿が見えないから心配していたんですよ!?」
一度は見捨てようとした二人にここまで心配させてしまった。
罪悪感と歓喜で息を詰まらせるメロディだったが、アントワネットの言葉に目を見開く。
「私がここにいるということは、アデーレ院長は……」
「あの方は、私にとって院長と呼べる方ではなかったようでした。先輩方も……」
「……そうですか」
どうやら噂は真実だったようだ。現在は公爵や兵士たちが駆けつけ、大きな騒ぎとなっているらしい。
これで閉院は避けられるだろうか。そう思いながらベッドから起き上がろうとすると、
「リグレット様には後でたくさんお礼言わないといけませんね! メロディ様が助かったのもあの人のおかげなのですから」
「どういうことですか、クラリス」
「祈りの間にあった避難室? に閉じ込められていたメロディ様を助けたのは、レイス子息とリグレット様だったんです」
「……! リグレット様は今どちらに?」
「えーと一人にさせて欲しいとおっしゃって、今は祈りの間に……」
居ても立っても居られない。
メロディはまだふらつく体に鞭を打って部屋を飛び出した。
向かう先は勿論、祈りの間。
するとクラリスの言う通り、そこにはリグレットの姿がいた。
朝焼けの光がたった一つしかない窓から入り込み、うすぼんやりと彼女を照らす。
彼女は何かをぶつぶつと呟いていた。
「ギューロース……ネギシオタン……ジョーミノ……」
聞いたことのない単語ばかりだ。
けれど、何故かどれも美しい響きをしているように思えるのは、彼女の声音によるものか。
「……リグレット様」
「えっ、あっ、メロディ様。もう起きていて大丈夫ですか?」
「ええ。こうして元気に動けるくらいです」
「だったらよかった」
不思議な単語を呟き続けるリグレットの横顔はひどく儚げだったのに、メロディに気づくとまるで太陽のように明るく微笑む。その二面性に困惑しつつ、メロディも笑みを零す。
「リグレット様。アデーレ院長に捕まってしまった私を助けてくださり、ありがとうございました」
「礼ならレイス子息に言ってください。あの方のおかげで、そこに入ることができたのですから」
「……?」
リグレットが指差したのは隠し部屋の入口……なのだが、地下へ続く階段を隠す壁が消失していた。リグレットたちはどのように壁を取り払ったのだろう。
確かレイスも魔法を使えると聞いていたが──、
「ああ、それとメロディ様。こちらお返ししますね」
リグレットに託していたペンダントを差し出される。もう戻ることのできない家の紋章が刻まされたそれを受け取ると、彼女の体温でほんのりと温かくなっていた。
「……ずっとあなたが持っていてもよかったのですけれど。この石は質のいいルビーですので、いつかここから出た時に売れば結構な値になりますよ」
「いえいえ、これはメロディ様が持っていてください! 大事なものだからこそ、私に預けたのでしょう?」
「……そうですね」
修道院に入る直前、たった一人だけメロディとの別れを惜しんだ祖母がこっそり持たせてくれたもの。
当時は貴族の証であるこれを手放してしまいたくて、けれどいつか売り飛ばすためだけに持ち続けていた。
けれどアントワネットたちと出会い、貴族への嫌悪も薄れて、ようやく祖母の思いも素直に受け入れられた。
だから万が一という時、アデーレ院長に奪われるのを恐れて、守るために手放した。
そして今はメロディの掌で、黎明の光を浴びて輝いている。
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